第8話 最初のプレゼント
「ご乗車ありがとうございます、次は西鉄グランドホテル前」
ピンポーン!
バス停に止まり降りる俺たち。
さっきバスの利便性を語った俺たちだったが天神近辺は行き先、到着先によって沢山のバス停があるためある意味初見殺しである。
まぁ旅行者とかでなければ使うバス停は決まってくるし不安ならバスセンターに行けば問題ないのだけど。
「じゃあまずパルコに行きましょう」
未来さんに言われてパルコに向かって歩く。
「パルコ...パルコかぁ」
元熊本県民にとってパルコというのは大きな意味を持つ。
九州の玄関口は福岡だが中心は熊本、地理的意味もあり昔はそういう声がよく聞こえていた。
時代の流れから中心も福岡に集まっていく中で熊本にはパルコがある!っていうのが心の支えだったのだが...。
福岡にもパルコが出来熊本のパルコが老朽化で撤退したため熊本県民はパルコ自慢どころか立場が逆転してしまったのだ。
そんな九州のお家事情は置いといて俺たちはパルコに入る。
入り口のイベント掲示を見るが今は大きなイベントはやってないようだ、時々爬虫類展とか毒のある生き物展とか始めてしまうからパルコは侮れない。
「ちょっとアクセサリー見ていいですか?」
未来さんが聞いてくるので。
「もちろん」
と答えると未来さんはウキウキでアクセサリーを売ってる店に入っていくので俺は一歩下がった距離で着いていく。
カップルじゃないから真横にいても見るのに邪魔になってしまうし店外で待っていたら感想など求められた時にわざわざ入らなければならなくなる。
それで身につけたのが「一歩下がって着いていく」というテクニックだ。
「ねえパパ見てみて!これ可愛い!」
未来さんが見せてきたのはピアス、黒猫のシルエットに目の部分に石...ラインストーンかな?キラッと光っている。
「へー、可愛いな」
同じ種類でポーズ違いが数種類あるみたいで座り猫、立ち猫、飛びかかり猫などどれも可愛いデザインだ。
「んー、どれにしようかなー?」
未来さんはポーズを見比べて選んでいる。
「どれも可愛いから悩むところだね」
と言ったところでふと思った。
「じゃあ全部買っちゃおう、服や出かける先で組み合わせて使いたいでしょ?これぐらいなら俺からプレゼントするからさ」
一個1000円、3つでも3000円だ。
「えー!本当ですか?ありがとうございます!」
俺は3種類の猫を持ってレジに向かい会計を済ます。
「はい、帰福のお祝いだ」
そう言って手渡すと。
「ありがとうございます...昭彦さん...」
と、ギュッと胸の前で握りしめる。
...
「どうですか昭彦さん?」
早速化粧室でピアスを変えてきた未来さんに感想を聞かれる。
「おー、似合うなぁ。
飛びかかり猫か」
俺がそういうと未来さんは。
「昭彦さんからプレゼントをもらって上機嫌な心境に合わせました!本当に嬉しいです!」
そう言ってニッコリ微笑んだ。
「それじゃあ並ぼうか?」
そう言って俺たちは地下に降りていく。
時刻はまだ11:00お昼にはちょっと早い時間だけど...。
降りた先にはもう行列が出来ていた。
元々同名の焼肉店があるのだがパルコ内にあるハンバーグ専門店はいつ行っても行列ができているので有名だ。
折角天神なのでここでお昼を食べようというのが未来さんの提案だった。
地下の飲食街なので周りには丼物やスイーツの店があるのだがそれに見向きもせず列に並ぶ。
一昨日の別れ話など無かったかのように小説の話や熊本の話で盛り上がっているうちに順番が回ってきて席へ。
いつもの如く厨房で賄いを食ってるような店内だ、本当に味で勝負する店だ。
「やっぱり美味いな」
ナイフで切って一口、上質な肉を叩いて作られたハンバーグは食べやすい極上のステーキとも言える。
「いつきても美味しいですね」
未来さんもその味に舌鼓を打つ。
大満足の昼食を終え俺たちは地下街を移動する。
初見では迷いそうな地下街なのだが天神を回るには雨や外気に影響されず便利な存在だ。
地下鉄の天神駅と天神南駅の遠さだけはなんとかしてほしかったところではあるのだが。
パルコを出た俺たちは一路北へ、ミーナ天神に向けて歩く。
元々はダイエー系列で昔福岡に来たことがある人なら「松屋レディス」と言った方がわかりやすいかも知れない。
元の名の通り女性向けファッションメインのビルだ。
その横に専門店街のノース天神さらにその横にイオンショッパーズ天神がある、元のショッパーズダイエーだ。
キャナルシティや三越、阪急なんかも出来た福岡だが昔から住んでる人にはこの3軒は馴染み深いらしい。
まあ越してきて1年の俺は全部聞いた話なんだけどな。
...
「昭彦さんみてください!これ無茶苦茶可愛いです!」
アクシーズファムの店内、試着室から出てきて俺に見せる未来さんに、たしかに可愛い服だけど...。
「いい服を美人が着るとまた映えるもんだね」
俺がそういうと未来さんは顔をちょっと赤くして。
「ふふ、うれしいな。
昭彦さんのそういうところ好きですよ?」
と、上目遣いで言う。
俺としては素直な感想を言っただけなんだが。
その後数着試着したあと2点で悩んでたので。
「どうする?それも両方買ってあげようか?」
と言うと未来さんは。
「いえいえ!とんでもないです!そんなにプレゼントもらうわけにはいきません!」
と言って悩んでいた片方を持って会計をしてしまう。
「別に良かったのに、ここすごくリーズナブルだから」
そう、アクシーズファムはフリルやレースを多用してる割にお値段控えめでお財布に優しいのだ。
昔付き合ったゴスロリ系が好きな彼女が買っていた服なんか同じようなデザインでお値段3倍ぐらいしてたな。
「いいんです!今日は自分で新作を買いに来たんですから!昭彦さんに付き合ってもらってるだけでも贅沢なんですからそんなにポンポン貰えません!」
未来さんはビシッとそう言った。
「それに...あんまり沢山買って貰うと猫ちゃんの感動が薄れちゃいますから...」
後半の言葉は消え入るような声でよく聞こえなかった。
その後俺たちはビル群の中をウィンドウショッピングしながら色々とみて回った。
セリアとダイソーの100均を見比べるのも意外と面白いしブックオフには古着もあって色々と楽しめた。
歩き回って疲れてしまい休憩しているともう時間は夕方、腹も減ってくる。
「今日はこのぐらいかな?食事して帰ろうか?」
と俺が言うと。
「じゃあ久々に福岡のラーメンが食べたいです!」
と未来さんが言った。
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