■11: 世界で一番幸せな女の子(F)

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エピソード「世界で一番幸せな女の子」の断片・プロット

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過去編

1049年9月


まだ髪の毛がすべて赤いウルリカ。成績優秀で、この時点ですでに学年一位になっている。


ウルリカには気になっている聖女がいた。

それがリルだった。地味で目立たない少女だったが、リルは担当の医療スタッフを殺したと噂になっていた。同学年の聖女の一部から虐めも受けているようだった。


共同トイレの個室に閉じ込められ、上から水をかけられるリル。

その現場にウルリカは居合わせる。虐め聖女たちを追い払う。


「惨めな子たち」冷ややかに去る背を見やるウルリカ。


「助けたつもり?」

「あら、こんなことで助けられたつもりですか?」

「イヤな女」

「ありがとう」

リルは、なんだコイツ、という訝し気な目でウルリカを見る。

「何の用?」

「あなたのことが気になりまして。少し聞きたいことがあるんです」

「なに?」

「どうして、いまみたいな扱いを受け入れているんですか?」

「どうしてって? 彼女たちがそれで満足できるなら、それでいいやって」

「本当にそれでいいの?」

「わからない」

「つまんない」

「あなたに何がわかるの」語気が少し強くなる。

「……ごめんなさいね。話題を変えましょう。……最近退職した先生、実はあなたが殺したという噂は本当なんですか?」

「本当」

「すごいですね、あなたは」本心からの言葉。

続ける。

「これも噂なんですけど、その先生は担当の聖女に色々やっていたみたいなんですよね」

「その噂も本当。わたしの場合は、わたしから誘ったけど」

「へえ~」

「自分のしてきたことがバレて、もう死にたいって言ったから、望みどおりにした」

「えっと、その人のこと好きだったり――」

「まさか」本気で否定するリル。

「じゃあ、他の子のために?」

「それもありえない」

「ふーん」小声で。「やっぱり面白い子ですね」


ウルリカはリルに「いけない」提案をすることに。

「それで、あなたに提案があります」

首を傾げるリル。

「わたしをみんなの前で殺してみませんか?」

「は? 何考えてるの? 死にたいの?」

「死にたくもありませんし、殺されるつもりもありません。でも――」悪戯っぽく笑う。「わたしを殺すくらいに打ち負かせば、あなたのこと悪く言う勇気なんてなくなるとは思わない?」

「もっと悪く言われるのでは」

「無礼られたら負けなんです。自分の力を理解できていないお子様には上下関係をわからせなきゃとは思わない?」

「なら、いまのままでいい」

「わたしはそうは思いません。あなたはあんな子たちにバカにされるような人じゃない。もっと上の――」

「“上”にいる人の遊びには付き合えない」

「そうしていつまでも這い蹲っているつもりですか。ここは敵を倒せば評価される――そういう環境です。それなら、あなたはすでにわたしたちの一歩先にいる。あなたのように、力や才能のある人はその能力を発揮すべきなんです。そして、賞賛なり非難なり、何らかの評価を受けるべきです」微笑む。「わたしはそう思います」

「後悔しないでよ」



――

格闘訓練のときに作戦を実行することに。

ウルリカは、自分を殺す気で来るように、とリルを挑発する。

激しい攻防ののち、

樹脂製のナイフがウルリカの胸を刺す。勢いのまま、リルはウルリカを押し倒し、刃に体重を乗せていく。深く刺さり、刃先が心臓を突く。

(やば、このままじゃ本当に殺される)内心、焦るウルリカ。

ウルリカは、右手でリルの手を押さえ、空いた左手で、リルを押し退けようとした。そのとき、左手でリルの顔をかき、指が目を抉った。

はじめは茶番のつもりだったが、いつの間にか両者ともに必死の戦いになっている。

その結果、リルは右上腕を骨折、右目を喪失する大怪我。ウルリカはナイフが心臓に到達、死まであと一歩。

胸にナイフを刺したまま、ウルリカは医療部に行くことに。自分の足で歩いて行ったが、内心では死にそうなのを気合で堪えている。

ウルリカは、リルのことを「サイコーで、ヤバくて、おもしろい女」と改めて認識した。

リルはリルで、手に伝わる心臓の震えに興奮を覚えていた。



――

謹慎ののち、復帰するリル。腕を吊り、眼帯を着けている。以前よりも、皆から距離を置かれるようになった。

ウルリカはまだ回復しきっておらず不在。

そんななか、リルに近づく少女がいる。アデーレとゲルトルードだった。ウルリカと親しい聖女。

アデーレはリルと相対するなり、リルを殴り飛ばした。


「許せない?」

「そりゃあ許せないよ。ウルリカのこと押し倒して、胸まで触ったんだから」

「は?」面食らうリル。

「いまので、この前のは水に流してあげる」

「水に流すって、勝手に恨んでるだけじゃん。あんたのセリフじゃないだろ」ゲルトルードが横から口を挟む。

「そういう細かいことはいいの」


そう言い、アデーレはリルを支えて立ち上がらせる。

「ごめんね、殴っちゃって」

「リル、だっけ? にしても、この前はいいもの見させてもらったよ」ゲルトルードが言う


「なーにがいいもの見せてもらった、ですか」

ウルリカが現れる。

「うわ、いつの間に」

「もう大丈夫なの?」

「動く分には。まだ訓練には出られませんが」

「……」気まずそうなリル。

「どうしたんですか、そんな顔して。謹慎解けたんですよね。では、お祝いに一緒にランチといきましょう」



――

それからほどなくして、実戦投入されるウルリカたち。

戦場で経験を積んでいく。


――

1050年2月

異例の速さで上級聖女に認定されるウルリカ。同じく昇級するリル。

上級神器兵になり、広い個室を与えられることになったリル。そこへウルリカが押しかけ、同室になりたいと言い出す。

「こういうときは、こう言うのがいいですか」首を傾け、笑う。「責任、取ってくださいね」

ウルリカは、自身の左胸を指差した。

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