■15: 払嵐(F)
――――
エピソード「払嵐」の断片・プロット
――――
1053年12月半ば
大規模作戦
近隣都市の崩壊と、超大型のケモノを含む大規模なケモノの軍勢が確認される。その予測進路上には聖都があった。
軍勢の中核をなす超大型のケモノは、他都市の火砲を取り込んでいるらしきことが確認でき、観測機や攻撃機が“砲撃”で撃墜されている。防衛砲を取り込んでいるために、都市への遠隔攻撃が可能となっていることが推測された。聖都の防衛砲の射程に侵入されれば、都市への攻撃を許すことと同じになる。
そうした可能性から、準備が足りていないが、戦力を搔き集め迎撃することになる。
作戦は「師団」主導で行われ、「学校」からも強力な聖女が参加。
◆
超大型のケモノは「暴渦」のコードネームが与えられた。その見た目は、角の生えたヤドカリのよう。角は防衛砲を取り込んだ結果、形成された砲のような器官。学習元の砲よりも、圧倒的な大口径、超砲身。ヤドカリの殻にあたる器官は、金属や岩石など様々な材質が入り混じり、無数の多種多様な火砲が生えている。
傘下のケモノたちは、少数の犬狼型の他に、タコやイカに似た軟体型や奇妙な甲殻型が入り混じっている。甲殻型は超大型と同様、火器を取り込んでおり、ハサミにあたる部位が、腐食性の“弾”を飛ばす器官になっている。
そのようなケモノの軍勢の前に、降下する聖女たち。
その中にウルリカとリル、アデーレの姿もあった。(すでに登場済みの他の名有り聖女では、ハイデマリーとエーディトが前線に投入。ゲルトルードとロズメリーが第二ラインに配置されている)
ウルリカとアデーレは低空から回転翼機、リルは高高度から降下。
「暴渦」の砲撃を掻い潜る航空機。
超大型のケモノは長射程の対空攻撃を持ってはいるが、幸い“目”はあまりよくない様子で、超低空や高高度からならば比較的安全に降下や投下ができた。それでも、少なくない犠牲は出ている。
聖女を含む、神器兵の主な役目は、超大型ケモノを倒すことではなく、軍勢の小型・中型ケモノを、戦場から少し離れた場所に配置された砲兵隊に近づけさせないよう足止めすることだった。可能であれば超大型の撃破も視野に入ってはいるが、どちらにせよ神器兵だけで相手するには敵が多すぎる。
攻撃の本命は、爆撃機から投下される予定の防空壕破壊爆弾。
地上部隊は、基本的には爆撃の攻撃成功率を上げるための囮、露払いを担っていた。
硝煙弾雨、屍の山、荒野が血で赤みを帯びる。過酷な戦場。
味方の砲撃に巻き込まれる者も少なくない、敵味方お互いに。
数の利はケモノ側にあり、押されていく人類サイド。
そこへ爆撃隊が到着する。
防空壕破壊爆弾――レーザー誘導式の徹甲爆弾。平時は炸薬を抜き、対大型ケモノ運動エネルギー誘導弾として運用されている。
前線から少し離れた廃ビルに位置取った指示者によって誘導が行われている。
爆弾が命中。ロケットで加速された徹甲弾頭は「暴渦」の殻を砕き、その体内で炸裂した。
戦場に鉄と血肉の雨が降る。
しかし、破壊しきれずに残った「暴渦」の頭部と胴体下部を起点に急速に再生していく。
アメフラシのような形態へ変化した「暴渦」は、頭部の角砲を空へ向け、放った。空が光り、爆撃隊が跡形もなく消える。
「暴渦」のコアは、爆撃で破壊したはずだった。
活性法石を視ることのできるリルの義眼は、実質、ケモノの心臓を捉えられる。「暴渦」の心臓は殻の下、爆弾が命中した箇所にあるのは確かだった。
――
同じ頃、爆撃の目標指示チームと連絡が途絶える。最後の通信では何者かに襲われたようだった。
直後、前線の側面から新たなケモノの集団が襲いかかってくる。
その中には、人型の奇妙なケモノがいた。幼い顔立ちの少女、粘液に覆われた青白い肌、ウサギのような耳、うねうねと蠢く尻尾。右腕を覆う腕甲、左手には本を持っている。リルが以前遭遇した「司書」に近い雰囲気の人型ケモノ。
新たな脅威に前線が崩れかかる。
現場では撤退も視野に入り始めるが、司令部からの命令は変わらず「暴渦」の足止めと討伐だった。それが可能なほど前線に力は残っていない。
――
リルに、聖女チームの作戦部長テオドラから特命が下る。
神器を喪失しても構わないから超大型ケモノを撃滅せよ、と。
リルは、主のいなくなった神器を手に、「暴渦」に立ち向かう。ハイデマリーがそれに追従する。
――
ウルリカとアデーレは人型ケモノと対峙していた。
すでにエーディトを含む何人かが人型ケモノに惨たらしく倒されている。
アデーレはウルリカの前に立ち、殺気立っている。ウルリカや後ろの兵たちに逃げろと、振る舞いで告げている。
しかしウルリカは退かず、アデーレの横に並び立ち、大鎌を構える。
それを見て、人型ケモノは手を叩く。
そして、本を開く。すると、倒された者たちが、ゆらゆらと立ち上がった。傷口には、ぬめぬめとしたワーム状の生物が蠢いている。
ウルリカとアデーレは揃って「悪趣味」と零した。
ウルリカは先日のリント湖での出来事を思い出し、怒りが込み上げてきた。あのときも、味方が敵に操られていた。それと似たような状況。
今度は失敗しない、これ以上犠牲を出させはしない。大鎌を握る手に力が入るウルリカ。
――
リルは、戦場に散った神器を拾い、ケモノを倒しながら、「暴渦」へ向かっていく。
ビーム砲型神器でケモノを殴り倒す。
さきまではいなかった飛行型のケモノも現れてくる。「暴渦」から分裂している。
剣を拾い、飛行型へ投げつけ、打ち落とす。ケモノの死体に刺さった槍型神器を引き抜く。
ビーム砲と槍を手にリルは攻撃を掻い潜り、「暴渦」の側面へ回り込み、跳び上がる。
「暴渦」が首をもたげ角砲をリルへと指向する。「暴渦」は背中から自走地雷を放出、飛行型もリルへ殺到する。
リルはビーム砲と槍を抱え、回避困難な状況。
そのとき、数条の光が地雷と飛行型を貫く。第二ラインから援護に駆けつけたゲルトルードの狙撃。
角砲の砲身に降り立つリル。槍を砲身に突き立てアンカー代わりにし、振り落とされないようにする。ビーム砲を構える。ガイドレーザーが照射され、ビーム砲の砲身が展開する。エネルギーチャージ、数秒ののち、射撃。青白いビームが「暴渦」を穿ち、そのコアを破壊した。余波で、大きな爆発が起こり、地面に大きなクレーターが開き、地上を砂塵の風が吹き抜ける。
ビーム砲の砲身は赤熱し、溶け落ちてしまっている。リルはビーム砲を捨て、槍に持ち替える。
次の動きを警戒。
――
同じ頃、ウルリカの大鎌の刃が、人型ケモノを捉えた。
ケモノは急所こそ避けたが、右腕を肘辺りから斬り落とされている。腕甲という武器を喪失してもなお余裕そうな表情を浮かべるケモノだったが、突如、その頭が転がり落ちた。
ウルリカの神器は断頭の呪いがある。対象が人型であれば、その威力は増す。
ケモノは息絶え、手にしていた本は塵となっていく。
――
爆撃後と同じように超大型ケモノが再起するかもしれない、と警戒する作戦部隊だったが、ケモノ側に新たな動きはなかった。
「暴渦」は再生せず、軍勢のケモノもほとんど倒された。
戦闘は終結。犠牲を出しながらも、ケモノの軍勢を撃破することに成功した。
――
気が抜け、よろけるウルリカをアデーレが支える。
ウルリカは、青い顔で汗を浮かべ、ポーチからペン型注射器を取り出し、注射する。
小さく零す。
「みんなもう人間ではなかった、そうですよね」
操られた死体たちは、ウルリカとアデーレによって、大きく損壊されていた。
アデーレは頷き、煙草を咥える。くしゃくしゃに曲がった煙草。
ウルリカは、それを見て自分の煙草のパッケージを差し出す。
「あげます」
「ありがと、大事にする」
「大事にするんじゃなくて、いま吸って」
そう言い、ウルリカは自分も煙草を咥え、右手でマッチを着火し、煙草に火を点ける。燃え殻を捨てる。
アデーレも火を点ける。
辺りを見回す。抱き合う者、放心ししゃがみ込む者、泣いている者、勝利に沸く者。
短い時間だったが、激戦だった。作戦成功の喜びと、多大な犠牲への哀しみが入り混じった複雑な感情が現場に流れている。
無線通信からも労いの言葉が送られている。
しかし、
安堵と喜びも束の間、聖都がケモノによる襲撃を受けたと報せが届く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます