四
変わり――?西野はそう言うと一旦ベランダから部屋に入る。それから、男を連れて出てきた。男は――ベランダからおれに向けて叫ぶ。
「お――市井、てめぇ久しぶりだなぁ。ぶっ殺してやっからなぁ」
「堂島――」
怒りや笑いすら通り越して、もうマジでどうでもよくなる。堂島は笑いながらおれを指さして、西野に腕を回して抱き寄せた。
「こういうことなんだ。実は、色んな知り合いに頼んで、ブルプラの人の番号教えてもらって、繋いでもらう準備してたんだよね。もう、途中からエリナの母親の彼氏を見つけるのは半分以上諦めてたし、保険かけとこうと思って。拉致されたおかげで阿久津くんとも繋がりができたしね。それで――堂島さんを紹介してもらった――ってわけ。市井くん家で、市井くんが寝た後、連絡して合流したんだ。堂島さんはセックスとお金があれば、いいっていうから楽だしね。ギブアンドテイクってこういうことじゃない?」
そんな西野の話を聞いて、再び堂島は勝ち誇ったように笑う。マジでむかつくけど、もうどうにもならなそうだし、どうでもいい。
まぁおれさ、ちょっと前に言ったよな?西野とブルプラの繋がりを作っちまって後悔してるって。それ、実はこのことだったんだぜ。複線回収ってこういうことだよな?
「ぶぁーか市井ぃ――おれら舐めてるからそういうことになんだよ」
堂島が勝ち誇ったように笑う。くそが、どうせ死ぬならマジでぶっ殺してやりてぇけど、もうそんな気にもなれない。力なく、この場に座り込んでしまいたい。そんな弱気な自分に思わず笑いがこみ上げる。
「はは――マジか、マジかよ。やっぱ、そういう子だったってことだよな。もっと疑うっていうか、気付くべきだったよな」
「そうだよ。彼氏捕まってるし、最初から言ってれば可能性はあるなんてさっき言ったけど、さすがに六年はエリナも待たないだろうから、もう意味ないことしてるなって思いながらも、良い子の演技するの大変だったんだから。霊感のない市井くんがその目でエリナを見た時点で、もう完全に諦めてた。主演女優賞ほしいくらい。それにね、エリナのお母さんのイマカレも大丈夫。もしも私までたどり着いても、市井くんと同じようにするだけ。私はそうやって生きてきたんだよ?でもまぁ――そもそも私は被害者だし、無理矢理市井くんに連れ回されてただけだから。警察にもそう言うし、実際に私はなーんもしてないしね。柊くんにもそう証言してもらうし。ごめんね、悪童とか呼ばれてると、こういう時損だよね、カッコいいと思うし、私的にはすごくいい人だったなぁって思うけど」
「ぶぁーーーか、お前はほんと馬鹿だよなぁ市井ぃ、はーっはっはっは」
ははッ――。笑いたいのはおれだよ堂島。もうまぁ――なんでもいいや。ああ、どうでもいいぜ。ただひとつだけ言っとくぞ西野。日本の警察も、日本のヤクザも、そんなんで通用するほど甘くないと思うけどな。もうあえて口にはしねーけど。負け惜しみになっちまうし、おれは実は怒ってないっていうか――。それよりも――。
「ははッ」
自分の感情に思わず笑いがこみ上げてくる。ここまで来てこんな感情になるなんて、おれはやっぱイカれてんだろうな。
「はっはっはッマジか、マジかよ――ッ」
ああいい、もうなんでもいい。馬鹿にするなりなんなり、好きにしてくれ。だけどな、堂島、お前だけは来世でマジでぶっ殺してやるからな。
「まぁそれでね、堂島さんと繋ぐ謝礼に、阿久津くんが匿ってほしいっていうから、家に匿ってる。阿久津くんぼろぼろだし、阿久津くんだけならなんとでもなるかなって思ってさ。だから、市井くんが家にも来ないようにして、市井くん家に泊まらせてもらうことにしたんだ。ないと思うけど、いきなり家とか来られても面倒だったから。だったら、近くに居ればいいかなって。阿久津くんと二人で家にいるなんて――まぁ嫌かなってのもあったけど。でも市井くんてほんと紳士だよね。別に、私いつでもセックス全然オッケーだったのに。悪童・市井時鷹とヤってみたかったし、どんな感じになるのか見たかったな。意外とドMでした、とかあるかもだしね」
なるほどなとおれは思った。確かに、阿久津だけならなんとでもなるだろう。まずは保険で阿久津を――んで、確定したから堂島を――か、ははッもう笑うしかねぇよな。
「――阿久津もそこにいんのか?」
おれがそう言うと、西野はまたくすっと笑った。
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