禍根

薄明かりの中精霊殿の最下層まで辿り着いたふたりは、突然の光に目を眇めた。

最下層の一番奥にひとつだけあった巨大な扉。

その先に現れたのは、周囲隙間無く絶壁で囲まれた円柱状の空間だった。

遥か上空に小さく丸い空が見える以外は、全て黄茶色の岩肌だ。


そんな空間の中央に、青い球体が浮いている。

球体の周りは、白く呪が巻かれている。

そして。

「来たのかい? 無駄な事だね。ああ、煌王まで」

大仰に抑揚を付けた声。

球体の上には、橙髪が青空によく映える女性がひとり浮かんでいた。


「おまえ、何者だ」

シルータは仲間だった筈のその姿を見つめて言った。

すると、ぱっと明るい表情で、まるでKそのもののような口調で。

「何者だって? 酷いな、忘れちゃったの?」

そう言って笑った。

「悪趣味」

ヴァイスの言葉に『K』の表情が一瞬消えるが、すぐに歪んだ笑みを作り直した。

「本国の国王と宰相が同時に来たんだ。揃って消えて貰ったら面白そうだね」

詰まらなそうにKを見上げていたヴァイスは

「従兄殿、とっとと第13師団長を連れ戻して来い。一応待っててやる」

そう言ってしゃがみこんでしまった。

「………」

視線をヴァイスから『K』へ移す。

「あいつは何処だ。…おまえの中には感じない」

確かに気配を辿って来た筈なのに、強く気配を感じた扉をくぐると気配は消えていた。

「あはは、何処行っちゃったんだろうね? 消えちゃったかな?」

それはない。大丈夫だ。まだ微かに気配は残っている。

「涼しい表情かおしてるけど。情に厚いのかな?宰相さんは。異邦人ひとり消えたくらいで」

「そうだな」

ずっとこちらを煽るように話し続けている『K』に適当に返事をしつつ思考を巡らせる。

Kが何処にいるのか。

どうしたら取り返せるのか。

「仲良くお話なんかしてると本当に体盗られるぜ。あ、なぁ従兄殿。ここ、何の精霊奉ってたんだろうな?」

何を言い出したかと振り返る。

ヴァイスは入ってきた扉に背を預けていた。

コン、と軽く手を上げて頭上で戸を叩く。

その岩戸に彫り込まれた壁画には。


闇の精霊を奉っていたというシンボルが、今でもしっかり描かれていた。


闇の精霊の王ルーファスに従うとされるその聖獣像は、岩肌が光を反射して、まるで金色に輝いているように見える――小さな丸い象だった。




変化を感じた。

象が近付いてきている、ような気がする。

じっと見過ぎた所為かと自分を疑ってもみたが、やはり段々近くなっている気がする。

更には、白地に青模様だった象の、青が段々勝ってきている。

Kは再び歩き出す事にした。

ゾウさんを、迎えに行こう。

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