Ⅲ
西野は、エリナとの接触は避けるべきだと言った。そっちは西野に任せているからそれでいいと思う。エリナは相変わらず混乱していて、大切な情報はなかなか引き出せないらしいし。
それに、霊感のないおれがエリナと会っても、おれの精神が病むだけで意味があんまりなさそうとのことだった。おれが見た夢の話もしたけど、西野はエリナが母親に殺されたということになんとなく気付いていたようで、あまり驚きはしなかった。
エリナちゃんマジでそろそろ落ち着いてくれよ、マジで母ちゃんをそこに連れていって欲しいなら、多分おれと西野以上のコンビはいないぜ?
んでまぁ、おれもおれで、知り合いの少年課の刑事とかにこの辺で行方不明若い女の子とかいない?とか聞いてはみたけど、答はノーだし、あるにはあるんだろうけど、そんな曖昧な情報じゃ教えてくれないよな、普通。
刑事も面倒だろうからなんで?名前は?くらいしか聞いてこないし、おれもそれ以上は余計なことは言わない。間違いなく死んでいるんだろうけど、うまくは説明できないし、全部解決した時に、関与が疑われるからだ。いったって表に出てないだけで――殺人事件だからね。まぁ疑われっかもだけど。それはそれでいいや。
そして次に疑ったのが、すげぇ過去の事件じゃないか?ってこと。いやでも、それはないよなぁ、ラブラブ日記帳から考えたって、そんな昔じゃないだろうし、西野もまだ新しい霊とかなんとか言ってた気がする――。とは言いつつも、一応は調べる。母ちゃん捕まってたらアウトだけどね。さすがに刑務所に入ってたらおれも西野もあの世行きだ。
でも、西野はその可能性は少ないと言っていた。もしもすでに逮捕されているなら、法の力で裁かれているという事実は幽霊にとっても大きいらしく、そこまで強い霊にはならないらしい。それで納得する幽霊もいる――なんてこともあるみたいだ。
それと、更に言えば葬儀ってのはすごい大切なことらしく、母ちゃんが捕まっているなら、当然明るみに出ているはずであり、どんな形でも葬儀は行われているはず。
葬儀をしているならば、ここまで強い――人を呪うような悪霊になったのを見たことがないし、聞いたこともないと言っていた。葬儀とか、供養ってのは、すげぇ大事なことらしい。
西野自身も、可能性は薄いけどという前提で、それが望みなのかもしれないと言っていた。母ちゃんを自首させる…自分を供養させる…。
うーん、現実的じゃないよな。エリナと会って、ラブラブ日記帳みたいにごめんねってなって自首する――。
うん。イメージできない、そんなんならもう自首してるはず。しかも自首した先にすべてを解明するのに間違いなくおれが関わらないといけないから、説明も難しいし、そうなるとあんまり母ちゃんを痛めつけるわけにもいかなくなる。
まぁ――そんなことも言ってられないか。全部解決した後なら、おれは捕まろうがなんでも構わないから。
「調べごとはみつかったでありますか、時鷹氏」
そう言ってがちゃりと部屋に入ってきたのは、長門軍曹。そう、ここは長門軍曹の部屋。おれんちにはインターネットなんかないから、今日は冷暖房、そしてインターネット完備の長門軍曹の家にお邪魔をしている。長門軍曹の部屋はマジで涼しい。
部屋に入ってきた長門軍曹はお盆を持っており、その上には紅茶っぽいものが乗っていて、上品な匂いがした。んん、カスティラァーさんまで乗っているじゃありませんか、軍曹。
「ああ、悪ぃな長門軍曹。急によ。やっぱねぇなぁ」
何度もこの街の名前とエリナという単語と、行方不明だのなんだと検索しているけどまったくそれらしい記事は出てこない。
「時鷹氏のお役に立てるのであれば、小生、至極光栄の極みであります。ささ、我が親愛なる母からカステラと紅茶の支給品を預かって参りました、どうぞどうぞ」
「あ、ありがとう」
長門軍曹がこんなんだから、両親もぶっ飛んでるのかなと思っていたけど、長門軍曹の母ちゃんは超いいママンだった。おれのような見てくれの少年を歓迎し、丁寧に接してくれた。そして、薄々は気付いていたけど、長門軍曹の家は金持ちだった。明らかに。
「差し支えなければ時鷹氏、最近――何をしているのでありますか」
「ああ――まぁ、なんつかーか。んーなんつーか、ね」
「失礼かとは思いましたが、萩原氏から少し聞いたであります。オカルト研究部の西野氏と言えば有名な方でありますが、時鷹氏が会いたがるとはそういった超常現象的なことでありますか」
萩原のホラーオタク野郎――とは思ったけど、まぁしょうがない。あいつがいなきゃ西野の存在を知らなかったし、長門軍曹は萩原と仲が良い。んあッ!カスティラァーさん甘ーい、これ絶対いいやつだろこれッ!こんなんうちのママン出してくれねーよ絶対。つうかうちにこんな高級品来ることないだろうなぁ。
「ん、あ――まぁな、おれみたいな奴が――とは思うかもだけど、マジで色々あってよ。意外だよな、やっぱ」
「意外と言えば意外なのでありますよ。気になりますが――小生は詳しいことは聞かないのであります。ですが時鷹氏、我々の力が必要な時はいつでも言って欲しいのであります。我々は腐っても天下無双、完全無欠の海浜高校生。ありとあらゆることに精通しているであります」
長門軍曹はそう言うと敬礼をした。その隙にカスティラァーさんをばくばくと頬張る。これマジでやべぇ。
「つったってなぁ――」
おれがそう言いながらも、関わらせるわけにはなぁと思いながらも考えた。長門軍曹達は亮介や山下とは違う。無理に西野に迷惑をかけたり、そこまでは首を突っ込んでこないだろう、最悪、恫喝して黙らせることもできる。
「時鷹氏、我々のネットワークは広いのでありますよ。是非、その時はご一考願うであります」
確かに――。萩原辺りには話してもいいのかもしれない。あいつはおれが言うなって言ったことを言いふらしているみたいだし、ホラーオタクの好奇心でラバーベイサイドの四○九号室で呪われてしまっても本望だろうし、自業自得だ。
だけどまぁそれは最後の手段だな。本当に煮詰まってから。まだ西野もおれもそこまでおかしくなるような呪いの症状は出ていない。おれもこの間夢を見たっきりだしよ、早く解決してやっからばんばん見せろやって感じなんだけどね。
ただ、大丈夫そうなことは頼んでもいいかもしれないな。でもそれも、どっちみちもう少し煮詰めてからかな。エリナが一体どこの子なのか、おおよその見当が付けば、こいつらや亮介を使ってもいいかもしれない。そうすれば、呪いはもう解けるんだから。
「あ――そん時、もしかしたら頼むかもね。ただ、今はまだそんな感じでもないんだ」
「そうでありますか――」
長門軍曹はそう言って残念そうな顔をすると、カスティラァーさんの乗っていた皿をちらりと見て驚いた顔になり、それからおれの顔を見た。
「と、時鷹氏、小生の分の支給品は――」
「――…」
ああごめん、長門軍曹。全部食っちった。だって、うめーんだもん。
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