エリナ――。この街はさして広くはねぇ。あの四○九号室に置いてあったラブラブ日記帳から考えれば、そんな昔な話でもねぇ。本人の名前さえわかれば、あとはどうにでもなるはずだ。そりゃあ、ラバーベイサイドで何か悪いことを、やましいことをしたんだ。県外や遠くから来たって可能性もないわけじゃないけど――。

 間違いなく死んでいて、母親がそれに関与している。

 おれが動くにはそれだけで十分だ、年齢も名字もわからないけど、かたっぱしからその名前を聞いていけば、探していけばいつかぶつかるはずだ。

 さぁ、やるぞおれ。おえはできる奴だ、なんだかんだできる子なんだって小学生の頃はよく言われてたしな――。

「なぁ時鷹――」

 なぁんて意気込んでみたけど、結局どうすればいいかわからない。結局、学校に来たのはいいものの、西野の家に行ってから三日経った今、特に進展もなく――こうして体育館裏でぼーっとする日々。

「なぁ時鷹よ」

 やっぱり、おれも呪いを受けた方がいいかもしれない。受ければもっと必死になって良い案が出てくるかもしれない。それとも、やっぱ心の奥底では呪いなんてどこか半信半疑で、どーにかなるだろと思っている自分がいるのか。西野が更なるヒントを得るのを待って、それからでいいっしょとサボっているのか――。

「おい、時鷹。大丈夫か、顔溶けてんぞ。めちゃめちゃぶざいくになってんぞ」

「あ、ああ――」

 亮介は相変わらずデリカシーのない言葉を使う。顔溶けてるってめちゃくちゃ失礼じゃないか?言葉というには、時として大きな暴力になるんだよ。

「なぁ亮介――」

「あん?」

 煮詰まったおれは亮介に相談しようかと考えたけど、止めた。絶対におかしな薬に手を出していると思われるから。それか、馬鹿にはしないけど、ドンビキするだろう。だって、おれだったらそうなっちゃうもん。

「いや――なんでもない」

「あんだよ…なんかあんなら行ってみろよ。お前頭わりーんだから、考えたってしょうがねーだろ」

 亮介がそうぶっきらぼうに言う。ちょっとムカついた。マジでこいつ巻き込んでやろうかなって一瞬考えた。だけど、やめた。おれは優しいから。反論しようとする前に、亮介がまた口を開く。

「つーかさ――おれはあんま、細かいこと言いたくねぇけどさ」

 亮介はそこで言葉を止めて、咥え煙草でまっすぐ正面になる体育用具倉庫を眺めていた。ちょっと何かを言いたそうで、言いたくなさそうな亮介の珍しい表情。

「お前、なんかあったんだろ」

「何がよ?この前ブルプラとちょっと揉めたくらいだけど」

「いや――困ったことあんならさ、おれとか、ヤマにだって頼って欲しいんだよね」

 亮介は、明らかに何かをオブラートに包んで話していた。たまに、こいつはこういうところがある。勘が鋭いというか――あるいはなんか知っているか――。

 まぁ正直に全部話してーけど、巻き込みたくないだけなんだってば。どうせ頭おかしいと思われるだけだしね。

「いや――。まぁなんつーか、お前、この前あそこの――海岸通りのローボンでさ、ブルプラと喧嘩になった時、誰と居た?一人じゃなかった——よな」

「なんで?」

「いいから」

「いや、まぁ友達と居ただけだけど。友達っつーか、知り合いかな」

「――ん」

 亮介はそれだけを聞くとぷっと煙草を吐き出した。モラルのない奴だ。せめてちゃんと火は消した方がいい。おれは足を伸ばしてその煙草を踏んで消した。

「それがどうしたんだよ」

 内心、ちょっとドキドキしていた。あの日、西野と居たことを――その目的までも亮介は知っているのだろうか。別に隠し事ってわけではないけど、やっぱちょっとドキドキしちゃう小心者のおれ。

「いや、友達ってお前、おれしか居ないじゃん。正直に言ってくれよ、そいつ誰?女――だよな?」

 亮介の表情は、いつもと違った。仮に――おれが女と遊んでいても、こんな表情をするような奴じゃない。

 亮介の表情は、明らかに困惑というか――おれを心配しているような表情だった。その意図はわからないけど、想像するに間違いなくヤマ案件だ。ヤマがおれが女と夜に会っていることを知り、亮介を利用しているに違いないと推測した。

「ま、まぁ女の友達だよ。お前は知らない子だと思うけど。そんなやましい関係じゃねぇけどな」

「――…」

 亮介は何も言わずにじっとおれを見つめる。それが次に何を言おうか悩んでいるのか、おれの言葉を疑っているのかわからなかった。だけど、嘘は言ってない。西野は友達だ、むしろ、大切な協力者だ。そして、手も出してない。

「――なら、いいんだけどよ」

 かなり含みのある言い方だった。ふっと、亮介の表情が曇る。

「お、おい。なんだよそれ、おれマジでやましいことなんかねぇぞ」

「いや――」

 亮介はそう言うと立ち上がった。ズボンのケツをぱんぱんと叩くと、そのまま校舎へと向けて歩き出す。

「おい、なんだよ亮介。お前らしくねぇぞ。なんかあるなら言えよ」

「いや、まぁ――ただな。ちょっとしたお前の知り合いに頼まれててな」

「誰に?何を?」

 おれがそう言うと亮介は背中を向けたまま「はっ」と鼻で笑うような声を出した。亮介は振り返らないまま、言った。

「いずれわかると思うよ、おれからは伝えないで欲しいって言われてるからよ。ちょっと授業出るぜ。じゃあな、私の太陽くん」

「なんだそりゃ」

 亮介はおれの問いにはもう返事をせず、ゆっくりと手を上げてぶらぶらさせ、バイバイと言った仕草をした。

 え?マジで。マジでなんなの?ねぇ、おれの知り合ってそれヤマじゃねぇよな?おい亮介?それ、ヤマじゃねぇよなマジでッ!



 それからはもうヤマに会わないように下校をすることで頭がいっぱいだった。あの女に疑われたら、もうエリナを探すどころではない。むしろ、この件を根掘り葉掘り聞かれ、それに耐えられずおれが喋り、絶対に首を突っ込んでくる。

 ヤマと西野がうまくやれるはずもない。絶対にヤマが主導権を握りたがり、話をややこしくすること間違いない。

 駄目だ、もうしばらく学校からは逃亡だ。体育館裏からそのまま裏門へとこそこそと移動し、自分の愛車が停めてある場所まで向かう。そこまでには細くて長い階段があり、行きは辛いけど帰りは楽。つまり、学校からその場所へ行くときは下りの階段となる。

「――…」

 一番下まで降りた時――おれは露骨に嫌な表情になった。

「よぉ市井時鷹ぁ真面目に学校なんて行ってる場合じゃねぇだろーよお前よぉ」

 おれの愛車の周りに――。青い服を着込んだ野郎共が五人。しかも、おれにそう話しかけてきた男は、おれでも知っている男――。ブルプラの幹部、銀髪の鼻ピークソ野郎――阿久津。

「お――阿久津。なんの用?つうかお前みたいな口だけ雑魚がおれの名前呼ぶなよ、耳も腐るし、名前が可哀想だろ、おれの」

「いやぁ、マジお前ほんと変わらないなぁこんだけの人数相手にまだそんなクチ聞けるなんてよぉ」

「うっせーボケ。数で囲んで威嚇しますみたいなかっこ悪い奴に丁寧に接する必要なんかないべ。しかもお前らみたいななんちゃってカラーギャング共に」

「おお――ッみんな聞いた!?今の台詞聞いた!?カッコいいねぇやっぱ悪童――市井時鷹はさぁ」

 阿久津はそう言うと大袈裟に手を広げた。マジどうする、今やっちまうか。だけどこの前とはわけが違う。今日はこの前みたいな看板を借りたいだけのメンバーじゃない。五人全員が、明らかに威嚇をしてきてるし、明らかにやるつもりだ。

 阿久津のことはよく知っている。中学の時、隣の中学校の番格で、何度もタイマンを張ったことがある。勿論、阿久津に一回も負けたことなんかないけど、阿久津は面倒だ。すぐに刃物を出して人を刺したり、こうやって囲んで誰かをボコることになんの罪悪感もなく、躊躇もない。そしてそれで勝ったと言い放つ。まぁ喧嘩にルールなんてねぇけどさ、美学は一応あるよな?

「やってもいいけどよ、一人ずつタイマンにしてくんね?五人同時じゃ手加減できねぇからよ。マジで怪我させちまうかもしれねぇ」

「なぁに言ってんだよ市井時鷹。そんなわけないだろぉお前なんかやるつもりなら、家でもどこでもすぐにやってやれんだよ。そんなことよりこれだよこれ!」

「――あ?」

 阿久津はそう言うとおれに紙を差し出した。教科書くらいの紙。

「この前、ローボンでお前うちのメンバーやっただろ?その治療費と慰謝料だよ。なんかへんなオタクっぽい女も居たんだろ?そいつにも手伝って貰えばいいよ!身体でもなんでも売らせてさぁ。まぁ、うちは金さえ貰えればどうでもいいけどねぇ」

「――馬鹿じゃねぇかおめぇ」

 それは――その紙は請求書だった。ごちゃごちゃと文章が書かれているけど、金額だけがでかでかと書かれている。金百万円。

 馬鹿か。ふつふつと怒りが足元から沸き上がってくる。抑えきれないほどの怒りが。

「馬鹿はお前っしょ、おれらと揉めてタダで済むわけないだろ?おれはしつこいよぉ?」

 今は喧嘩どころじゃない、こんなうんこカラーギャング共と揉めてる場合じゃない。そんなことはわかってる、さんざんぼーっとしといて説得力ないかもだけど、今すぐにエリナを捜さないといけない。西野だって頑張っている。その、命を賭けて頑張ってくれている。おれの――せいで。

 こんなクソ共を相手にしている場合じゃない。それはわかっている。

 だけど、この沸き上がる怒りだけは――どうにも止められることはできねぇ。こういうクソ共には、おれがなんで悪童って呼ばれているか――身に染みて教えてやりたくなるんだッ。

「なぁ阿久津」

「んん――?」

「亮介がいなければ五人でこのおれがどうにかなると思ったのか?」

 その瞬間、喧嘩は始まった。浮き足立たないようにすでに臍の下に力を入れてゆっくりと深い呼吸をしてある。

 まずはこのクソ野郎、阿久津の顔面に思い切り掌底を入れた。

 ばちんと肉を撃つ音が響く。阿久津はそのまま膝から崩れ落ちた。相手は五人、痛むから拳は使わない。おれがどんなに殴るのがうまくても、裸拳で殴れば痛むし、当たり所によっては最悪骨が折れる。

「てッてめぇッ」

 そのまま一番近くに居たノッポバンダナの下腹部に前蹴りを入れて、体制が崩れた所を、そのまま左肘で顔面を打ち抜く。今度はゴリ坊主ん時とは違う。本気で入れた。当たった場所から嫌な感触が伝わる。多分、一発で頬骨がぶち割れた。だから言ったろ、怪我をするって。相手が多勢だと、手加減なんかする余裕はない。そんなことをすれば、今度はおれがマジでぼっこぼこになって地面に這いつくばるんだとよく知っているから。

 だけど、初手はここまで。少し離れてた三人はナイフと、短い鉄パイプを取り出した。倒れた阿久津の顔面に踵の踏み抜きを入れてからおれも距離を取る。母ちゃんごめん、こいつ殺したかもしれないって思う程の手応え、いや、足応え。

「ばーか、喧嘩する時は場所と人を選ぶんだな」

 おれはそう言ってから階段を駆け上る。あえて挑発したのは、愛車を守る為。おれを追ってきてくれないと、愛車にいたずらをするかもしれない。

「このガキッ――」

 怒声が響く。そのまま階段を上りきると、すぐに振り返った。確認する、一、二、三人。よし、下にはほぼ死んでる奴らしか残ってない。一番最初に上がってきたナイフ青チビタンクにそのまま思い切り前蹴りを入れた。

「ばぁーーか」

「ちょッ――」

 ナイフ青チビタンクは、そのまま階段を転げ落ちる。後ろの二人を巻き込みながら。それと同時に、今度は駆け下りる。途中で止まったナイフ青チビタンクの顔面をそのままの勢いで蹴り上げる。

 ナイフ青チビタンクが舞い、そのまま一番下まで転がり落ちると、残りの二人も階段から転げ落ちたせいか、地面で悶えていた。そこを逃さない、二人の顔面を蹴り上げ、二人とも撃沈させる。

「――…馬鹿共がよ」

 だから言ったろ、五人でおれがどうにかなるとでも思ったのか。この馬鹿ちんクソ野郎共が――。

「い、市井くんッ」

 その声に振り返ると、意外な人物で驚いた。

「は、花ちゃん。どったの、こんな所で――」

 おれがそう言うと、花ちゃんは倒れてるブルプラのメンバーと、おれを交互に見て、明らかに困惑していた。困惑どころか、今にもパニックで泣き出しそうになっている。そりゃそうだ、女の子がこんな凄惨な場面を見たらこうなるに決まってるよな。

「いやッあの、その――」

「花ちゃん、ごめん。亮介わかる?亮介とさ、タイラップ誰かに言って持ってくるように頼んでくれない?」

「りょ、リョウシュケくん、タ、タイパップ?」

 花ちゃんはマジでパニくっていた。あたふたと謎の地団駄ステップを刻み始める。落ち着いて花ちゃん。ね?こんな場所に君のような人が居てはいけないんだよ。

「タイラップ!つまり結束バンド!あと亮介!まぁ長門軍曹に言えばわかるから。ごめん、ダッシュで宜しく、今度お礼はするぜ」

 おれの言葉に花ちゃんは何度もうんうんと頷くと、花ちゃんなりに急いで階段を登って行った。階段を駆け上っていく、そんな花ちゃんをぼーっと見ながら思った。

 あ、花ちゃんのパンツ見えちゃった。水色パンツ。つうか、花ちゃん意外とスカート短くしてんだな。悪気はねぇ、すまん花ちゃん。


「はぁーーーいッばっしゃーーんッ!」

 バケツを持って降りてきた亮介は、いきなりそう叫んでブルプラのメンバーに水を掛けた。何人かはもうすでに起きていたけど、その水のせいでナイフ青チビタンクと、バンダナノッポと、阿久津はぴくぴくと身体を動かす。

「時鷹、拘束しちまおうか」

「ああ――」

 さっきまでの亮介とは違い、生き生きとしている亮介。鼻歌混じりにタイラップ――花ちゃんが理解できてなかったからちゃんと説明するけど、あのチキチキってなる結束バンドで手際よく全員の手首を締めていく。

「ふーんふーんふーん♪」

 うんいや、ちょっと締めすぎじゃないすかそれ。しかもそんなん何本も巻いたら血が止まるぜマジで。すでに手首変な色になってるし。

「うわー阿久津やっば。お前何したのこれ、入院コースじゃね」

「相手五人だぞ。思いきし踏み抜き入れた。手加減できなかった」

「さっすが悪童、おれの相棒だねぇ」

 おれの踏み抜きをもろに喰らった阿久津の額は、信じられないほどに膨らんで変色していた。改めて見て思う、まぁしょうがないかなとは思うけれど、ちょっとやりすぎたかな。これマジで頭蓋骨やってるくさい。

「てめぇら、こんなことしてただで済むと思ってんのかよ」

 比較的元気なノーマル青メンバーがそう強気な言葉を吐いた。あ――駄目だってマジで。亮介はおれみたいに甘く――。

「うっせぇんだよクソ野郎共がッこれから警察呼ぶからよ、お前らここ学校の敷地だからな、何されても文句言えねーだろ?武器まで持ってよ!」

「ぎぁッ」

 亮介はガタイがいい分、攻撃力が高い。そう言ってしまったノーマル青メンバーの顔面をバケツと共に持ってきた角材で容赦なくひっぱたいた。折れた角材が茂みに飛んで、がさりと鳴る。

 亮介曰く、角材はすごく良質な武器で、軽いから思い切り人間の顔面をひっぱたいても、死にはしないし、すごい威嚇になるそうだ。まぁ――おれにはどうしても君が使うとそうは思えないけど――。ノーマル青メンバーは「ぎぎぐう」と濁音多めの呻きを上げながら地面にのたうち回っている。

「まぁ、阿久津辺りどうせ叩けば埃でてくるだろ。おれは恐喝もされてるしな。しばらくちょっと鑑別で頭冷やしてくるといいね」

 亮介の警察に通報するという案は、それが一番いいと思う。過剰防衛――やりすぎとも取られるかもしれないけど、武器を持ったこの街に蔓延る凶悪なカラーギャングに恐喝されたんだ。やりすぎもクソもない。しかも学舎の敷地内で。目つぶしとか、金的とかしなかっただけありがたいと思って頂きたい。

「て、てめぇらマジでぶっ殺す、女も友達も、家族も的にかけてやんから…な」

 意識を取り戻した阿久津が虚ろな瞳をしながらそう言った。とどめを刺そうとする亮介を止めて、阿久津の前にしゃがみ込む。

「そうしたら、おれはお前らを殺す。嘘じゃねぇよ、マジで殺すからな。狙うならおれらを狙ってこい、したらいくらでも遊んでやるからよ」

「ぶ…っ殺す。堂島さんが出てくれば、お前らなんか――」

「駄目だこいつ」

 おれはそう言って呆れながら立ち上がると、階段を少し登った所に、花ちゃんが戻ってきていた。野次馬根性なのか、一回関わってしまったから、戻って来てしまった的な真面目な花ちゃんらしさのか。とにかく、この場面に花ちゃんは合わない。ヤマならまだしも。

「亮介、いたいけな女の子を連れてきちゃ駄目だろ」

「いや――違うんだって」

 亮介もまた花ちゃんを見ると、軽く手招きをした。おいおい。

「亮介、花ちゃん関係ないだろ、なんで呼ぶんだよ」

「あ、いや――違くて。花ちゃんさ、お前に――」

 亮介の言葉に合わせて、花ちゃんはおれの前まで来ると、もじもじとし出した。え、何これ、なんなのこれ。いきなり告白とかされちゃう系?こんなとこで?こんな場面で?いやいやマジで?

「あの、あのね。市井くん、市井くんに、お話があって――」

 おれは何かを言い出しそうな花ちゃんの手を掴み、階段を少し上った。

「いや、花ちゃん。今こんな状態でするような話なのか?ちょっとこれから警察きたりするし、こいつらにおれらとの関係を見られるのもまずいよ、明日、また学校来るからそれじゃ駄目なのか」

「う――。市井くん、明日は必ず――来る?」

 花ちゃんは、そう言うとおれの目を見つめた。恥ずかしがり屋の花ちゃんからすれば、すごく珍しいことで、しかも初めてのタメ語。いや、それは全然いいんだけど、どうしたっていうんだ、花ちゃん。

「あ、ああ。来るよ、そこまで言うなら花ちゃんに会いにだけでも来る。さぁ、花ちゃん行って。もうすぐ先生ちゃん達も来るだろ。花ちゃんはこんなことに関わってはいけない、マジで」

「――約束ですよ」

 花ちゃんはそう言うと振り返り、階段を上って行った。今度はパンツを見ないようにすぐに視線を切る。おれはそんなやり方の汚い変態じゃねぇ。どうせおパンツを見るなら正々堂々。威風堂々。そっちのがいいよな。

 ――なんなんだ花ちゃん。それはそれですげぇ気になるけど、今はそれよりもこの戦後処理をしなくてはならない。

「亮介。どうする?お前は警察来る前にバックれてもいいぞ。おれはどのみちこのまま逃げられない、正々堂々とした方が警察も本気にならないだろうし」

「何言ってんだよ相棒。おれも行くに決まってるじゃん。どうせ暇だし」

 亮介はそう言うとポケットから煙草を取りだして吸った。あ、そうか、これから警察だ、長くなるかもだからおれも吸おうと思った所で、遠くに警察のサイレンの男が聞こえた。

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