第7話 二人でお出かけ

 ジリリリン!

 食後ゆっくりしているとスマホが鳴る。

 俺ぐらいの年代だとガラケー時代に着メロ手打ちとかしてたから逆に今は呼び出し音は黒電話だ。

 ん?幸子からだ。


『もしもし?どうした?』


『やったよ昭彦くん!黒木くんがやってくれちゃったよ!』


 電話口でハイテンションで話す幸子、テンション上がりすぎて酔ってもないのにくん呼びになってる。


『ちょ、落ち着いて!

 何がどうやってくれたわけ?』


 俺の問いに幸子は。


『あの大地主さんの難物だった変形の土地!分割無しで買い手見つけてくれちゃったの!』


 マジか!アレ買う人見つけるってすごいぞ?


 土地を売る場合使用用途にもよるけどおおよそ四角いものが好まれるのは言うまでもない、特に俺たち企業担当であればビルが建てやすいとか駐車場にしやすいとか。

 そして件の土地はと言えば...面積はあるのだが幅5m、その5mの細い土地が区画の真ん中を十時に走った土地だった。

 むかし角の土地を売ったときに手違いがあったらしくいざ角地が整備されたら真ん中だけ5m幅で残ってたんだと。

 いざ分割しても道沿いに小店舗を作るぐらいしかできず4面全て売ってしまうと真ん中に死に地ができるという難物だ。


『へー、それはたしかに凄いな』


 俺がいうと幸子は。


『でしょー?だから買い手の気が変わる前に部長決済で仮契約でも結ぼうって話だったの』


 まさしく善は急げだったってわけだ。


『それで今日なんだけど彼の協力者というか買い手の紹介者も含めてお祝いの食事会でもってなったんだけど流石に部長代理でも休みの日の昭彦くんを呼び出したってなると違和感があるからあたしだけ出席って形にしようと思うの。

 昨日の今日で悪いんだけど夕食は未来と二人で取ってくれない?勿論外食してきてもいいから』


 図らずも夜まで二人きりが決定してしまった、これはある意味マズくないか?

 よし!幸子の提案に乗って外食に行こう!

 プリーズ人の目。


『わかったよ、こっちのことは心配いらないから楽しんでおいで』


 俺がそういうと幸子は。


『ありがと、愛してる』


 そう言って電話を切った。


「お母さんですか?」


「うわっ!」


 急にソファーの後ろから声をかけられて俺は驚く。


「あ、ごめんなさい!

 声かけようと思ったら電話中だったので待ってたんです」


 ああ、俺も電話に集中してたから気づかなかったんだな。


「ああ、幸子からだよ。

 朝飛び出して行った契約が仮契約取れたから今日はお祝いの食事会だそうだ。

 俺たちは外食でもしてくれってさ」


 俺がそういうと未来さんはキラッと目を光らせて。


「それなら今から出かけませんか?

 買いたいものもあるしお昼も外で食べましょう」


 未来さんにそう言われて思い浮かぶ。

 考えてみたら久々の地元なんだよな、よし!今日は彼女をエスコートするか!


「じゃあ今9時半だから10時には出かけようか」


 俺がそういうと未来さんは。


「やった!準備してきます!」


 と言って部屋に駆けて行った。


 ...


「お待たせしました!」


 玄関に降りてきた未来さんはフリルとレースアップがついた服を着てきた。


「どう...ですか?」


 感想を聞かれて俺は。


「良いね!可愛い服で未来さんにぴったりだ」


 そういうと未来さんは。


「良かったぁ、最近新作を買えてなかったんですけどこのデザインが好きなんです、アクシーズファムっていうブランドなんですけど」


 おお!これが元祖童貞を殺す服って奴か。

 ネットで見たことあるぞ。


 露出の多い物を童貞を殺すとか最近だと定義されてるけど本来こういう物だよな、まぁ未来さんが着たら童貞じゃなくても殺されそうだけど。


「へぇ、有名なとこだよね?福岡にもあるの?」


 俺が聞くと。


「ミーナ天神にありますよ、昔はマリノアとか木の葉モールにもあったんですけど」


 というので。


「じゃあ後で寄ってみようか?まずは天神に出てみるか」


 そう言って玄関を出ると未来さんは。


「嬉しい!ありがとうございます!」


 と言いながら俺の腕に飛びついてきた。


「あのー、未来さん?なんか当たってるんですけど」


 俺が言うと未来さんは。


「もー、そう言うのじゃないです!」


 と、怒ったフリをする。


「でも前はこんなふうにスキンシップなんかしなかったじゃないか?」


 と言う問いに未来さんは。


「だってあの時は独身で彼女持ちのお兄さんだったじゃ無いですか、私だってそのくらい弁えてます!」


 と、フンスと胸を張るのだがそうすると一層腕に感触が来るので控えていただきたい。


「じゃあ今は?」


 と聞くと。


「昭彦さんは私のパパさんだから娘として甘えてるんです!

 ダメ...ですか?」


 と上目遣いで聞いてくる、ちくしょう!可愛いしそう言われたら断れないじゃないか!


「歩きづらいからもう少し軽めでお願いします」


 ぎゅっと腕を握り締められていたのでそこだけ注意すると未来さんは少しだけ力を緩めて。


「ふふっ、パパさんとデートです!うれしいなっ!」


 とはしゃぐのであった。


 子供好きと言いながらも俺と幸子の年齢を考えると妊娠出産に若干高めのリスクがあることを考えると大きいけど娘が出来るってのも悪くないかな?

 などと考えながら俺たちはバスを待っていた。


「しかし福岡のバスって便利だよね」


 俺は福岡に住んでから一番実感した感想を言う。


「そうですねー、私は生まれた時からこれだから別の県とかでバスに乗ると逆に不便に感じますね」


 よく聞く話だが福岡のバスは細かいところまで網羅している上におおよそ時間通りやってくる流石天下の西鉄、昔はライオンズを持っていた大企業だ。


「西側の昭和バスのテリトリー以外は大体網羅してるもんな」


 その西側も市営地下鉄から直接JRにつながっているので不便さはそこまで感じない。


「昭彦さんは住んでみてどう思いました?」


 と言う問いには。


「そうだな、住みやすい街だと思うよ」


 そう答えた時には天神行きのバスが到着したので俺たちはそこに乗り込んだ。


 ...


 なんでバスの中って眠くなるんだろうな?

 俺の横に座った未来さんは俺に寄りかかってすうすう眠っている。

 安心してくれるのは嬉しいけどもうすぐ天神に着くから起こさなきゃだな。

 揺すって起こそうと思った瞬間未来さんは寝言で。


「ふふっ、誰にも渡さないんだから」


 と言った、きっといい夢でもみてるんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る