Ⅱ
「だ、誰もいないんですか」
少し緊張した声でそう言う西野を家へ招き入れて、リビングへと通した。外でまぁ話してもいいけど、ブルプラの奴らに家バレてるからあんま家の前には長居したくないし、外で話すってのもなぁ。中学生じゃあるまいしよ。うん、別にマジで自分のテリトリーに引き入れて――あの手この手ででって下心があるわけじゃねぇから。
「ああ、ほら、兄貴が死んで――そん時に彼女も死んだからよ。色々親もまだ忙しいんだよ。裁判とか、そういうこともあるみたいだし」
「そ、そうですか――」
西野に手でどうぞ、とソファーに座るように促す。西野は会釈すると、ぽすんとソファーに座った。
「んで、別にわざわざ来るようなことでもなくないか?別におれは西野がどんな奴だって問題ないよ。むしろ巻き込んじゃって申し訳ない気持ちしかないし」
「どんな――話でしたか」
「どんなってまぁ、なんつーか」
あんまり聞いたことをオブラートに包まずに直接伝えるのはどうかなと思った。たくさんの年上のおじさんと親しくしてて、援助交際もしてて、女ヤンキーの彼氏を寝取って、それでいじめられた女を呪いで殺した疑惑があって、更に、結構死んでるらしいじゃん、西野周りの人!とはなかなか言えない。
「私が、ヤリマンだとか、人の男に手を出すとか――援助交際しているとか。私をいじめていた人を殺した――とかですか」
「ま、まぁそんな感じだね」
どうやってオブラートに包もうか考えたけど、西野ははっきりと、オブラートに包むことなくそれを言った。
「でもまぁ、別にそんな真相はどうでもいいんだ。さっきも言ったけど、おれ達のやることに変わりはないだろ?」
「それはそうですけど――」
「ならもうこの話はよくない?真相はほんとどうでもいいんだ。別に西野がどんな奴でも、おれは頼るしかないし、まぁそんな悪い子にも見えないけどね」
おれはそう言って西野が買ってきてくれたコーヒーに口を付ける。うん、ブラックだけどうまいなマジで。最近流行のカップだけ買って抽出機で出すタイプのやつ。
「私は――そんな、どうでもよくない」
「え?」
「少なくとも、軽蔑はしますよね?そういう女なんだろうって」
「え、いや別にそんな――」
いきなり少しだけ西野の言葉の勢いが強くなった。いや、マジで別に軽蔑とかする必要なんかないし。
「それと、根底的な問題として、私は――市井くんに嫌われたくない」
「――…」
おれはその言葉を聞いて黙ってしまった。その意味を考えて。
「いえ、そういう――好意とか好きだとか、そういうんじゃなくて。い、いや、そういうのもまったくないわけじゃないんですけど。ただ、今回の件が終わりました、で他人に戻りたくない。友達であって欲しいし、こうやってこれからも――会って話したり――したい」
西野はしどろもどろにそう言った。この姿を見る限り、おれはやっぱり花ちゃん達が言っていたようなことは本当なの?と思ってしまう。明らかにこういうことに慣れてない。隠すのがうまいか、演技がうまいか――。その判断はつかないけど、おれには少なくとも演技には見えねぇ。
「別に――すべて解決したからってそんないきなり他人とかにはならないよ。少なくとも、その時は西野が命の恩人になっているわけだし。兄貴の件に関しても恩人だしね」
「そう言ってくれるのは嬉しい――」
西野が恥ずかしそうな顔をする。いや、マジか。マジでこれ演技の可能性あるの?え?マジでこの子噂になるような悪い子のなの?
「嬉しいも何も、事実じゃん。おれこそ――本当にありがとう。んでさ、本当にごめん。とりあえず解決するまではさ、一緒に――頑張ってこうぜ」
おれがそう言うと、西野は少しだけ嬉しそうな?自信を持ったような表情をしてテーブルに視線を落とし、強く頷いてから、表情と同じように――自信ありげな声で言った。
「――うん」
「頼むぜ、おれは馬鹿だけどやるときゃやるからよ」
「そんなこと――」
その後――おれは西野と色々な話をした。深夜まで、西野とおれの話は続いた。
要約すると、知り合いの女の彼氏に言い寄られたことはあるけど、寝取ったことはないし、援助交際なんかもしたことない。両親の客と会うことが多く、それをよく勘違いされていた――とか。その頃は両親のせいで自分が霊能少女として少し有名で、それを馬鹿にされたり、妬まれたり――なんてこともあったみたいだ。
自分をいじめていた不良の女は、本当に偶然の事故で死に、自分の周りが死んだ――なんてのは本当にただの噂だとはっきりと言っていた。
そもそも、自分に誰かを呪い殺す力などあるはずもなく、もしもそこまで強い能力があるのであれば、今こんなに苦労しないし、人が死ぬ呪いなんて、肉体を持つ――つまりは生きている人間には不可能らしい。仕組みもなんか話してたけど、まったくわからなかし、興味もなかった。
他にもまぁ色々聞いたけど、まぁ実はそんなに聞いてなかったんだよね。今言ったように、本当に別にどうでもいいことだから。興味ないもんそんなこと。
とりあえず今回の件を乗り越えて、その後西野というゆっくり人間を見てみようと思う。
見てみよう――なんて、ちょっと偉そうだけどね。まぁ言ってしまえば、おれとか亮介の方がよっぽど下劣な人間だよ。
ただ、西野が最後に言っていた言葉が、とても印象的だった。おれが、幽霊とかって怖くないの?と聞いた時だ。
「幽霊は怖くはない。慣れもあると思うし――。本当に怖いのは、やっぱり――人間かな」
一番怖いのは――人間、か。確かにそうかもと凄く納得した気持ちになった。
人間は単純に物理で攻撃してくるし、悪意もたっぷりな奴がすげーいるもんな。しかも、エリナみてーに寄らなくたって寄ってくる奴がいるんだもんよ。ブルプラとか。
いや、まぁでも幽霊も相当なもんだとは思うけどね。だってさ、強制的に呪ったするんだぜ、そんなんもうどうしょーもねぇじゃん。
ああ――おいおい、あんた、勘違いするなよ。両親が居ない家――やりたい盛りの高校生――ちょっとそんな感じにはなってない?と思っているかもだけど、いわゆるセック――…うん、そういうことは――ない。(実際はかなり良い感じだったけどね)あくまで西野はおれの恩人。それは揺るがない。西野に手を出したりしてないし、出すつもりもない。ちゃあんと話し終わった後すぐに家まで送ってったぜ?
おれはチャラく見えるかもしれないけど、身持ちは固いというか、そういうとこしっかりしてんだよね。意外でしょ?ちょっとかっこいいとか思ったりしてない?え?してない?マジかよ。お前それやべぇよ。基準あってないよ。
でもまぁ――一応、オナニーはするけどね。そりゃそうだろ?正味、ヤろうと思えばできたと思うもん。押しの一手があれば、多分できたよ。
でもよ、西野みたいな恩人とさ、しねぇやらねぇできねぇって言うのが、やっぱおれみたいな男のつらいとこで、かっけーとこだと思うんだ。
あんたも――ちょっとおれのことかっけぇって思い始めてないか?
だから、こんな話に付き合ってくれてるんだろ?
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