第3話 あの夜
正直に言おう、俺はスケべだ。
するとなれば手は抜かないしそれこそ夜のお店であっても全力を尽くすタイプである。
目の前には瞳を潤ませた美人女子大生が俺のことを待っている。
以前であれば【据え膳食わぬは男の恥】とばかりにルパンダイブを決行するべきシュチュエーションなのだが俺の頭の中に浮かんでいるのは幸子の笑顔だった。
「やっぱり...汚いと思ってるんだ...」
起き抜けほどではないが表情を曇らせて俯くフォーチュンさん、浮気をしたいわけじゃないが今はこの子の心が心配なんだ、癒さなきゃ。
『それは、癒しじゃなくていやらし〜だろ?』
頭の中で某マンガの警備員さんの言葉が響いたが今はそんな状況じゃない。
「大丈夫だよ、君は汚れてなんかいないし、とても美しい」
そう言って俺は再度彼女に口づけをした。
ぱぁっと表情を明るくした彼女を見ると...ここで袖にして傷つける方が俺のポリシーに反する気がした。
『すまん、幸子、俺はこの子を傷つけたくない』
俺は100キロ以上ほど離れたところに居る彼女に謝罪をしながらフォーチュンさんを抱きしめながらベッドへとゆっくり倒れていった...。
チュン!チュンチュン!
外でスズメが鳴いている...。
「どうして本気を出してしまったんだ...」
翌朝俺は頭を抱えて呟いた。
横にはすうすうと寝息を立てているフォーチュンさん。
調べて欲しいと言う通り彼女は純潔だった。
割と早い段階で確認できた俺は彼女の破瓜の痛みが出来るだけ少なくなるように時間をかけて愛撫をして...そして結ばれた。
「初めてがあんな男じゃなくて昭彦さんで嬉しい!」
入念に準備はしたが流石に無痛とはいかず目の端に涙を浮かべながら笑顔でフォーチュンさんはそう言った。
正直ドキッとしたし嬉しく思ったが俺には幸子がいる、深入りはまずい。
「光栄だね、今の君も綺麗だよ」
そうは思っていたけど一度スイッチが入ってしまっている俺は初めての彼女を労りながら何とか満足させてあげることが出来た。
思わぬ大役だったがなんとか達成できたとはぁはぁと息を荒げる彼女から一度離れようとした時、彼女の足が俺をホールドした。
「昭彦さん...まだ満足してないでしょ?」
まだ身体を交わらせたままの彼女から抱きしめられてオレの中のギアが一段上がってしまった。
...
そして...今。
「はぁ...起きたらどんな顔すればいいんだよ...」
俺は再び頭を抱えるのであった。
「キャッ!おはようございます昭彦さん...昨日は...ありがとうございました」
下着さえ身につけていない自分に驚きながらも俺に礼を言ってくるフォーチュンさん。
「こちらこそ、君は大人になる手助けが出来て光栄だったよ」
悩んだ挙句俺が選択したのは所謂大人の対応だった。
彼女は一瞬表情を曇らせたがすぐにパッと顔を上げて。
「もう!その事もですけどあの男から助けてくれた事ですよ!」
いかんいかんその後が衝撃的すぎてすっかり忘れていた、そもそもあいつが原因だったんだ。
「どうする?警察に訴えるなら付き添うけど」
俺の問いにフォーチュンさんは。
「大丈夫です、友達とかじゃないし大学も別ですから。
あ!でもボーッとしてたけど昭彦さんあいつを殴ってましたよね?それって大丈夫なんですか?」
正直に言うと大丈夫ではないとは思うけど釘を刺しておいた方がいいかな?
「一応免許の写真と携帯の番号は押さえてある、君が大丈夫と言うなら昨日の夜の事は無かったこととして交渉しようと思うんだけどどうかな?」
俺がそう聞くと。
『私的にはなかった事にしたくないんだけどなぁ...』
何かブツブツ言っている。
そのまま俺が待っていると。
「あっ!それで大丈夫です!もう会う事も無いでしょうし昭彦さんにお任せします」
そう言ってにぱっと笑った。
「しかし家を知られているのはちょっとマズいな、大学後一年だろ、いい物件を探すから引っ越さないか?
もちろん費用は俺が持つから親御さんにだけ了承をもらってくれればだけど」
いかんなぁ...身体を合わすとどうしても甘くなる。
「そんな!そこまでしていただくのは!」
と彼女は遠慮しているが薬を使うようなやつに家がバレていては俺の方が心配でしょうが無い。
「俺の安寧のためだよ、フォーチュンさんが危険に晒されているままだと俺が心労で倒れちまう」
ははっと笑う俺にフォーチュンさんはモジモジしながら。
「お願い...出来ますか?」
と申し訳なさそうに言うので俺は。
「よし!それで決まりだからまずは服を着てくれないか?」
そう言うとくるりと後ろを向く。
布団は羽織っているけど若い全裸の女の子といつまでも話しているわけにはいかないから。
「きゃっ!もう、昭彦さんのエッチ!」
...
その後、薬野郎にお灸を据えながらも自分の暴力は揉み消しフォーチュンさんの引っ越しを終えた頃には俺たちは元の関係に戻っていた。
福岡と熊本、遠くはないが近くもない程々の距離で友人として付き合っていたのだが、今回の結婚に不安要素を残したくなかったので俺は「もう会えない」と言ったのだ...。
なかった事にはしたが流石に身体を合わせた女の子と結婚後も合うような真似は良くない。
「辛いけど...我慢します。
昭彦さんと彼女さんの邪魔はしたくないしあの日の事も昭彦さんの優しさだったとわかっていますから、でも!小説は読み合っても良いですよね!感想とか書きにいっても良いですよね!?」
俺が懸念しているのは抱いたことのある女性とリアルで会っていることだ。
「もちろんだよ、新作書き始めてるだろ?俺も読ませてもらうよ」
そう、元に戻るだけだ。
投稿サイトで切磋琢磨する仲のいい作家の関係に。
「良かった!昭彦さんの新作も楽しみにしてます!」
そして俺たちは元の関係に戻った。
桜の散る3月の事だった...。
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