第6話 猫の習性

「おはよーございます」


 翌朝、リビングへ降りてきた未来さんが挨拶してくる。


「おはよう未来さん、よく眠れた?」


 家を出たとは言えまだ大学生だった未来さんの部屋はそのまま残されており昨日帰ってこいと言った時点で幸子が掃除していたので普通に寝泊まりどころか生活できる状態だった。


「久々の実家でゆっくりできました、あれ?お母さんは?」


 土曜の朝、会社は休みなのに不在の母親に不思議顔の未来さん。


「ああ、さっき電話がかかってきてね土曜出勤で内覧を担当してた部下からヘルプがかかったんだ。

 未来さん帰ってきてるから俺が行こうか?って言ったんだけどどうやら部長決済が必要な案件らしくバタバタ出かけて行ったよ」


 マズい感じじゃ無かったから良い方の緊急だったら良いんだけどな。


「ふ〜ん、じゃあ今日は二人っきりなんですね」


 ふふっと微笑んでソファの横に腰掛ける未来さん、こう言う表情をされると見惚れる程の美少女だな。


「あー、そうだ!昨日のアレ!どういうつもりなんだ?」


 幸子が居ないのでこれ幸いと未来さんに問いただす。


「え?私昨日何かしました?」


 悪びれもせず答える未来さん。

 まさか酔ってて覚えてないとかか?


「ほら、途中俺の方に寝落ちしてきて膝枕になっただろ?その時後頭部で俺のアレを刺激してきただろ?」


 俺がそう指摘すると未来さんは少し考え込んであっ!という顔で。


「思い出しました!私酔っ払っちゃってあの時猫になった夢を見てたんです!」


 猫?


「それで匂いつけの真似してたんだとおもいます、もう会えないと思ってた昭彦さんに会えたから甘えちゃおうって感じで」


 猫の匂いつけってなんだ?


「あれ?知りませんか?猫が飼い主の足とかに擦り寄るじゃないですか、あれって自分の匂いをつけて安心したり飼い主への愛情表現とかでやるんですよ。

 夢の中で猫になってたからついついスリスリしちゃったんですね」


 ふむ、理屈は通ってる、けど...。


「じゃああのウィンクは何だ?あんまり幸子に邪推されそうな事は控えてほしいんだけど」


 俺がいうと未来さんは。


「夢から覚めたら昭彦さんの顔があるじゃないですか、それで自分の状況を確認したら昭彦さんに膝枕されててそれで照れ隠しにウィンクしただけですよ」


 未来さんはクスクスと笑う。


「それでもなぁ...幸子に見られてたらどうするんだよ?」


 という俺の問いに。


「大丈夫ですよ、お母さんからは角度でしたから」


 え?どういう事?


「私はお母さんと昭彦さんの仲を引き裂こうとか考えて無いですから、ちょっとした茶目っ気ですよ」


「...それにお母さんと昭彦さんが別れちゃうと私も会えなくなっちゃうし」


 ん?返事の後に何か言ったか?


「まあ甘えてくれるのは良いけど度が過ぎるのは勘弁してくれよ、あ!そうだ、未来さん帰ってくるのは良いけど大学...」


 ポスッ


 俺が問いかけようとすると俺の横に座っていた未来さんが倒れかかってきてまたもや膝枕状態に。


「お、おい?」


 俺が戸惑いながら言うと未来さんは。


「甘えるのはいいんでしょ?」


 と、上目遣いで聞いてきた、くそ!可愛いな。


「そうだ、大学だけど卒業は大丈夫なのか?」


 俺が問いかけると未来さんは。


「大丈夫ですよ、単位も卒論も終わってますからあとは卒業式に出るだけです。

 もう熊本の部屋も引き払って式の時だけ行けば良いかなって」


 そう答える未来さんに俺はつい頭を撫ぜながら。


「そっか、真面目に大学通ってたんだね」


「ふえっ!?」


 急に撫でられたからか変な声を出す未来さん。


「おっと悪い、嫌だったか?」


 俺が謝ると未来さんは。


「そそそ、そんな事ないです!むしろウェルカムですから!」


 と、頭から離しかけた俺の手を掴んで自分の頭にもどす。

 それならばと再び撫でていると未来さんが。


「昭彦さんの事...もっと知りたいです。

 私が知ってるのはサイトで小説を書く昭彦さん、それと小説仲間の女の子に対する昭彦さんだけ。

 小説のほかに何が好きかとか仕事中はどんな事考えてるかとかなんでこんなに撫で方が優しいのかとか」


 そう言う未来さんに俺は。


「じゃあ俺も未来さんについて知りたいな。

 俺が知ってるのは『フォーチュンさん』としての未来さんだけだから」


 そういうと二人目を合わせてふふっと笑う。


「さてと、キリがいいところで朝飯にしようか?幸子が味噌汁作ったところで電話があったからまだ食べてないんだ」


「じゃあ私ベーコンエッグでも作りますね、ご飯は...炊けてるからお米でいいですか?」


 未来さんはそう言うと立ち上がってキッチンに向かう。


「おいおい、実家とはいえ帰ってきたお客さんなんだから俺が作るよ」


 俺がそう言うと未来さんは。


「私お父さんの記憶がないからやりたいんです、は座って待っててね」


 ぐぬ、未来さんみたいな美少女にパパとか言われると違うパパを想像してしまうじゃないか。


 と、俺が一瞬の妄想をしている姿を見た未来さんはニヤッとして料理を始めた。


「おお!すごい!綺麗なベーコンエッグだな!」


 出来上がったベーコンエッグを見て俺は感嘆した。


「へへー、どうです?見直しました?」


 得意げな未来さん。


「見直すどころじゃない、黄身が綺麗に真ん中じゃないか!」


 そう、目の前には食品サンプルかと言うぐらい綺麗に出来上がった半熟ベーコンエッグがあった。


「ベーコンが漢字の井の形になってるでしょ?ここに黄身を載せると綺麗な形になるんですよ」


 ほほーと俺が感心していると未来さんが。


「昭彦さん丼物とか好きですか?」


 と聞いてくる。


「ああ、好きだよ」


 男は大体丼物が好きだ。


「じゃあご飯はこれで」


 そう言って未来さんは大きめの丼に少なめにご飯をよそったものを渡してくる。


「この上にベーコンエッグを乗せて黄身を崩してお醤油でどうぞ」


 おお!目玉焼き丼か!美味そうだ!

 未来さんに言われた通りに準備して...。


「いただきます!」


 まずは一口。


「うっま!」


 俺は思わず口に出した。


「美味しいですよねこれ、女の子の友達に言うと下品だとか行儀悪いって言う子も居るんですけどこの美味しさがわからない方が勿体ないですよね?」


 若干テンション高めで言う未来さん。


「そうだな、こういうのは男子の方が好きだろう。

 でもこんな簡単な材料でこんなに美味いもの作れたら男の子から高評価だな」


 俺がそういうと未来さんは。


「じゃあ昭彦さんからも高評価って事ですね」


 と、嬉しそうに言った。


「いやー、美味かった」


 未来さんが作ってくれたベーコンエッグ丼と幸子が作ってくれたお味噌汁で大満足な朝食を終えた俺はふと思いついてスマホを取る。


「えーっと、猫、匂いつけっと」


 頭に残っていたのでつい検索をする。


 なになに...猫が飼い主にスリスリして匂いつけをするのは飼い主への愛情、自分の匂いを広げる事で安心するため...ふむふむ。

 それから縄張りやを主張する為...え?気のせいだよね?

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