禍根

黒猫はニャアと鳴いて、瓦礫から跳び降りた。

ほんの少しaが優勢で続いていた戦いは、グールが縛呪をかけた事で止まった。

黒猫が優雅にaの下を歩く。

「だから、甘い言うねん」

一歩、グールが近付く。

「…まさか、グールに負ける日が来ようとはね…」

身体が動かせない。

これはマズい。

aはほんの少しだけ体術だけで純粋な勝負をしてみた自分を悔いた。

「最初っからコルード召喚しとくとかすりゃあ良かったんにな」

鋭く伸ばした爪を舐めながら近付いてくるグールを力強く睨み付ける。

「訊きたいんだけど」

グールはaの方を見てはいるが、目を合わせようとはしなかった。

「グールは洗脳されたの? それとも普通に、そっちについたの? 裏切ったの?」

猫が鳴く。

「…洗脳? …裏切り、なぁ」

目が合わない。

「俺は服従を強いられとっただけや、おまえらに。…裏切り言うんは、ちゃうやろ?」


最初のターミナルでa達に襲い掛かってきた人喰種。

あの時も不意打ちで縛呪を喰らって、シールに助けて貰ったんだった。

返り討ちにしようとしたふたりをこれもまたシールが止めて、服従の契約をさせた。

無理矢理引っ張り回していただけ。

それはそうだ。

だけど。

ポケットの中で契約の証くびわが存在を主張する。


「………そうだった、ね。じゃあ、今までも全部『仕方なく』か」

「…あぁ」

aにはもうグールの表情が読めなかった。

「じゃあ、もう…アンタは本当に敵だ?」

「せやって」

「そっか」


一度目を瞑って、開く。

力いっぱい、aは目の前の『敵』を睨み付けた。


感情が無茶苦茶だ。

怒りに任せて闘気を放つ。

視覚化できそうなほどの殺気は、見えない枷をも弾き飛ばした。

勢いで、グールも黒猫も吹き飛んだ。

黒猫は遠くの瓦礫に華麗に着地を決め、グールは背で地面を5m近く滑った。

衝撃で咳き込んだ処へ、上空からaが飛び込むように拳を見舞う。鳩尾に綺麗に入った。続き様に蹴り上げ、アッパーで空中へ、エルボーで地上へ叩き落す。

グールは盛大に血を吐いて暫らく痙攣を繰り返し、やがて動かなくなった。


見事なコンボが決まった所で、すっと視線を黒猫へ移す。

冷静に見つめていた黒猫に気功砲が襲い掛かる。

連続で3発、間隙を空けて5発放つ。

華麗に避け続けた黒猫も後の2発を避け損ね、一発掠ってもう一発はまともに喰らった。

潰れた声を上げて地上に叩き付けられる。

隙を逃さずまた3発。

土埃で標的を見失いそうになり、急いで駆け寄る。

黒猫は白の呪字が乱雑に書き込まれた青い光を放つ球体の中に居た。

緑の目がaを捉える。

一瞬出来た隙を突いて、甲高い笑い声を残して球体ごと消えた。

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