第20話 浮遊霊の日常6

夜、とある通路を浮遊中の時の事


「なあ、この道やけに明るいだろ?」

「そうね。すべての電信柱に明かりがあるなんてやりすぎじゃない?」

「実はな、昔ここで事件があったんだ」

「それ、面白いの?」

「面白くは無いが、どうせ暇だろ?」

「そうね……」


俺は勝手に昔の事件を話すことにした


この道は、周りがすべて住宅街ということで、家の明かりが点いている間は明るいが、電灯の間隔は広く、深夜になるとところどころまったく光が当たらずに暗い所ができる


終電間際に帰宅してきたOLが居た。彼女はまじめな性格で、同僚に頼まれた仕事を一緒にやっていたため遅くなった。一人暮らしの女性としては当たり前の危機意識を持ってはいたが、わけあってお金を貯めようとしていたため、タクシーを使ったり、どこかのホテルに泊まったりしなかった


しかし、この日は……彼女にとって最悪の日となる


「遅くなっちゃった。この時間だと電気が消えて真っ暗になって怖いんだけど、あと少しで家だから頑張れ私!」


私は、くじけそうになる心に鞭を打って帰り道を急ぐ。今更どこへ行けるわけでもないが、あと数十秒の我慢だ。ポケットから家の鍵を確認し、すぐに取り出せるようにする


「すいません。ちょっと道を尋ねたいのですが」


私はビクッとして立ち止まった。丁度まっくらな場所の電柱の影から男の人が出てきた。家が近いこともあり、何かあったらすぐ逃げられる……そんな気持ちがあったことで逃げるチャンスを逃した。私がひるんでいる隙に、いつの間にか男2人が暗がりから出てきて私の口にガムテープを貼った


「んんー!」


私は抵抗したが、小道に車を停めてあったようで、女性としては小柄な私はあっさりと2人に手足を持たれ、車へ連れて行かれる。最初に話しかけてきた男が車の後部ドアを開けると運転席へ回っていった


「大人しくしろ! 殺されたいのか?」


その言葉で、私の体は硬直し車の中へ放り込まれ、両側を男に囲まれた状態で車が発進した


どこを走ったのかは分からないけれど、車から降ろされ使われていない建物の中に引っ張られていく。口のガムテープははがされたけれど、叫んでも恐らく誰にも聞こえないだろう


「俺たちの目的は金だ。金さえ出せば解放してやる」

「お金は渡せないわ。ねえ、こんなことやめて!」

「うるせぇ! 金が無いなら体でもいいんだぞ?」


私には付き合ったばかりの彼氏がいる。まだ、誰にも体を許していない私は、こんな男達を相手にするのは絶対に嫌だった


「おい、財布には大した現金は無いがキャッシュカードを見つけたぞ」

「お、それは僥倖。通帳はどうだ?」

「ご丁寧に通帳も一緒だ。おほー、結構金を持ってやがる」

「いくらだ?」

「1千万弱あるぞ」

「そいつはすげぇ」

「やめて! そのお金は母への……」

「うるせぇ!」


男は、私の頬をはたく。私はバランスを崩して地面に倒れ、膝を打って痛い


「おい、暗証番号を教えろ」

「そのお金は本当にダメなの! お願い! 許して!」

「許すとか意味わかんねーよ。目的は金だって言ってるだろ」


私は考えた。どうせこのまま時間をかけていても助けが期待できず、何もしなければ襲われてしまう……


「……2960よ」

「本当だな?」

「本当よ」


……今はこれで乗り切るしかない。最悪体は許しても、お金だけは絶対に渡すわけには行かない。私が出入り口の方を見ると、人影が見えた気がした


「助けて!」

「おい、叫ぶな! 口にガムテープを貼れ!」


私の口に再びガムテープが貼られる。さらに、ビニール袋を頭にかぶせられ、ご丁寧にも首周りをぴっちりとガムテープで閉じられる。運が悪いことに、慌ててつけられたガムテープは私の鼻も覆ってしまっていた


「暗証番号も聞いたし、顔を見られた以上、生かしておけないな」

「んんーー!」


私はその言葉を聞いて、話が違うと訴えたかったが、ガムテープのせいで話せない上、段々と息苦しくなってきた


「これを使うか?」

「準備がいいな、最初から殺るつもりだったのか?」

「念のため、な」


私にはこれが何を指しているのか分からなかったが、ろくなものでは無いことは分かる。そして、頭に衝撃が走る


ごんっ、がんっ、ごつんっ


私は何かに顔中を殴られる、しかし私はもう痛みよりも息苦しさで意識が朦朧としていた


「なかなか死なないな」

「さっさとしろ!」


さらに殴られるのだろうか……私は意識を失った


「っていう事件があったんだ」

「結局殺された上にお金も奪われたのね」

「いや、お金は奪われなかった。暗証番号が違っていたからな」

「それ、もし生きてATMの前に連れられて行ってたらどっちにしろ怒りをかっていたんじゃないの?」

「まあ、ATMまで連れて行ってもらえれば逆に逃げるチャンスもあっただろうけどな。暗証番号の真偽も確かめずに殺すとか、金に目がくらみすぎだろ」

「それで終わり?」

「最後に、偽の暗証番号の意味だが「憎むわ」らしいぞ」

「……せめて、犯人たちに最悪の結果が訪れますように」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る