雪の静かに降る夜に

「って事でそろそろ還るわ」


突然宰務室に遣ってきて、ふたりは簡潔にそう告げた。


「そうか」

一拍おいてからそう答えて、筆を置く。

「もっとゆっくりしてきたかったんだけどねー。時間的には相当経っちゃったし」

楽しみが奪われたとふたりはぼやいた。


「まあまたすぐ遊びに来るよ。オーサマいる限り割と楽に行き来できるし。本当、もうちょっと居たかったんだけど、エリさんに報告もしなきゃいけないしねぇ。a子も城勤めだから」

「Kだって仕事溜まってんじゃないの?」

aは長く職場を離れていられない立場なだけで実際そう仕事はないが、Kは一応一組織のトップをやっているのだ。

「そうねぇ、デスクに山積みなんだろうなぁ。研究成果が…」

執務机の上の書類の山に目がいく。Kも帰還後の惨状が想像できた。

「やだなぁ、レポートって詰まんないのは本当詰まんないんだから」

「気持ちは解るが仕方がないな。それより、グールはどうする気だ」


グールはまだ身体が本調子ではない。

死にかけるような怪我だったのだから、そんなに簡単に治る筈もない。


「ぁー、じゃあ少し置いといてあげて。一段落着いたら迎えに来てもいいし」

「それがいいな。病み上がりに長距離は辛いだろ」


因みにグールとaの一件はKの一存でシールにも話しておいた。aもグールも居ない所でだったが。

話を聞いたシールはKと同様に「馬鹿だな」と呟いただけだった。


「それじゃ、またね。あんまり遅かったらグールに勝手に帰っちゃってもいいとは言っといて」

「解った。またな」


来た時と同様にふたりのカルキストは空間を重く振動させて還っていった。

十三年前の別れ際とは似つかないな、と少しだけ感慨に耽る。




騒動が全て収まって再び静寂に包まれた宰務室には、シールの滑らせる筆の音だけが静かに続いていた。

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