第12話 幸せの形

 あのあと。


 雰囲気的にヤバいと思った俺はなんとか未来さんを上がらせて自分も風呂から上がった。


 まったく、我ながら不覚だった。

 いくら美人でも親子ほどの歳の差、俺が自制すれば何事も無いと思っていたのだが...。


 そんなことを考えながらリビングへ行き寝落ちてる幸子をお姫様抱っこして寝室まで運ぶ。


「本当同い年に見えないよなぁ、寝顔はまるで天使だ」


 もちろん未来さんに比べれば小皺などありはするのだが十分どころか十二分に魅力的だし抜群のスタイルで今寝巻きに隠されているが顔だけじゃなく身体も瑞々しくて美しいのだ。


 そんなことを考えていたり幸子を抱き抱えていたり...風呂場でのことを思い出しているとついつい股間がムクリと反応しかける。


 おい俺自身ジュニアよちょっと待て!今で反応した!?


「う、うーん」


 幸子の声に我に帰った俺はそのまま寝室へ、ベッドに幸子を横たえると布団をかけて。


「おやすみ」


 とリビングへ戻る。


 さて困ったぞ、俺はどんな顔してリビングに行けば良いのか?

 大人ぶって。


「やあ、さっきは失礼したね、君があまりにも魅力的で」


 いかんいかん、これじゃ口説いてるじゃないか。

 ならば説教?


「未来さん!あんな無防備な事してはダメです!一年前のことを忘れ...」


 コレもダメだ!そもそも一年前のことなんか掘り返すべきじゃ無い!

 ならばバカのふりして!


「あははー!お○ん○んたっちゃったー!」


 馬鹿じゃねえの!?俺!

 むしろ馬鹿通り越してやべえやつやん!


 ええい!色々考えてても埒があかない!


 俺は覚悟を決めるとリビングに飛び込んだ。


「あ!昭彦さん、お母さん運んでくれてありがとうございます」


 未来さんは落ち着いた様子でそう言った。


「大したことじゃ無いよ、あー...未来さん、さっきの風呂の事なんだけど」


 俺がそう切り出すと未来さんは。


「私、嬉しかったです!

 あんなにアピールしたのに昭彦さんちっとも焦ってくれなくて。

 でも私でもちゃんと対象に見てくれて、私...自信無くすところでした」


 物は言いようとはいうがそう言われてしまうと否定するのも失礼か?

 ならば俺が言うべきは...。


「未来さんはとても魅力的だよ、だから誰も彼もを誘惑するような態度とかしちゃダメだよ?」


 俺は『さっきみたいなことは控えて欲しい』と言う意味を込めてそう言った。


 それを聞いた未来さんは。


「はい!大丈夫です!明彦さんにしかしませんから!」


 と答える。


 そうじゃない...そうじゃないんだ!

 でも何かちょっとだけ喜んでる自分がいて複雑だ。


 その後は少し話して寝酒程度のビールを飲んでから就寝した。


 …


 翌朝。


「昨日はごめんね、うれしすぎて変な酔い方したみたい」


 起き抜けに幸子はそういうとキスをしてきた。


「大丈夫だよ、メイクも未来さんが落としてくれたしぐっすり眠れたならそれでいいじゃないか」


 俺がそういうと幸子は。


「あの子にも迷惑かけちゃったみたいね、寝る前の事はよく覚えてないんだけど」


 というので。


「無理に思い出さなくてもいいんじゃないか?昨日は楽しかった、で」


 変に思い出されると俺が未来さんの胸を見た事とか色々めんどそうだ。


「それもそうね、ねえさっきシャワー浴びてきたしちょっとだけイチャイチャ...」


 幸子がそう言った瞬間。


 ガチャ


「おはようございます昭彦さん、お母さん!

 朝食の準備が出来ましたよ」


 と未来さんが入ってきた。

 わざとじゃないよね?


「あら、早かったわね。

 それじゃいただきましょうか?」


 ちょっと残念そうながらそう言う幸子と。


「おはよう未来さん、朝食作ってくれたんだ?ありがとう」


 そう答えた俺はベッドから出てリビングへ向かった。


 ...


「じゃーん!昨日は和洋折衷みたいになってしまったので今日は和食です!」


 そう言って未来さんは料理を披露する。


「おお!ご飯に味噌汁、ほうれん草のおひたしとメインは...ワイン仕込み鯖か!」


 俺がそう言うと未来さんが。


「正解でーす!昭彦さんが好きだってお母さんから聞いたので焼いてみました」


 ワイン仕込み鯖、知る人ぞ知る逸品である。


 元々は長崎は佐世保の干物業者の津田水産が作っている人気NO.1メニューなのだがワインに漬け込む事で鯖特有の臭みはまったく気にならずしかもめちゃくちゃ美味い。


 福岡にもリヤカー部隊で有名な西新から7キロほど南に下ったところに直営店があり車ならすぐだしバスでも西新から30分前後で行けるので暇があれば買ってストックしてあるのだ。


 お値段も5枚入りで約1000円とリーズナブルだし冷凍販売してあるので保存も効いて解凍せず焼くだけでうまいサバが食えるという素晴らしい商品だ。

 難点を挙げるとすればうますぎるので冷凍庫を圧迫してしまう事ぐらいか?


 ネットで検索してもすぐに通販が出てくるので九州外の人でも気軽に楽しめるのだが直営店にはちょっとした傷がついたりサイズが少し小さかったりなどの規格外の干物が格安で売ってたりあうるのでついつい足を運んでしまうのだ。


 まあ規格外は安くて人気なので午前中で売り切れる事もしばしばなんだけど。


 そんな美味しい鯖が朝食なので一枚を3等分。


 3等分といっても元々が立派な鯖の半身なので一人当たりの量は一般的な焼き鮭の切り身より多いぐらいある。


「ふふっ、昭彦さんって美味しいものの前だとちょっと子供っぽくなるんですね」


 そう未来さんに言われてちょっと恥ずかしくなった俺はコホンと咳払いして居住まいを正そうとしたのだが。


「こう言うところが可愛いのよねー」


 と、幸子に暴露されたので諦めて。


「美味しい物はテンションあがっちゃうからしょうがないだろ?

 そんな美味しい朝食が冷める前にいただこう」


 と、席についた。


「いただきます」


 まずは味噌汁、とお椀を持ち一口。

 カラカラと小気味良い音がする。


「驚いた、アサリの味噌汁か!」


 所謂貝汁、アサリの出汁が効いていてそこに白味噌の旨み。

 俺の一番好きな味噌汁だ。


「昭彦さんの好物だってお母さんに聞いたのでちょっと買ってきたんです、24時間スーパーすぐそこですから」


 と嬉しそうに言う未来さん。


「でも朝から大変だったろう?砂抜きとか」


 俺がそう言うと未来さんは。


「50℃のお湯でやれば結構すぐ抜けるんですよ、美味しいですか?」


 と聞かれたので。


「無茶苦茶美味い、幸子も料理上手だけど未来さんも凄いな」


 そう言いながら貝の身を堪能してまたひとすすり。


「ふふふっ、嬉しいです」


 おひたしを食べてさっぱりしたところでメインの鯖。

 相変わらず脂が乗っていて美味そうだ、箸で掴むとホロリとほぐれるジューシーさ。


 パクっと一口。


「安定の美味さだな!焼き加減もちょうどいい!」


 俺は白飯をかきこむ。

 さっき難点は冷凍庫を圧迫する事だといったな?あれは嘘だ。


 この鯖の1番の問題点は美味すぎて飯も酒もいくらあっても足りないぐらいってところだった。


「ふー、ご馳走様」


 美味すぎる朝食に朝からおかわりまでしてしまった、朝はあまりガッツリ食べるタイプじゃないんだけどな。


「お粗末様でした、喜んでいただけたようで良かったです」


 そう言って未来さんはにっこり微笑んだ。


「本当腕を上げたわね、一人暮らしさせた甲斐があったのかしら」


 幸子も笑顔でそう言った。


 あれ?今俺幸せの絶頂期なんじゃね?

 美人の嫁(予定)、可愛い娘(予定)、美味い朝食(確定)。


 そんなふうに休日の朝を噛み締めていると幸子が言った。


「じゃあ今日はみんなでドライブがてら熊本行って未来の荷物運べるだけ運んじゃおうか?」


 と。

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