■01: 箱庭の少女たち(4)
観察室は、簡単な休憩所や待機所のようにもなっていて、三列の長椅子とその後ろに円形テーブルと、飲料や菓子類の販売機などが設置されているほか、出入口付近には太い茎の観葉植物の鉢植えが置いてある。
すでに先ほどの観客のほとんどは退室しており、テーブルに先輩であるウルリカとリルが着いているだけだ。ルイーゼは、憧れともいえる先輩と三人きりで同じ部屋という状況に胸が苦しくなるが、平静を保ち、素知らぬ顔で、彼女たちを意識しないようにしながら室内を足早に進み、観察用の座席の前列へ座った。
訓練場では、比較的きれいなエリアで訓練組が準備をしている傍らで、カレンがトングと箒で武器の破片を集めている。
こうしてみると、なんだかカレンは犬みたいだな、と自分でもいまいち出どころのわからないイメージが浮かんでくる。
疲れもあってか、椅子に座っていると、少しぼんやりとしてしまう。
――
「ねぇってば」
いつの間にかルイーゼの隣にいるウルリカ。
ウルリカ、最強の聖女。ところどころに赤い毛の交じる白い髪と、金色に輝いて見える目、穏やかだが脳がしびれるような声質、透き通るような白い肌とそれとは真反対の輝きすら見えない黒い機械の左腕は、対面する者にどこか超越的で神秘的な印象すら与える。
「あっ、はい。すみません」驚くルイーゼ。
「いえ、こちらこそごめんなさいね。お疲れでしょう」微笑むウルリカ。
「とんでもない。そんな」なんとか冷静さを保つように、抑え目の口調で。「先輩方に声をかけられるなんて思ってもみなくて」
「ふふ」小さく笑うと、ルイーゼの前に両手を差し出す。それぞれ飲料缶が握られている。「どっちがいい?」
何も入っていないプレーンなソーダと、砂糖たっぷりの死ぬほど甘くてハーブの癖が強いハーブ入り紅茶の二択。
「え? えっとこっちで、お願いします」戸惑いながらもソーダを選ぶ。
「うん。やっぱそっちだよね」リルが横から声をかけた。傷のある右目を閉じているせいか、ウインクしているようにも見える。
「こっちだと思ったんだけどなぁ。うーん、ルイーゼさんならわかると思ったんですけどねぇ」膨れるウルリカ。
「あ、やっぱそっちにします」
「無理しなくていいよ。一度でも飲んだことがあるなら味はわかるはず」
「……はい」伸ばしかけた手を戻し、ソーダの缶を受け取った。
ウルリカは手元に残った紅茶の缶を開け、何食わぬ顔で口をつけている。その様子をじっと見つめるルイーゼ。
「いつも思うけど、よくそれを表情変えずに飲めるよ」腕を組み、半ば独り言のように。
「このソーダ? も、お酒の割り材くらいにしか使い道がないのに、よくそのまま飲みますね」
「気まずくなるようなこと言わないでよ。ルイーゼさんはソーダがいいって選んだんだから」いつもは閉じられている右目が開かれ、奥の黒い義眼がのぞく。
「さきに言ったのはあなたでしょう?」挑発的な口調。
「あ、あの。どうして、わたしに声をかけたんですか?」気まずさに声をあげずにはいられず。
「あ、ごめんなさいね。見苦しいところを」穏やかな口調で続ける。「ルイーゼさんは有名ですから。五二年組のトップですし。それに昨日、同じ作戦に参加していたでしょう」
ウルリカの言葉に横で頷くリル。
「わたしの名前、覚えていただけてたなんて」一瞬、声に喜びが混じるものの、すぐにトーンが下がる。「でも、わたし、お二人のようには、そのなんていうか、全然なれなくて。昨日だって」
「それはそうね。当然のことです。だって、あなたはまだそんなにたくさん戦っているわけではないもの。でも基本的な能力はわたしたちと大差ないの。それなのに全然弱いんです。わかる?」
「ちょっとウルリカ」
「いいじゃないですか、予定変更です」朗々と続ける。寒気が走るような纏わりつくような声音。「この子が欲しいのは甘い慰めではないみたいだから。本当はいま、リルと戦ってボコボコにしてもらいたいくらいですけれど」
「え、何言って」目に怯えの色が浮かぶ。
「冗談だよ。わたしは戦う気はないよ。この人の言うことを真に受けないで」
「あら、こういう子は屈服させたいっていうのは嘘じゃないですよ。まあ、でも、なんだか悩んでいるようですから少しばかり、年長者からの施しという名のアドバイスやら相談やらをですね。してあげようかなんて、ね」
ウルリカがルイーゼへ顔を寄せる。金色の目に見つめられると、それから逃れようにも体の制御ができないような、宙に浮いたような奇妙な感覚に支配されてしまう。
ふと、ほんの少し甘いような、煙臭い匂いがする。おそらく煙草のものだろう。その匂いが目の前の「聖女」が確かにここにいて、自分と同じように生きた一人の聖女だと示してくれている、ルイーゼはそう感じた。
「えっと、それはうれしい、ですけど、なんで、わたしが悩んでいると?」戸惑い気味に尋ねた。嬉しさ半分、ウルリカの圧に怯え半分。
「リルがね、昨日、あなたが泣いてたみたいだって」
「いや、すまない。見えちゃったから。なんだか、放っておけないというか」
「興味があったんですよ。前々からあなたに。なんだか、苛めるみたいなタイミングになってしまいましたけど」
「いえ、別にいいんです。わたしも先輩方にもっと近づきたいと思ってました、ずっと」物理的にも、実力的にも。
「へー」獲物を狙うかのように、目を細めるウルリカ。
「腹の探り合いをしたいわけじゃあないんだよ、お二人さん」
ウルリカとルイーゼに特別、そういった意図はなかったが、傍から見れば、実力者同士がお互いを探ろうと目を光らせているように見えただろう。それをリルが、もうちょっと肩の力を抜け、と軽く茶化した形だ。特にルイーゼの緊張は、人間観察に長けた者でなくとも見て取れるほどだった。
「あ……」リルはルイーゼの手から缶をさらい、プルタブを起こし、元の手に握らせた。
「はいはい。温くなる前に飲んでね」
言われるがままに、口をつける。それを見てリルは頷いた。「落ち着いた?」と口を作ったのに対し、小さく首を傾けて返す。
「さきほどの、見ましたよ。なかなか面白かったです。いえ、面白かった、というのは失礼な言い方ですね」
「カレンさんの戦い方は、面白かった、という評価でもいいのでは?」
「武器ケースを持ち歩くの、真似してみたらどうですか」
「確かに。でも、わたしが他人の武器を使うのは、回収する必要があるからであって、武器を変えることで対応可能な状況を増やしてるわけではないから」
リルは戦死した神器兵の神器を拾い集め、必要であれば、それを使って戦う。また、傷を負うなどして、助かる見込みのない兵を介錯する役を引き受けることも。ゆえに、彼女はスカベンジャーや葬儀屋と呼ばれている。
「あの、先輩たちが、わたしたちに学ぶことなんてないんじゃないですか」
「そんなことはないですよ。味方の手の内を知り、味方に手の内を見せることは大事です。まあ、わたしたちはあなたに全部見せているわけではないので、ちょっと不公平かもしれませんが」
「いえ、戦闘記録は何度か見ていますし、その、言っていいかわかりませんが、訓練とかも覗き見したことがあります」
リルが頷く。覗き見していたことを知っている様子だ。
「あら、うーん、そうですね。先ほどの観覧料じゃないですが、何か聞きたいこと」
「あれ、でもそれなら、リル先輩の神器を見たことがないんですけど」
「この子の神器は折れた剣。投げれば必ず当たるし、折れている部分から新しい刃を生やしたりもできます。たぶん記録のいくつかには映っているはずですよ。もしかすると、リルが人の神器を拾って使ってるから、本人のものかわからなかったんでしょう」
実際には機密扱いで、編集時に、機能を使用している場面をカットされている。ウルリカは、リルの神器が機密なことは知っていたが、全体公開用の記録では削除されていることまでは知らなかった。
「そうかもしれないです」
「さて、と」顎を触り、首を傾ける。「キミはもうちょっと周りを見るべきかもね。さっきも相手の実力を知りながら、後手に回る部分もあったでしょ。あの距離はキミのほうがずっと得意なのに」
「それは……」模擬戦だから、そう答えてしまいそうにもなったが、リルは模擬戦だったことを踏まえたうえで、キレの悪さを指摘しているのだ。
「ごめんごめん。別に責めてるわけじゃないよ。昨日出撃したのは知ってる、わたしだって疲れてるから、動きが鈍くなるのはわかるよ」一瞬おどけた態度を見せるが、すぐに真面目なトーンへ戻り、続ける。「キミは強い。強いけど、強いゆえの力押しって感じがまだする。そこがぎこちない部分かな。ただ、個人戦力としてはそんなテクニカルさは別に必要じゃないし、もし技量で捌かなきゃならない場面に出くわしたら、どちらかというと退くべきとき、とわたしは思う」
「どうすれば、直せますか」
「直す、というのともちょっと違うかな。気付きっていうのが近い表現だと思う」
「気付き、ですか」
「人によって、必要な気付きが違うから、なんともいえないけどね。ただ、キミはこれから、ことあるごとに気付きを意識しながら過ごすことになるだろう」
「そうすれば、見つかる、と」
リルは頷いた。
「あなたの場合、今日のように実力の近い、あるいは自分より実力の高い人と、本気で戦うといいんじゃないでしょうか」ウルリカは指で宙に円を描きながらリルの言葉を補足するように言った。「言ってくれれば、わたしたちも相手になりますよ」
「そんな、とんでもない」
「遠慮はよくないですよ。ま、わたしとやるなら、わたしは丸腰でしないと、ですが」
将来有望な一人を、うっかりで殺してしまいかねないからだ。
「それだと、武器なしの格闘戦ならペトラのほうが強いかもしれないな」
「ペトラ……。あっ、温室の」
リルは頷く。
ペトラ、構内の端にある温室と庭園の半ば主のようになっている「聖女」。
出撃が一切許可されていないが、それでもひたすらに訓練し続けた陰の実力者。相手を倒すという観点ではウルリカやリルのほうが強いが、人対人の格闘戦においては、おそらくペトラのほうが上級者。力押しの通用しない相手として、教師役には適しているとリルは考える。ただその反面、ルイーゼに決定的な挫折を与えかねない。
「あの人は確か、何か不具合があって戦えないって聞いたことがあります」
ルイーゼはクラウディアを思い浮かべた。彼女も、戦うことが許されていない。
「そうですね。神器に問題があるから、使命を全うできない、ということになるんでしょうね」妙な引っかかりのある言い方をするウルリカ。
「本人がどんなに強くても神器のせいで戦えない……。でも」それは確かにそうだ。これより先の言葉を言っていいものか、悩むも、口に出す。「でも、それなら先輩たちが上級なのは、言い辛いんですが、武器が強いからですよね」
「ある意味ではそうかもしれない。でも、実戦で生き残れるかに神器自体の性能はあまり関係ないと思うよ。『聖女』には通常の神器兵には備わっていないの固有の特殊能力がある。聖女は異能と神器をパッケージした兵器なんだ。どちらか片方だけでは想定された最優の成果は出せない。見たところ、キミはそれができているから、今日まで生き延びられている。そこはさすが学年トップなだけはある」
「たぶん、リルより強くなれると思いますよ」言外に、いまは到底及びもしないという響きのある声。ある意味では、間違った淡い期待を抱かせることのないようにとの優しさすら含まれている。
「はあ」どう返事すべきかわからず気の抜けた声が出た。
「でもね、ただ敵を倒すだけならそれこそ戦車で突っ込むか、爆撃してしまえばいいだけ。そうなっていない、ということは、神器兵でなければ解決できない問題があるということ。法石を回収するため、と言われてしまえばそれまでだけど……」一息吐き。「とはいえ、木を切るのに普通、火炎放射器や箒は使わないし、斧や鋸も使い方を知らなければ木を切り倒すことは難しい。木を切る道具を持っていなければ、持っている人に借りるか、切ってほしいと頼む必要があるよね。いくら聖女が強いとしても、単独で場を支配するのは簡単なことではないよ。そこのウルリカだって、問答無用で敵を殺せる武器を持ってるのにこのざまでしょ」
「カッコいいでしょう? 神話の黒い腕の騎士みたいで」ウルリカが左腕を見せ、手を開閉する。機械の腕。「服の袖を切らなくちゃいけないのは不便だけれど」声を低くし、続ける。「それに強すぎる武器も考えものだとは思わない?」
「あの、お話の流れを切るようで悪いんですが」ウルリカの声に思わずドキッとし、小さく手を上げる。「その、お聞きしたいんですが、リル先輩の目の傷も、そういう何か――」リルの右目を眉から頬にかけて縦に走る傷について尋ねる。
「それはわたしがつけたものです」ウルリカが自慢げに答えた。「訓練中に」
「そうだったんですか。てっきりケモノとの戦いで負ったものかとばかり」
「ま、ある意味ではケモノみたいなものだけどね」
「獣具合ではあなたも大概です」リルとルイーゼを交互に見ながら言った。
その言葉にルイーゼは一瞬、心臓が跳ねる。
「さ、話を戻すと、ルイーゼさん。キミに足りないのは、さっきの気付きと、月並みな答えで恐縮だけど、経験。でも経験といっても、ただ単純に出撃した回数っていうわけではないよ。キミはいままで、どんな敵と戦い、どんな味方と一緒になった。わざわざ、わたしたちが何人もの人数で出撃していると思う? ただ頭数を増やせば、戦力が増えるという単純な考えではないんだ」
「同じ戦場にいるのは、自分一人ではない、自分一人だけで戦っているわけではない、ということです。リルは言い方が変。余計悩ませるような言い方はよくないと思います」
なんとなくリルやウルリカの言いたいことがルイーゼはわかってきた。しかし、それでは、ルイーゼの求めるものは手に入らない。
「キミはさっき、わたしたちが上級神器兵なのは武器が強いからなのでは、と言ったね。それは正しい。でも」諭すように、なだめるように続ける。「それを言ったらキミの神器は強いほう。もちろんキミ自身も。キミは、十分わたしたちと同じレベルだって言えるところにいるし、もう少し経験を積んで、次の評価会議で上級になれると思う。物事が正しく評価されるには時間がかかることのほうが多い。まぁ何が言いたいかっていうと、あまり自分を卑下するな」
(なにが自分を卑下するなですか。お前が言うなって感じです)ウルリカは聞こえないほど小さな声でリルの言葉に突っ込みを入れる。「あなたは優秀だけれど、どうにも自分一人で全部やっちゃおうって気持ちが強いように思います。強い人は、なんでもかんでも、みんな全部できるだろうって考えから一歩引いてみるといいかもしれません。急ぎたくなる気持ちもわかりますが」
「……でも、その次の会議はないんじゃないですか」声が震える。嬉しさと悔しさ、悲しさで、せき止めていたものが溢れようとして。「わたしは、いま、みなさんと同じ場所に立ちたくて。そうすれば、もっと自分が強ければ、みんな死なずに済むんだって。でも、でも、今度なんて来ないかもって、次は自分が死ぬかもしれない。先輩だって死んじゃうかもしれない。いつか、じゃ、イヤなんです。〝いま〟がいいんです」
表情は歪み、目の端には涙が溜まり、必死にそこから先へ行かないように堪えている。しかし、それも限界で。
「いつかなんて来ない、次なんてない。みんな、わたし、じゃ、なくても、いいんだって――」涙が零れる。次々と。「ど……せ、わたしなんて、誰も覚えて……ない。……んて、どう、でも、い……だ」嗚咽が混じり、ついには泣き出してしまった。
一度、器から溢れて流れ始めてしまったものは、自分の力ではどうしようもできない。感情というものは特にそうだ。これがもし戦闘時であったなら、兵器としての感情適応が働き、過剰な情動は抑制される。しかし、いまは違う。「聖女」の設計者はよかれと思ってか、それとも悪趣味なのか、平時の感情値を彼女たちの外見年齢に合わせてデザインし、そのうえで個体差を大きく設定した。
「ああ、そういうつもりじゃなかったんです」焦るウルリカ。「ちょっとリル」抱きしめるジェスチャーをしながらリルを見る。
「そっちのほうが〝ある〟でしょ」リルはぼそっと言った。
その言葉に自分の左上半身をぐるりと指して抗議するウルリカ。その間にもルイーゼは声をあげて泣いている。
「……わかった」
リルは上着を脱ぐと、ウルリカと席を入れ替え、ルイーゼを抱き寄せた。多少の抵抗をみせるが、半ば強引に彼女を腕の中へ収める。
次第にルイーゼは落ち着きを取り戻していき。
「お母さん……」
「お母さんですって。よかったねぇリル」
「はっ、ごめんなさい」涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔。額や頬には、リルのシャツのボタンやシワの痕が残っている。「でも、もう少し、こうしてていいですか」
クラウディアのものに比べると、控えめだが、落ち着く、そうルイーゼは思った。お母さんと口走ってしまったのも納得だ、と一人心の中で頷く。自分は母親というものは知らないけれど、きっとこういうものなんだろうな、と。
いままで感じたことのない心地よさと安心感に抱かれ、微睡みの中へ沈んでいった。
「そういうところが可愛いんです」
「クラウディアさんとは、趣味が合いそうですね」
「本当にそうですね。近寄り難い雰囲気があったんですけど、全然――」
「ぅう、ん」聞き慣れた声に、ルイーゼは目を覚ました。
ルイーゼが眠ってしまっている間に、観察室にクラウディアとカレンが来ていたようだ。二人はテーブル席でウルリカとなにやら話している。
頭を上げようとするも、そっと押さえられ、止められてしまう。当惑するルイーゼに、リルはそっとハンカチを渡す。自分の背で隠れている間に、涙や鼻水を拭くように、という気遣いだ。ルイーゼは嬉しくも恥ずかしくもあり、それと同じくらい寂しかった。
きっと、この人は自分が後輩だから少し優しくしてくれているだけなのだ。考えたくもないのに、そういう考えがふつふつと泡を立ててくる。なんとかそれを押さえつける。
「ありがとうございます。あと、汚しちゃってすみません」
リルは、別にいいよ、とルイーゼの肩を軽く叩いた。
「あっ、起こしてしまいましたか」
「いや、そろそろいい時間だから、起こしたんだ」
カレンがルイーゼに向かって小さく手を振っている。それにルイーゼは右手を上げて答えると、立ち上がり、テーブルへ向かった。
「そうね、そろそろ」
「だね」
顔を見合わせ、立ち上がるクラウディアとカレン。
「面白い話も教えてもらったし」
「面白い話?」
リルが「ごめん」と口を動かし謝りながら、小さくウルリカを指差している。
ルイーゼも「いえ」と口を作った。
「あの、なんていうか、話せてよかったです」
「ま、たまには年長者らしいことをしないとですし」微笑む。「あ、連絡くださいね。練習、お相手しますから、みなさんも」
ルイーゼは頷いた。それを見てウルリカも小さく頷いて返す。
「失礼します」
ルイーゼ、カレン、クラウディアは口々に言い、部屋を後にした。それをウルリカとリルはひらひらと小さく手を振り見送る。
ドアが閉まり、足音もしなくなったのを確認したのち。
「ふぃー」
伸びをするリル。それにつられてウルリカも体を反らす。胸が反らされたことで、彼女の胸の左右で明らかに膨らみが異なることがより強調される。
「いやー、案外可愛い子でしたね、ちょっと前までのあなたみたいで。でも、少しまっすぐすぎますね」
「もうちょっとで意地悪な先輩になるとこだったぞ。もう少しなんとかできないの?」
「面倒くさい先輩になってたのはあなた。優等生タイプはなんで、すぐ卑屈になるのかしら」
「なまじできちゃうもんだから、自分より優秀な人が目につきやすいだけだよ」
「あら、あなたにだけは負けたくないから、こっちだって頑張ってるんですよ」唇を尖らせる。「リルお母さん」
「それ、明日から禁止ね」
「ふーん」ニヤニヤと笑うウルリカ。
――
「お母さん、ふふ、お母さんだって。ねぇ、わたしにはお母さんって言ってくれないの?」
「そう呼ばれてほしいんなら、もうちょっと無欲になって」呆れたように。「なんでそこで張り合おうとするのかなぁ。それにクラウディアは絶対ムリ、まだカレンのほうがそういう感じする」
「え、それどういうこと。わたしに魅力がないってこと? 見る目がないなぁ」
「くふふ、ははは」カレンは二人のやりとりに堪えていたが、思わず笑ってしまった。
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