黒の祠

aは空を仰いでその名を呼んだ。

「ちょっと来な、ジズフ」

フィン。

「呼んだか」

相も変らぬ気軽な呼び付けに素直に応じたのは、記憶の通りに気だるげな、Kによく似た神秘の鬼神。

「…ははぁ」

ジズフは一通り辺りを見回して、納得したような小馬鹿にしたような態度で呟いた。

「おまえらその格好気に入ってんの?」

「「なわけねぇだろ」」

aとシールの見事に被った重低音に手をひらひらと振って「あっそ」と返すと、黒猫に向き直った。

「何だ猫? 何か言いたそうだな」

「…貴様…本当ニ神カ」

呆然と言い放つ黒猫にあからさまに気分を害したジズフがアップで近付く。

「ああ? 何処に文句があるってんだ」

「ソウイウ処ダ。コノ場所デ、我々ニ近付イテ、何故普通ニシテイラレル」

戸惑いながら告げられた言葉に、ジズフは不可思議そうに顔を顰める。

明らかに「何が?」と言いた気である。

「我等ハ闇。神ヨリ先ニ生ジ古来ヨリノ精霊ト生クル闇ダ」

古代精霊と同等の力を持つと言いたいのだろうか。

それは絶大な力。

古代精霊はその大きく静かな支配力を以って場の全ての精霊を従える。

精霊の力が使えなくなった神々は支配権が戻る迄の間眠りにつき、そこを狙ってオチガミは来る。

「ソレニココハ穢レノ場。貴様ガ神ナラバ、平気デイラレル訳ガ無イ」

鬼神というものは穢れに弱い。

肉体という殻を持たない鬼神は直接的に穢れの影響を受ける為、侵食され易く、闇に飲まれ易いのだ。

鬼神によってその耐性に差はあるものの、ジズフのようにここまで平然としては居られない筈なのである。


そこで、展開についていけず黙っていたKが手を挙げた。

「はーい、ウチなんとなく解ったよー。ジズフにその闇効かない理由」

その無邪気な挙手に、aが泣きそうになりながら貝空のイメージ崩壊に耐えている。

「ウチ等モデルにして生まれてるからさ、ジズフ。多分オチガミ退治の逸話継いでんじゃないかな。そうすると多分、唯一闇属性が効かない神」

ジズフ自身納得気に頷く。

「成程。鬼神ってのは穢れとかに弱いもんなんだっけ」

ジズフは再び黒猫に近付き、視線を合わせてしゃがみ込んだ。

不敵に、いつも以上に傲慢に笑みを浮かべる。

「それと。オレは召喚の鬼神の親にしてその後を継ぐ者。この神秘、味わってみるか?」

不利を感じたのか、黒猫はあっという間に身を翻し闇に融けた。


神秘の鬼神 ジズフ。

その神秘とはどういうものか、永年神学者達を悩ませて来た。

その力は第11番目の力。

闇に非ず光に非ず、時に非ず雷に非ず水に非ず氷に非ず土に非ず磁に非ず熱に非ず風に非ず。

その力は深淵の力。

全であり無である、全生命の根源の力。

共有意識。

世界の底に潜む、全ての生命が作り出すこの世の神秘。

ジズフは召喚の神の親にしてその後を継ぐ者。

11番目の国を、支配する者。

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