第19話 浮遊霊の日常5

「幽霊ってお腹が空かないけど、ご飯を見ると食べたくなるわね。」

「誰かが墓にでもお供えしてくれれば、食った気になるんだが」

「でも、ピザとか供えてくれそうにないわよね?」

「普通はそんなもの供えないだろ」


何気なく街の上をプカプカ浮きながらアスカと雑談をしていると、最近はやっているのか自転車の配達をよく見る。

まあ、狭い通路や渋滞を考えると、車で配達するよりもよっぽど早いだろう。ただ、原付バイクの方がもっと早いと思うが、自転車のマナーを見ているとそうも言えないようだ。


「あー、一方通行の逆走なんていけないんだー。」

「お、あいつは赤信号でも突っ切って行ってるな。」

「危ないわ、小学生の下校の列を猛スピードで追い越しているじゃない。」


交通ルールなんてなんのその。マナーどころか違反を犯している自転車もよく見かける。


その中で、一瞬空を見てギョッとしたような顔をした自転車に乗る男性が居た。


「あいつ、俺達が見えているのかな?」

「面白そうね、着いて行きましょう。」


俺達は男性の真後ろに着いて行くことにした。近づきすぎると驚かせてしまうと思うので、できるだけバレないようにだ。

リュックを背負い、スポーツタイプの自転車で歩道をかっ飛ばしていく。歩行者をぎりぎり避け、信号が黄色の歩道を渡り、道路に出る時の後方確認すらしない。


「大学生かしら? 危ない運転するわね。」

「怖いもの知らずってやつだな。」

「あれ? ちょっとやばいんじゃない?」


自転車をこぐのに疲れたのか、大型トレーラーの側面に掴まっている。大型トレーラーからは死角になっているようで、運転手は気づいていないようだ。


そして、トレーラーは左のウィンカーを点ける。当然、側面に居る自転車には見えていないだろう。

それなりのスピードを保ったまま左折するトレーラー、そしてバランスを崩し、自転車は倒れた。


「ほら、いわんこっちゃない。」

「自業自得だが……あれはな。」


トレーラーは90度近く折れ、後輪が男性ごと自転車を押しつぶす。電柱を大量に積んだトレーラーは、重量のためか大した衝撃も無かったようで、自転車に気づかずに止まる様子はない。


後輪は男性の足を砕き、徐々に内臓を潰し、胸を潰し、最後に頭を潰した。さらに、そのままタイヤに巻き込まれ、元が本当に人だったかどうかも分からないほどぺったんこになっていた。


「……あの人が幽霊になったら一反木綿かしら?」

「いや、それ幽霊じゃなくて妖怪だろ……。」


俺もアスカも食欲が無くなった。……もともと無いか。

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