青と灰色

改めて街並みに目を遣る。

不気味としか言い様の無い世界が続いている。

冷や汗を流しながらも冷静を装ったシールはゆっくりと、呻き声を上げるひとりに手を伸ばした。

触れた瞬間そこからピリッと青白い光が走り、小さな痛みにすぐさま手を引く。

数回振ってその手を見つめた。

「………」

「シール? 大丈夫?」

まさかシールが人に触れるなんて思ってもみなかったaは急いで駆け寄った。

暫らく手を握ったり開いたりしていたシールだが、額を抑えて突然ふらつき、その場に座り込んでしまった。

「シール!ちょっと、平気?」

隣にしゃがみ込んで様子を窺う。

呼吸が浅く早いシールの様子を見て、aに緊張が走る。

「シール?」

「………」

暫らく考えて、一旦城へ退いた方が良いだろうと決断を下しaはシールへ手を伸ばす。

と。

突然腕を掴まれ、睨むような形相のシールと目があった。

「シ…」


やられたのかと思った。


「視えた…、ブカフィが…」

「は? な、何だって?」

シールは裾を払ってゆっくりと立ち上がると、髪を掻き揚げてもう一度しっかりとaを見据えた。

「視えたんだブカフィが。…調べ物ができた。居場所と目的が解るかも知れん」

突然の展開に、aは半ば呆然と、理解もせずに頷いた。



エンの領主の城の一室を借りて、aとシールは一枚の地図を眺めている。

シールが崖側の森を示しながら淡々と語る。

「ここがエンとシャリオの境。森は共有地だ。住むのは禁止されてる」

森の線を辿りながら説明を続ける。

「エンは領主が強力な魔祓師だから闇属性の奴等には居心地が悪い筈だ。で、」

指はどんどんシャリオ側の森へと移って行く。

「境のシャリオ側。この森には小さいとは言え『黒の祠』がある」

「黒の祠?」

その甚く不吉な名にaは眉を顰める。

「別名生贄の墓。こっちの方がストレートだな」

「あー、…了解」

予想通りの答に嫌な顔で頷いて先を促す。

「魔物の影響下にあっただろう人物に触れた時、黒の祠が見えた。黒猫もな」


流れ込んで来たのは哀しい魂。

それは繰り返し癒される事無く存在し続けたぼろぼろの魂。

金色の楔が打ち込まれた魂は因果の鎖で雁字搦めになっていて。

この世が憎くて仕方が無いのに全てが憎くて仕方が無いのに、何処かで救われたいと叫び続ける哀れな魂。

今までこんな魂は見た事がない。

重く重く、苦しく、切なく。

憎しみは波のように炎のように溢れ返り、果てなく全てを呑み込み焼き尽くそうともがく。

思い出しただけで気持ちが悪くて、シールは強く眉を顰めて俯いた。


「シール?どうかした? まだ気分優れないなら…」

aが心配して覗き込む。

「いや、支障ない」

再び顔を上げて話を戻す。

「場所は判ったが目的が気になる。…一度城へ戻るぞ」

「ぁあ、調べ物だっけ」

「あぁ。行くぞ」

歩みかけた足をはたと止めてシールは窓を振り返った。

「どうした?」

少し緊張してaは周りの様子を探る。

よくよく気を張り巡らしてみれば確かに空気の感じが少しだけ変わった。

嫌な感じはしない。

どちらかというと安心出来るような、強い意志を感じる。

「エンの領主がお帰りだ。…珍しい。挨拶が先になった」

領主が戻って来たのなら、この国はもう安全だ。魔に襲われることはこれ以上ないだろう。

「アタシも行く?」

領主の城を勝手に拝借しているのだから、と思ったのだが

「いや、どっちでもいいと思うぞ」

aは勿論、行かなかった。

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