第4話 悪質なドッキリ
「ただいまぁ...」
フォーチュンさんとの別離を済ませた俺は一路福岡へ。
幸子の待つ家へと帰り着いた。
「おかえりなさい!運転お疲れ様」
フォーチュンさんに会ったのは熊本出張のついで、ついででするには重い話だったけど何とか納得してくれたから良かったものの長引いて帰りが遅くならなくてよかった。
この家、こじんまりとした3LDKだが無くなった旦那さんが遺してくれたものらしい。
まだ新築のうちに亡くなられてしまったが住宅ローンの信用保険で残金の支払い義務が無くなり女手一つで子育てする幸子の家賃負担を無くしてくれた思い入れの強い家だそうだ。
なので俺がここに引っ越す事になったのだ、仕事柄家に対する思い入れなんかはすごく理解できるから。
「ご飯にする?お風呂にする?それとも...」
あまりにもベタな質問をしてくる幸子への返答はこれだ。
「お風呂でサッパリしてご飯食べてからレッツパーティだな」
こうして俺は最大の懸念事項をクリアして日常に戻った。
...
『もしもし』
昭彦が帰る数時間前、幸子の携帯から聞こえて来たのはご無沙汰している娘の声だった。
『どうしたの?珍しいわね急に電話してくるなんて』
幸子の問いに娘は。
『おかーさんごめん、卒業したらそっちに帰っていい?』
だんだん涙声になる娘に幸子は。
『どうしたの?熊本気に入ってるって言ってたしそっちで就職予定だったでしょ?それに好きな人も出来たって言ってたじゃない?』
母の問いに娘は。
『もう就職断ったぁ!それに好きな人にもう会えないって言われたぁ!』
電話口の向こうで泣き出してしまう。
普段はそんな事無い娘の様子に幸子は。
『あんた卒論は?ああもう!終わってないならそれも持って明日帰って来なさいもう単位は足りてたでしょ?大事な話だから面と向かってはなしなさい!』
そう言う母に。
『うん、わかった...帰る...。
ごめんね...彼氏さんいるのに...』
母から嬉しそうに報告されたプロポーズの話は娘も聞いていた。
『もう...気にしないでいいから帰ってくるのよ?』
幸子はそう言って電話を切るのだった。
...
「ねぇ...昭彦さん」
夜のパーティが終わって腕枕をしていると幸子が声をかけて来た。
「どうしたの?まだ足りない?」
満足させられなかったかな?と俺が問うと幸子は。
「違うの、娘の事なんだけど『お母さんが彼氏さんと結婚するなら邪魔しないようにこっちで暮らすね』って言ってたけど帰って来たいって電話して来たのよ」
俺は驚いた、顔を合わせた事はないが聞く限りとてもいい娘さんという印象がある、顔を合わせた事がない理由も俺と幸子の重荷になりたくないって言ってたらしいからな。
「でも向こうで就職決まってるって言ってなかったか?」
細かいことは聞いていないが大学の近所で就職するって話は聞いていた。
「それもやめて帰ってくるって言うからとりあえず明日一度帰って来なさいって言ったけど大丈夫かなって?」
会ったことは無いけど幸子とこの家を遺してくれた旦那さんの娘さんだ、大事にすれど邪険にする理由がない。
「もちろん平気だよ、会わないほうが良いなら出かけても良いし問題ないなら相談だってのれると思うよ」
俺がそう言うと。
「ありがと、大好き」
とキスをしてきた。
邪魔にならないようにと入籍しても何もなければ帰省の時にでも初めて会うと言うのが娘さんの主張だったみたいだけどいきなりになってしまうなんて驚きだ。
...
翌日、定時で業務を終わらせた俺と幸子は共に帰路についた。
家の前まで来ると窓にあかりがついている、そりゃそうだ娘さんにとっては実家なんだし鍵を持っていて当然だろう。
「帰ってるみたいね、あの子」
俺に向かってニコっと笑う幸子、若干の緊張があるのか笑顔がどこかぎこちない。
ガチャ
「ただいまぁ」
娘さんが居るので大きな声で帰宅のあいさつをする幸子。
パタパタとリビングから足音がして。
「おかえりなさい」
という声に幸子は。
「彼が私の彼氏の関さん、こっちが娘の未来よ」
という紹介を受けたおれは返事をすることを忘れていた。
初めて会うどころか昨日見た顔がそこにはあった。
「娘の未来です、はじめまして昭彦さん」
...
「あれ?あたし未来に昭彦さんの名前教えてたっけ?」
不思議そうな顔をしている幸子、もちろん教えてはいない。
「やだなー、お母さん『昭彦さんにプロポーズされたー!』ってテンション高めで言ってたじゃない」
嘘である、母は『関さんにプロポーズされたと』しか言ってない。
その一方で昭彦はフリーズしたままだった。
「まあ玄関で立ち話もなんだから上がって?って今は二人の家だったね」
その声に昭彦のフリーズが解けて動き出す。
「は、はは、はじめまして未来ちゃん」
リビングに向かいながら言う昭彦、あまりのショックに言葉に詰まる。
「うふふ、どうしたんですか?昭彦さん?あたしが可愛すぎて緊張してます?」
セミロングの黒髪を揺らしながら小首をかしげる未来は確かに可愛かった。
...
どうしてだどうしてだどうしてだどうしてだ?
おれはこんらんしている。
なんで家に帰ったらフォーチュンさんがいるんだ?ドッキリか?新手のドッキリなのか?
そんな心中を隠したまま俺はにこやかにソファーに座っていた。
「で?未来、どうして就職やめて帰ってくるなんてことになったの?」
幸子が聞いているが俺はうわのそらだ。
「電話で言った通り好きな人にもう会えないって言われて熊本にいるのが辛くなっちゃって」
ぐはっ!原因俺かよ!ってか幸子にはもう言ってあるのね。
「あら残念...優しくてかっこいい人だったんでしょ?」
いや、かっこよくはないと思うぞ、多分そこらへんに良く居る、例えるなら目の前に居るぐらいの顔でしかないと思う。
「そうなの!かっこよくて優しくて...それにほら、去年いきなり引っ越した事あったでしょ?あの時も襲われそうになった私を助けてくれて引っ越しの手配までしてくれたんだよ!?」
殺す気ですか?褒め殺す気ですか?いくら褒められても今針の筵なんですけど?
あとチラっとこっち見ない!バレるでしょうが!
「あらそうだったの...そんな人に会えないって言われたら...流石に辛いところね...。
でもなんで彼は会えないって言ってきたの?」
ヤバイ!フォーチュンさんそれ言ったら俺って特定されかねなくない?
「それがね...海外に行くことになったんだって...もう骨を埋める事になるだろうって」
流石にここはごまかしてくれるか。
「あらそう...残念ね...わかったわ、帰ってきていいわ...っとごめんなさい昭彦さんの意見聞いてなかったわね」
ここで俺に振るんですか幸子さん!
「ああ、いいんじゃないかな?ここは彼女にとって大事な実家だし俺は反対しないよ」
反対できるか!反対した瞬間ピッと指さされて「私をこっぴどく振ったのは彼です純潔も捧げました!」とか言われたら詰む!
「良かった、そう言ってくれるとあたしもうれしいわ。
あー、安心したしお風呂入ってくるわね、その間に親睦を深めてて頂戴」
そう言って幸子はバスルームに向かった。
親睦なら
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