最後の蛍の光

有福誠

第1話

  「最後の蛍の光」



1963年6月その日はやってきた。

私は前年夏まで毎年夏になると、集落を流れる小さな沢に群がるホタルを捕まえ、麦藁で編んだホタル籠に詰め込み我が家へ持ち帰り、その光を頼りに読書をし、予習復習を日課としていた。

妹はこの作業があまり好きではなかったらしい、すぐに飽きて辺りにある花を摘んでは花のネックレスを作って満足そうな楽しそうな顔をしている。


前年に収穫した麦穂を落とした麦藁で、来年用のホタル籠を誰に云われる訳でもなく、兄妹みんなで編むのは大事な作業でもあった、籠の底側に6本の麦藁を交差させ、みつ編みをするが如く地道に編み込んでいく、六角状に編んだものもあれば、直径20センチ〜30センチ程の円形上の籠、一人3個位は強要されたけれども楽しかった工作づくり感覚であった。

そして冬になり、雪の季節な気候でもある、それでも一冬5~6回の降雪はある。

夜になると雨戸を閉めるが、子供心には外の明るさは気になるのだ、閉めた雨戸をソッと開けると、月明かりに照らされた雪の反射光が部屋に明るい、本を捲ると字が読めるのである、楽しいそして愉快さが脳裏に響く。

雪の明かりで本を読めるのが何より楽しみであった、

家事手伝いの辛さよりホタルと雪の思い出が嬉しい。



とうとう我が家に電気が引かれた、何ヶ月も前から普段学校からの帰り道で、何人かの大人達が太い丸太5メートルくらいだろうか、

道路の北側に穴を掘りその丸太を1メートルくらい穴の中に入れ埋めていた、あとの何人かは埋められていく丸太によじ登り、てっぺん近くに1メートルくらいの横木を釘付けしロープでタスケがけ巻きにしてガッチリと固定したていた、この時点で私はこれが電柱だとは知らなかった。

何日か後にその高い十字架は我が家の、目と鼻の先まで来て終わっていた。

勿論、隣の家のすぐそばにも十字架はあった、一旦家に入り着替えをして、畑仕事の手伝いをする為外に出たら後ろの十字架の上に一人、前の十字架の上に一人乗っかり、紐みたいな線を横木にしっかりと括り付けているのが見てとれた、

それでもそれが何なのか見当もつかず、畑仕事の手伝いに段々畑を駆け上がった、刈り取った麦を背負子で山盛り背負って、家の倉庫らしき所に降ろし終えたら家の中に、居間、台所、他4部屋にまーるい白いボールのような物が天井からぶら下がっていた。

不思議だなあと位にしか思わなかった。

夜になり母からその電球の上側にある耳を捻って見てご覧と言われ捻ってみた。




瞬間、ピカーッと光ってびっくりして尻もちをついた、ひぇ〜!?と声を出したかは定かではない。

始めてこの電灯の光を見た時、太陽の明るさより遥かに!光って眩く見えた、部屋の隅々まで昼間のように明るかった、頭からつま先まで剣で貫かれた感覚になった。

小皿に椿油をたらし紐を火元に灯る灯り、前日までの行灯の世界。      そして一夜にして文明の電気の世界をこれから生かされる事になる。

私達の文化もこれを期に様変わりすることであろう。

きっといつか読んだ、翻弄されるであろう電力社会、デジタルの世界を生かされる事間違いなく

希望が三、不安が七をよぎった。


戦争が終わり18年が過ぎた頃10歳の秋の事。


最後の蛍の光が消えた哀しくも記念すべき日であリ。


五島列島、若松町有福での真実である。




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最後の蛍の光 有福誠 @makotoarifku

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