■12: omnia vanitas et umbra sunt.(F)

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エピソード「omnia vanitas et umbra sunt.」の断片・プロット

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1053年11月初旬


リルはケモノに支配された都市を奪還する特殊作戦に参加することになる。

目的の都市は1000年以上ケモノの勢力下に置かれている。都市に眠る遺物を回収、ケモノの討伐するのが主目標。


潜入チームはリルを除いて5人。4人は別の都市の神器兵、1人は指揮兼調査官の人間。

神器兵たちはみな新人か、経験の少ない者。どう考えても特殊作戦の実行部隊に抜擢されるような成績でもキャリアでもない。嫌な予感のリル。

即席のチームメイトはリルと共に作戦に参加できることを喜んでいる。聖都の上級聖女の武勇伝は外部にも広がりつつあった。


記録では何度も奪還作戦が行われるもすべて失敗したとされているが、都市内にはすんなりと入ることができた。

街並みは現代的。人々が何事もないように暮らしている。都市内の人間とは、多少の訛りがあるものの、意思の疎通もできる。

あまりにも奇妙だった。



チームの探しものの一つである遺物は、研究施設と思われる建物にあることがわかっている。


目的地に、何の障害もなく辿り着く。

施設内に進入する。

一行は敵が現れると予想していたが、何も起こらない。街中に比べると静かで、誰もいない。建物に大きな損傷があるが、数日も経っていない新しい痕跡。“新鮮な”遺体や、破壊された人間そっくりの機械、燃える内装、漂う硝煙。明らかな異常。


チームの一人が、机のファイルを手に取る。

その瞬間、場の空気が変わる。

靄のような人型実体が一行に襲いかかる。同時に床や壁を突き破り、蔦が出現する。

敵を退けることには成功するが、神器兵の一人が茨の蔦に巻き込まれ、死んでしまう。

死んだ神器兵の神器を回収するリル。


探索を続けるチーム。

正体不明の敵の群れと茨の蔦に襲われ、次々と負傷や死亡し、脱落していくチームメンバー。最後まで残ったのはリルと指揮兼調査員の女の二人。その二人も分断されてしまう。


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指揮兼調査員の女は、とある部屋に逃げ込んでいた。病室のような部屋、無機質な部屋に玩具が散らばっている。吸い寄せられるように大きなウサギのぬいぐるみに、ふらふらと近づく。ぬいぐるみに触れた瞬間、女は別の場所に飛ばされる。

見覚えのある場所。幼少期の自分。両親に抱きしめられる、賞賛と温もり、ほしかったが手に入らなかったもの。



――

リルは、瓦礫の下敷きになった女の遺体を見つける。

部屋の奥には、蔦で覆われた何かがある。

リルがそれに触れると、幻覚に襲われる。綺麗な病室、かつてのこの部屋の光景。何者かがリルに話しかけている。その声を無視し、リルは蔦を掻き分ける。


蔦で覆い隠されていたのはポッドで、その中には子供と思われる人骨が入っていた。心臓だけが瑞々しく脈打っている。

その心臓に槍を突き立てようとしたその瞬間、リルは波動と蔦の奔流に押し流される。


宙高く放り出されるリル。

瓦礫と蔦が集まり、竜の形を作っていく。都市全体を覆い尽くす。

咆哮が響く。

落下しながら槍型神器を解放し、投げる。強烈な閃光と爆発が起こるが、竜を倒すには至らない。コアらしきものが露出するも、すぐに覆われる。

リルは、自身の神器、――折れた剣を抜く。

「プルウィス・エト・ウンブラ・スムス」

吐き捨てるように呟く。刃が光を纏う。

さきに確認したコアへ、折れた剣を投擲する。

剣は竜の心臓を穿ち、リルの手元へ返ってくる。コアを破壊された竜は、崩れ朽ちていく。


――

残ったのは瓦礫の山と枯れた茨のみ。都市の痕跡はほとんど消えた。瓦礫に混ざる建材や、砂に埋もれたビルの残骸、道路の一部がわずかに文明の痕跡を残している。


砂の中に人骨を見つける。ポッドに収められていた子供の骨。これが「遺物」だった。


リルは、都市に来るまでに使った小型トラックまで戻る。車両は砂を被ってしまっていたが、動かす分には支障はない様子。

「依頼主」へ連絡を入れ、回収を要請。

直に日が暮れる。回収班の到着は明日になるだろう。


リルは車両に積まれたキャンプ道具で、湯を沸かす。缶詰とビスケット、コーヒー。コーヒーにはキャンプセットに入っていたジンを入れる。

同じくセットに入っていた煙草に火を点ける。

車両に積んであった自動小銃を抱きながら、煙草をふかし、何とも言えない気分で夜空を眺めるリルだった。

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