深淵ダァト

「にゃろ~、あと少しなんだけどなぁ」

遅々として進まない茨の破壊にaのリミッターが外れかけている。

要は、切れそうだ。

そこへ突如、

「ブカフィ!」

青い光に包まれて、橙が舞った。


「何やってんだよっ、呼んでも来ないと思ったら!」

現れた人物に怒りの色を浮かべるクロネコ。

「此処へは来るなと言わなかったか」

出来た隙を見逃さず、aが魔女の背後を取る。

首に手をかけてホールド。

「く…っ、おまえ…ッ!」

「この大きさでも、術を使えないKには勝てる。その身体、返してくれない?」

少し力を混めて脅す。

しかし、魔女は嗤った。

「っ、はは、殺せば? この身体が死ぬだけだ。ボクには害は無いしね!」

それにaは薄笑いで「あぁ――、」と肯き


「でもアンタの身体、もうアタシ達の手の内だから」

「!!?」


茨の内側で眠っていた筈の魔女は居なかった。

慌てて目を廻らすと、貝空の後、しゃがみ込むシールの隣に横たわる自分の身体を見つけた。

動揺する魔女に、クロネコは何が起こったか理解出来ずにいる。

「ほら、その身体返してくれないと、先にあっちの身体殺すよ? 身体が死んだら、終りだよね?」

悟ったクロネコが叫ぶ。

「何が見えているか知らんが、それは幻覚だ!!お前の身体は此処にある!」

「…ぁ」

aは優しげに微笑む。

「まあじゃあ、死んでみれば解るんじゃないかな」

シールの手にナイフ。

その銀の刃は、ゆっくりと魔女の首筋に沈んで―


「や、止めさせろブカフィ!!」

「…ッ」


無理な命令だ。存在しない危機は救えない。

うろたえるブカフィに痺れを切らし、魔女は

「ち!」

自らの身体を救う為、本体へ還ろうとKの身体を出―、


「復ッ活~♪」


瞬間、自らの失態を悟った。

自分の身体は、茨の中で眠っていたのだ。


バサバサと大きく尻尾を振って、瞳は青い輝きを取り戻す。

「わーっ、久し振りッ!ただいまmyBODY!!」

適当に動き回って身体の調子を確かめるK。

おかしなところはなさそうだ。


「さて、と」

腕をまわして、Kが召喚したのは小振りの筒。

薄紫色のそれは、クロネコの目にはとても不吉に見えた。

「タクちゃん、先輩…また借りるよ」

そう言って筒に軽く唇を押し当てる。

囁きは小さく、誰にも聞き取られる事はなかった。


aが二、三歩下がりKの後方で待機する。

シールを背に庇いながら、貝空は目を眇めて上座標に立つ主を―その手に持つ筒を眺めた。

身体を追い出された魔女は仕方なく自らの身体に戻り、茨の護りは氷解した。

クロネコの脇に立ち、Kを見上げる。

「くそっ、よくも…!」

「『思った通り。簡単に引っ掛かる。ほら、もうふたり』…返して貰ったよ」

aが、Kが奪われた時の台詞をそっくりそのまま引用して返す。

魔女は激昂して飛び込んで来そうになったが、クロネコが止めた。

「あの筒は危険だ」

「あんなのが?」

解ってはいたが、予想以上に今代の魔女は頭が弱い。

顔を顰めて説明をしようとした頃には、Kの手にした筒は大弓へと変化していた。

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