青と灰色

「あははははははははははは」

延々と笑い続けるKを『穴』へ戻して、aは椅子から降りた。

7歳程の大きさしかなく、髪も眼も黒に戻っている。

aの赤い瞳はフェニックス君との契約色なので、色が戻ったという事は契約も失くなったという事になる筈だ。

だが、実際は自力神力何れの召喚も可能だった。

どういう事なのだろうか。


ノックの音がして、報告ついでに服を取りに行っていたシールが戻ってきた。

その表情と髪の乱れから大変可愛がられてきたであろう事が覗える。

差し出された服を受け取る。

「ありがと。何て?」

「暫らく休みを貰った」

お暇を出されたという事だ。この様では仕方が無い。

「これも呪い? …はぁ。どうする?」

「どうするも何も…」

髪を掻き揚げるシール。大きければ様にもなるが、今はなんだか可愛らしい。

「とりあえず、対策を練るか」

「だな」

こどもふたりで、作戦会議です。



「でさあ、ウチの体取り戻す方法は?」

『穴』の中でKは貝空に詰め寄った。

此処では霊体でも支障は無いのでKは今はペファン像から出ている。

因みにこのペファンの像…というかペファンを象った珠は、精霊殿から拝借してきた物だ。


貝空は呆れ顔で主人を見据えている。

本来、使役される身である玄獣がその主人から意見を求められる事など無い。

玄獣とは、意思は持っていても、主を持つ場合は基本的にその命に従うだけだ。

主に意見したりなどはしない。高性能なロボットの様なものだ。

「…何故俺に聞く」

当の主は然も当たり前と首を傾げる。

「だって貝空の方がこっち詳しいじゃん。ウチにはよく解んないし」

「………」

貝空は諦めて首を振り、溜息と共に言葉を洩らした。

「じゃあ何が知りたい。質問には答える」

「えー!!考えてよー、ウチの体取り戻す方法―。的確な質問すんの苦手なんだけど!」

じたばた駄々を捏ねるが貝空には通用しない。

「俺達はあくまでお前の『道具』だ。上手く使ってみろ」

解ってるだろ? と。

見下げる貝空を、上目遣いに見上げる。

解ってるけど、と。

「…貝空は、別物なんだよー」

貝空に届いたかは解らない。



シールとaは宰務室の戸を開けた。

開け放った戸の正面、宰相の執務机の上に、長い足を組んだヴァイスが何かの資料を片手に腰掛けていた。

暫らく後、シールが口を開く。

「陛下。机に座るのはお止め頂きたい」

そこで漸く紙面から眼を外してヴァイスはふたりを見た。

「ああ、従兄殿か。それに第二師団長も。ふたりして随分若造りだな」

「いいから早く降りろ。俺の机だ」

ヴァイスはハイハイといった様子でゆっくりと腰を上げると近くのソファに座り直した。そしてまた持っていた書類に目を落とす。

シールも王に向かって口が悪いなあと考えながら、aは遥か高みの王を見遣った。

元のサイズから見てもでかいのに、今のサイズで見上げるとかなりの威圧感を受ける。

しかも今彼は座っているのに。

これは立たれたら見上げるのは相当大変だろう。

というかそれよりも…。

「ヴァイス反応無いね」

眼も髪も色が違うこどもの姿で現れて、普通に認識して貰えるとは思ってなかった。

寧ろあの騒動を期待してさえいたんだが。

王は書面から目も離さず言った。

「ああ、さっきもう従兄殿に会ってるからな」

「なんだ、そっか」

「最初からそんな反応だったぞ、こいつ」

「え。 そ、そっか」

凄いとは思うが、やはり少し残念だった。

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