薄雪草

「ユリアス様、これを見てください!キラキラしてて可愛いです!」

 私は初めて見た雪に夢中で、幼馴染みの彼と感動を共有するために後ろを振り返る。にっこりと笑う彼に手を振ってみれば、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

「本当に綺麗ですね。王国では滅多にこのような雪は降りませんからね。」

 彼のいう通り、王国で降る雪のほとんどは水っぽく、べちゃべちゃとしていて固いのだ。このようにサラサラとしていて、とても綺麗な雪が降っているのを見たのは初めてだった。手で掴めばすぐに溶けてしまう、儚い雪。

珍しい光景に興奮して、しばらくはしゃいでいた私は、彼の存在を思い出して後ろを振り向く。

 するとさっきまでそこにいたはずの彼は跡形も残っておらず、ただ遠くで、誰かの手を取って寄り添いながら歩いて行くのが見えた。いつのまにか雪は強く水っぽくなっていて、そこで初めて自分が薄着なことに気がつく。焦って彼の名前を読んでも、彼は気が付かないで誰かと手を繋いで歩いていく。何を言っても彼には届かない。だんだんと霞む意識の中、最後に見えたのは、彼の影と重なる誰かの後ろ姿。


「まって…」

 はっと目が覚める。気がつくと私は机の上で寝ていたようだ。ただ懐かしい夢を見ていただけなのだと気づき安堵する。

 実際のところ、私はまだ彼に婚約破棄はされていない。

 ただ、婚約破棄まで秒読みだということ、そしてもうすぐこの国から追い出されるということは自覚している。それは、誰もが気づいていて、誰もが知らないことになっている、公然の秘密だ。

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