禍根
Kは象を抱えてシールを呼び続ける。
象は闇色になりKには視覚出来なくなったが、それでも抱えた手は離さずにシールを呼び続けた。
灰色の霧の中、唯一出来た闇の中に、此処に来て初めての『空気の流れ』を感じた。
その闇はKのよく知っている闇になったのだ。
それを理解したKは、その『闇』へ手を伸ばした。
互いの手が触れ合い、互いに強く掴み合った。
シルータが自分側へと強く引っ張る。
「ぅっ…わあっ!!」
投げ出される様にして出てきた霊体は、オレンジの髪と青い瞳を持っていた。
きゅっと空中に停止して、シールに向き直る。
「シール!もっと丁寧に扱ってよね!」
「…悪ぃ」
一瞬の見詰め合い。
喜色満面のKは苦笑いするシールに小花乱舞で抱きついた。
「ありがと!!シールッ!」
「良かったーシールが見つけてくれて。流石!期待してた!…a子は?居やしねぇし」
霊体なので触れられはしないが、シールに抱きつく姿勢で纏わりつき止め処なく喋り続けるKに、シールは読み難い顔に少しだけ照れを含んで無言で上を指した。
Kは示された方を見て表情を変える。
そこには、少し困ったようなイラついた様な顔をした『自分』が居た。
更に辺りを見回すと、もうひとり珍しい人物が居た。
「あっれ!?オーサマ? 何、オーサマも助けに来てくれたの?」
「結果的にな。俺は宰相殿のお守り」
当の宰相殿は恐らく少し憮然としているのだろう。
Kは納得したと言う表情を作った。
「だからa子の奴居ないんだね。a子は何処行ったの?」
これにはシールが短く「グールの方へ」とだけ答えた。
「何、グールも捕まったの? …あ、黒猫」
黒猫に反応してシールが目を配る。
あぁ、とヴァイスが説明をくれた。
「そいつさっきあの青い球体から落ちて来たんだ。どうやら向こうは巧くやったらしいな」
すると『K』が笑った。
「あはははは!そうか、残念だな。残念だった。でもますます手に入れたくなったよ。あははっ」
Kは不気味そうに眉を顰めた。
「なに、狂っちゃったの?」
『K』はゆっくりとこちらに視線を向けて、笑みを浮かべながら言った。
「折角手に入れた武器だったのにね、壊されちゃったよ」
「それは、まさか…」
Kが呆れ気味に『K』を見やる。
「もう一人のマルクト・ターナが、あの平地族を殺しちゃったから」
Kはあーあと言う風に額を押さえて俯いた。
「マジかぁ」
シールも呆れて溜息を吐いた。
「まぁ、そういう可能性もあったな」
『K』は笑ったまま、押さえた声で言った。
「へぇ、冷たいんだね? ボクは本気で彼が欲しくなったよ。どうせ、解放されたからと言って君には身体を取り戻すなんて事出来ないんだし」
Kは今気付いたと言わんばかりに自分を見上げた。
「あー、身体かぁー。そういや無いんだったわ。…ん?」
シールと黒猫たちはともかくとしてヴァイスにも普通に認識されているようだが、霊体とは。
少し思考を奪われた隙に、黒猫と『K』は
「あっ!!」
青い球体に吸い込まれるようにして消えた。
しまったと声を上げた時には青い球体も消えていた。
ちきしょーと悔しがるKに、シールが告げた。
「いい加減、離れろ」
Kはシールの首に腕を絡めたままだった。
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