■09: 森の中の、陽のもとに(F)

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エピソード「森の中の、陽のもとに」の断片・プロット

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1053年10月


ウルリカたち49年度生たちが集まって、小さなパーティーをする話。



「学校」内のカフェスペースでリルとアデーレを見かけるウルリカ。ウルリカは医療棟から戻る途中で一休みしようとしていた。紐付き封筒と樹脂製のブリーフケースを小脇に抱え、蓋付き紙コップを手に持っている。

リルはアデーレにファイルを渡し、去る。その際、アデーレはリルに紙幣を渡していた。

ウルリカはアデーレに声をかけ、相席することにする。

ウルリカとアデーレは同期。

サイドテールにした水色に近い銀髪、青緑色のメッシュが入っている。

アデーレは、ウルリカを見ると眼鏡をかけ直した。


「さっきリルから何を貰ってたんですか? どうせ例のあれだと思いますけど」

「そ、あなたの写真」

「よく飽きないですね、アデーレも」

「そんなイヤそうな顔しないでよ」

「してませんよ。そうだ、サイン書いてあげましょうか」

「ホント?」

「一枚だけですよ。お友達特典」


写真の中から一枚選んで、サインするウルリカ。ばっちりポーズを決めた写真、我ながら憎らしいほどに映りがよい一枚。


「ありがとう、大事にする」



「ウルリカのそれは?」

「こっちはリルの写真です。医療部と入院中の会員さんにお届けに行ってきたところ。要ります?」

「一緒にあなたも写ってるのがあれば欲しい」

「ないですね」

「じゃあ、いいや」



アデーレは、灰皿と煙草のパッケージをウルリカの方へ差し出す。ウルリカが書類と紙コップしか持っておらず、ポケットのない服を着ているのを見ての行動。アデーレは、ウルリカが煙草をねだりに来たのかも、と思っている。


「吸う?」

「いえ」

「同じ銘柄だけど」

「いま、ちょっと試しに禁煙してみてるんです」

「え、じゃあわたしもやめよっと」

「なんでよ」

「だって、あなたの真似で吸い始めただけだし」

「それは知ってますけど、だからってやめるのはおかしくない?」

「たまに一緒に吸うの好きだったから。それがなくなるなら、別にいいかなって」

「身体に悪いから吸わないに越したことはないですが……。でも、アデーレはサマになってるから、なんだかもったいないなって、個人的には思っちゃいます」

「なにそれ」

「ふふ、照れてる。カッコいいと思ってるのは本当ですよ」

「そうやって、すぐ揶揄う」

「揶揄ってなんかないですって」

「いままでの行いを顧みてから言って。あなた、いつもわたしのこと可愛いとかカッコいいとか言ってさ、わたしが困ってるところを言い包めて、距離詰めて抱こうとするじゃん」

「だって、それはアデーレが」

「そうね、わたしが悪いんでしょ」


――「ふふ」「あはは」思わず笑う二人。


「……何度目だろう、このやりとり」

「さあ? でも、誤解しないでほしいのは、本当にあなたのことはカッコいいと思ってますからね」

「わかってるわかってるって。でも、自分より背が10センチ高いやつにカッコいいって言われるのは変な感じよね」



――

「あ、そういえば聞きましたよ。この前危なかったって」

「あー、あったねそんなこと。もう二ヶ月くらい前だけど」

「最近は、任務も一緒に出ることは少ないですし、タイミングが合わないとすぐ時間が経ってしまいますね」

「お互い、上級生で前衛型だから、しょうがない」

「あなたの場合は指揮官の役もあるでしょうし、なおさらですよね」

「あとは休みの日の過ごし方。わたしは読書か寝てるか、自主トレ。ウルリカも外出日以外はカフェスペースくらいしか出歩かないでしょ」

「ええ」

意外と、仲がよくてもお互いの部屋を訪ねることは多くない。


――

「夏休みはどうしてました?」

「蚤の市でレコードと本を漁ってた。要塞跡地広場の。スクーターの荷台に積める量まで厳選しなきゃだけど、それも楽しみの一つかな」

「へえ、いいじゃないですか」

「普段の外出と大差ないけどね。ウルリカは? リル? それとも例の彼氏?」

「彼氏」珍しくはにかむ。

「動画とかないの?」

「ありません」きっぱりと言う。「前のあれはリルが勝手に撮っただけです」

「残念」萎んだ声、無念の表情を浮かべるアデーレ。

「そんなに残念がることあります?」

「推しの行為なんて見たくないっていう意見が大勢だろうけど、わたしは痴態も推しの一面なんだから見れたら見れただけ得だと思ってるから」

「やば……」

「やばくないって。熱心なファンなだけだから」

「ふふふ」笑うウルリカ。


「あ、そうそう。思いついたんだけど、今日さ、同期のみんなは非番かな」

「リルは今日これから何も予定はないですし、エーファも調整期間。たしかガートが師団のほうで監視任務だったと思います。それも夕方には終わるはずです」

「それなら、久しぶりに同期で集まらない? 前回はいつだった? 去年の夏頃だっけ?」

「ええ、そのくらいだったと思います」

「よし、いきなりだけど、今夜、同期会をやろう」




――

「お邪魔しま~す」


車椅子の少女が部屋に入る。

エーファ――ウルリカたち49年組の5人目。オレンジブラウンの髪に、グレーの瞳。


「みんな元気してた? わたしは見てのとおりボロボロだけど、まだ元気だよ~」



「えへへ、今年もみんなで集まれて嬉しいよ~。去年の同期会から一人もいなくなってないのも」エーファが楽しそうに笑う。「次にみんなで集まれるのはいつになるかわからないし、そのときにはわたしがいなくなってる可能性が高いから」

「エーファ……」

「ごめんね、暗い話して。でも、嬉しいから、言っちゃった。本音は言えるときに言っておきたいから」

「やっぱりエーファはかわいいなあ」

「ほら、ガート。くっつかないの、カノジョが怖い顔してるよ」

「してない」

「ちょっと揶揄ってみたの。今日のわたしは浮かれてるから」

「そんなエーファにはこれをあげましょう」ウルリカがエーファにパーティ用の帽子を被せる。

「え、なに」

「特に意味はありません。主役っぽい人に被せようかと思いまして」

「まあ、全員分あるんだけどね」アデーレは言い、帽子を頭に乗せた。

それを合図にウルリカ、リル、ゲルトルードも帽子を被った。


――

「やっぱりウルリカの料理はおいしいね」

「もっと凝ったものが作れればよかったんですけど」

「そこはしかたない、いきなりだったから」


/

「シュワシュワもう一本頂戴」梨のサイダー(シードル)の瓶を要求するエーファ。

「いいの? 大丈夫?」

「先生が今日はいいって」


/

「今年の年越祭か、来年にもう一度」

「……ええ、また」

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