余話
「どうしよー、これ?」
こどもになってしまった自分達の身体を眺めて、頭が働かないまま呟くa。
「なっちまったもんは仕方が無い。着る物を調達してこよう」
「そうだね、よろしく」
そんな経緯で、シルータはぶかぶかのシャツを纏って廊下に出た。
このまま何事もなく物分りの良さそうな官のひとりにでも会えればいいのだが…。
そこまで考えて、丁度正面からやって来た人影に気付く。
「―…従兄殿?」
半笑いのその発言に、嫌な奴に遇ったと眉を顰めた。
王が口を開きかけたのを見て早口に被せる。
「何も言わんでいい。おまえの気の所為だ」
「そう言うなよ、服を貰いに行く途中だろ?連れて行ってやろうか従兄殿」
「――…いやいい」
「まあ遠慮するな」
言い様シルータを抱き上げる。
「いいと言っているッ」
王は聞く耳持たず。ご機嫌に歩き出した。
楽しそうに歩くヴァイスとは対照的に、シルータは不機嫌全開で王の腕に座っていた。
人通りの多そうな道を行くから性質が悪い。
そのうち数人の使用人が通りかかり、王の姿に目を丸くした。
ざわつく通路。
ヴァイスはその中から適当な人間を指して、こども服をいくつか用意するように指示した。
指示を受けた使用人は慌てて準備に向ったが、まだ通路は落ち着きがない。
「こいつ? 俺の子」
誰の子かと騒ぐ声に、ヴァイスが答えた。
ざわめきは一層に膨れ上がる。
「へ、陛下…ッ!?」
「その、…本当に…!?」
肩の上でこれ以上ない程嫌な顔をしていたシルータだが、次ぐヴァイスの発言に顔をあげた。
「うそうそ、タブリスの子」
「馬鹿かおまえ、そんな多少なりとも信憑性のありそうな事を!」
「元から似てたもんなぁ」
タブリスとはよく長期の旅に出てその消息が途絶える事がある王妹である。
ふたりとも祖父似で、シルータ自身も認める程ふたりの顔は似通っていた。
年齢的にこの大きさのこどもがいるというのは無理がある話だが、もしかしたら…と思わせる程度には似ている。
納得を伴った周囲のざわつきは、止まる事無く城へ浸透していった。
それから暫らくの後。
ゼクトゥーズの王城に、珍しい飛竜が舞い降りた。
「ねぇ兄貴。なんかアタシ息子が居るらしいんだけど?」
振られて一瞬話を掴み損ね、王はゆっくりと記憶を検索した。
「ああ…。今は母の城に居るらしいぞ」
「それは、アタシの城かな?」
「そう」
タブリスがエンの城に帰り着いて間もなく、側近が宰相の来訪を告げた。
「タブリス様、シルータ様がご挨拶にと」
「え、アーズが? うん。勿論通して」
許可を得て、扉が開く。
「失礼する。無断で城を借りている礼に来させていただいた」
入ってきた小さな人影に驚き、同時に全て納得した。
「成程、……アタシのこども……」
その呟きにシルータも眉を顰め、被害者の一人であるタブリスに謝辞を述べる。
「あぁ悪いな。やはりそうなったか」
「いいっすよ。どうせその噂、元凶は兄貴でしょ?」
「まあな」
年上の従兄にもラフな態度の王妹と、目前の人物の兄である王にも不敬な宰相は互いに苦笑いするしかなかった。
「では失礼する」
一通り挨拶と事情説明を済ませて、シルータは部屋を後にしようと背を向けた。
「あ、待ってアーズ」
呼び止められて振り返ると、兄と同じ血を感じさせる笑みで微笑むタブリスが居た。
「一枚記念に撮っとこ。そんな嫌そうな顔しないで」
「で、これか」
「うん。上手く撮れてるでしょ」
頷くヴァイスの手の中には一枚の写真が納められている。こどもの姿のシルータと母親ぶったタブリスのツーショット写真だ。
笑顔で顔を寄せるタブリスと眉間に皺を寄せた難しい顔のシルータが対照的だ。
「しかし本当そっくりだなおまえら」
「そうだね。母親ってのも、悪くないかも」
更に後日。
写真はK達の元へ届けられ、大爆笑とシルータのヴァイスへの恨みを生む事になったのだった。
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