第5話 小悪魔覚醒

「フォーチュンさんどういうこと?最初から知ってたの?」


 幸子が風呂場に行ったのでに小声で問う俺、いまだに頭はパニックだ。


「そんなわけないじゃないですか、本当にただの偶然ですよ」


 と、小声で返してくるフォーチュンさん。


「だけど気まずくないのか?ここに帰ってくるの。

 何なら俺が出て行ってもいいんだけど」


 俺がそう言うと彼女は。


「気まずくなんかないです!それとも何ですか?お母さんを捨てるつもりですか?あたしみたいに!」


 ズキッと胸が痛んだ、年のせいではないはずだ。


「それに私ももう会うつもりはありませんでした、昭彦さんと会えなくなるのも運命なんだって泣いちゃったのは確かですけど...」


 彼女は暗い顔をして俯くとパッと顔を上げて。


「ここで昭彦さんに出会えたのもまた運命なんだって思います!」


 うん、すごくいい笑顔だ、俺の心はボロボロだけど。


「でもさ、フォーチュンさん」


 俺が問いかけようとすると彼女は。


「ここはサイトじゃなくてリアルです、未来みらいって呼んでください」


 呼び名を修正されてしまった。


「だからさ、未来さん...どうした?」


 急に顔を隠した未来に俺は混乱した。


「名前で...よばれちゃった...嬉しい」


 頬を染めてニヤニヤとしている彼女をみて不覚にも可愛いと思ってしまった。


「おほん!昭彦さんに言っておきたいことがあります!」


 改めて宣言する彼女に俺は。


「何?どうしたの?」


 そう聞くと彼女は。


「あなたと二度と会わないといったフォーチュンは死にました!別にアカウントを消すとかじゃないですからね?

 フォーチュンとしては会えませんが可愛い娘(予定)である未来としてこれからは接していきます!」


 いや邪魔しないように会うのを控えるって言ってた親孝行の娘さんどこいった!?


「なーのーで!今は流石に無理でしょうけど後々はさんとかちゃんとか付けずに『未来』って呼び捨てにしてくださいね!」


 グイグイくるなぁ、昨日と大違いだ。


「あ、言っときますけど幼い頃にお父さんを亡くしているので未来はパパ大好きっ子になる予定ですから覚悟しておいてください!」


 ニコっといい笑顔で俺に宣言した未来、その時風呂場のドアが開く音がした。


 そそくさと姿勢を直す俺たち。


「あー、いいお湯だった。

 昭彦さん次入ったら?」


 幸子に言われて入れ替わりで風呂場に向かう俺、未来さんがおかしなことを言わないようにと祈りながら。


 サバーン


 身体を洗った俺は湯船につかって考える。

 幸子の娘の未来さんがフォーチュンさんだった。

 彼女が言うようにこれはあくまで偶然なんだろう。


 そして俺が彼女と会わないと決めた理由、一度だけだが彼女と体を重ねたことがあるという事実。

 ん?

 あれ?

 全くそんなつもりも無かったし知らなかったことなんだけど...。


 これって世に言うになっちまうのか!?


 うわー、へこむ。

 元来遊び人な俺ではあるがそこら辺のけじめはきっちりつけて遊んでたという自負がある。

 幸子と付き合い始めてからはフォーチュンさんの一回以外は付き合いでの夜のお店さえ行っていない。


「なんだろうなぁ...これからどうなっちまうんだ?」


 俺は風呂の中で唸っていた。


 ...


 風呂から上がるとそこは天国だった。


 いやリビングで母子がお酒を飲んでいるだけなんだけど幸子は俺が結婚を決めるぐらいの美魔女だしフォーチュ...未来さんは誰もがうらやむ美少女だ。


 単体で会っていても綺麗と思える二人が仲良さそうにお酒を飲んでいるのを見たら天使の集う天国と勘違いしてもおかしくはないかな?


「上がったよー」


 そう声をかけながらリビングへ入る俺。


「先に始めちゃったわよ?昭彦さんも飲むでしょ?」


 そういってビアグラスを掲げる幸子、泡の具合や雰囲気を楽しむ彼女らしいチョイスだ。


「わたしもいただいてまーす!」


 こっちはペースが速いのか若干酔ってきている雰囲気の未来さん、流石若者缶ビールをそのままだ。

 俺は冷蔵庫から金色の缶ビールを取り出してビアグラスを出しソファーに座る。


「あー!なんでそんなに端っこに座るんですかー!こっち来てくださいよー!」


 未来さんが自分と幸子の間のソファーをバンバンと叩く。

 そう言われれば断る理由もないので二人の間に座りなおす。


「あらあら両手に華ね」


 という幸子に苦笑いをしながらビールを注ぐ、綺麗な泡の為に3度注ぎだ。


「それじゃぁかんぱーい!」


 未来さんの号令の下にグラスを合わせる3人、一人は缶だけどな。

 色々悩んだりしたけどやっぱり風呂上がりのビールは美味いな。


「それで?どこまで話したっけ?」


 幸子の言葉に未来さんは。


「んー、最初は私が熊本の大学に行くから一人暮らしをするって話したのがきっかけってところかな?」


 おいおい俺の話かよ...って未来さんが帰ってきた経緯を考えたらそうなるんだろうけど。


 ピンポーン


 そんな時に鳴るチャイム。


「あ、来た来た」


 そう言いながら玄関に向かう幸子、帰ってきたその手に持っていたのはピザの箱だった。


「バタバタしてたし飲み始めちゃったから頼んでおいたの」


 悩みすぎててすっかり忘れていたけどよく考えたら夕食がまだだった、飲み始めた事も加味して腹の膨れるつまみとしてピザを取ったのだろう。


「お、このサイドメニューはもしかして?」


 俺の問いに幸子は。


「そ、プラス100円セットの時期だったから。

 おつまみにもちょうどいいでしょ?」


 地元のピザ屋のサービスメニューだ、ピザに100円を足すことでチキンとポテトが付いてくるんだ。

 このサービスの優秀な所はSならおよそ一人分、Lなら数人分とサイドメニューの量が増えるのにどのサイズでも金額はプラス100円というところだ。


「い~ま~な~ら~100円で~」


 地元の人気野球チームの三塁手が歌う歌をマネする未来さん。

 考えてみれば2年前まで普通に福岡に居たんだもんな。

 俺は去年こっちに来た時にCM見て驚いたけど。

 マッチなにやってんだー!?って。


「あー、そうだ!昭彦さん!3・2・1」


 未来さんから謎の号令が来る。


『ぴしゃ』


 ん?俺以外の二人が声を合わせて言う、なんだ今の。


「昭彦くんもまだまだねー」


 酔ってきたのか久々のくん呼びをしながら幸子がケタケタと笑う。


「じゃぁこれこれー!おーくまかばんてんぴょんぴょんぴょん!」


 未来さんが手でうさ耳をしながら歌う、可愛いな。


「バキューン!」


 なぜだ!なぜ俺は撃たれなければならないんだ!?

 幸子は普段見せないくらいに爆笑している。


「あははは、昭彦さんこれですよ!」


 未来さんが差し出してきたスマホに映っていたのは動画サイト、TVCMか?


「なるほど、ローカルCMネタだったのか」


 動画のタイトルは【福岡のローカルCM集めてみた】だった。


「昭彦くんあんまりTV見ないもんねぇ」


 幸子の言葉に俺はうなずく。


 昨今、ニュースやスポーツはリアルタイムで見るけどバラエティやドラマ、アニメなどはサブスク契約をしているサービスで好きな時間に見ているからTV番組は見ているけどTVからなぁ。

 話題のCMなんかはyoutubeでCMだけを見るという謎現象さえ起っている。


 どうせならとTVを起動してTVスティックを使ってyoutubeを見ながら酒宴は盛り上がっていった。


 途中、未来さんが寝落ちる感じで俺のほうに倒れてきて膝枕状態に。


「あらあら、すっかり気に入られちゃったわねぇ」


 あはは、と笑いながら談笑していると股間に違和感が。

 未来さんが後頭部でグリグリと刺激を与えていた。

 寝落ちたと思っていたが目は開いていて俺が視線を向けるとパチッとウィンクする。

 ったく、この小悪魔め。

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