陶器の球体
シルータとヴァイスが辿り着いたのは、砂と岩に覆われた山地だった。
「どっちだ?」
ヴァイスの問いにシルータは気配を探る。
Kはシルータを呼んでいる。ヴァイスにはKの気配は感じられない。
「あっちの方に…何かある。それに、何か居るな」
シルータの示す通りに進むと、そこには小さな精霊殿があった。
今はもう何の精霊も居ないようだ。
代わりのものが棲み付いていた。
「うわ、すげぇ数」
黒い陰。形を成さない有象無象。
ソレは揺れながら近付き、突然退いた。
ヴァイスの気に弾かれたのだろう。
「気配は――…精霊殿の奥か」
「んじゃ入ってみるか」
ヴァイスが一睨みすると、集っていた有象無象は呆気なく霧散した。
精霊殿の中は氷洞の様だった。
真暗闇とまではいかないがかなり暗く、吹き抜ける隙間風は肌に冷たく突き刺さる。
「寒ぃ~、やけに冷えるな」
ヴァイスの呟きが高く反響する。
時折落ちる水滴の音が、ますます不安を煽った。
まるで地下牢にでも入れられた様だ。
太古、何かの精霊を祀っていただろうこの精霊殿は、地下へ地下へと続く造りのようだ。
この精霊殿、外見に反して内部はかなり大きいらしい。
ケテルに、こんなに古い、しかもかなりの規模の精霊殿があったとは知らなかった。
厳しい岩山の山上に入口があったのだから、恐らくこの土地の所有者も存在を知らないに違いない。
黙々と下っていく二人。
退屈になったのかヴァイスがシルータに声をかける。
「長ぇな。なあ、従兄殿」
「そうだな」
「なんか喋らないか? 黙々と下るのにも飽きたんだが」
「…そうか。では話そうか? カムシャ公から再来週の誕生会の招待状が届いてたぞ。それから来月の城の補修工事の予算案が出来ている。ご確認戴けたかな? あと先日の無断外出について元老院に問い質されてる。何故俺の処に来るんだ? それにだな、次の祭に合わせてアツィルト会議が開かれる事になってるのは知ってるだろうな。今度ばかりは逃げるなよ。まだある」
「わかった!……悪かった、黙って歩こう。な」
「フン」
眉間を抑えてシルータを制したヴァイスに、シルータは小さく鼻を鳴らして見せた。
もう幾つの階段を下ったのか、風を感じなくなってきた。
次第に空気は澱み、水っぽく重たいものとなっていく。
微かに洩れ込んでいた光も無くなり、辺りは本格的に真暗闇となった。
暗闇を進むのは危険だ。
光源になるような物を持っていなかったシルータはaの不在を不満に思った。
彼らはいつも必要な物を突然手中に出現させる。
当時はあまり考えていなかったが、なんと楽な旅をしていただろう。
なにせ、殆ど手ぶらだったのだから。
立ち止まって思案していたシルータに、ヴァイスが話し掛ける。
「どうした? …ぁあ、光か」
そう言って何か無いかと全身を探した後、ねぇな、と呟くと懐から水晶球に似た何かを取り出した。
肩元に向かってなにやら呟くと、すぅと暖色の光が球の周囲を微かに照らした。
シルータは不審気にそれを見た。
「光源は有難いが…」
それは何なのかとヴァイスに目を遣ると、彼は悪戯な笑顔で口許に指を立てた。
「ナイショだぜ、従兄殿」
何がなんだか全く解らなかったが、そもそも物事に対する興味は強い方じゃないので
「まあいい。光は光だ」
とだけ返しておいた。
灰色の霧の中で暇を持て余していたKは、象の光が淡くなったり強くなったりし始めたのに気が付いた。
なんとなく不安がよぎる。
――……
瞬きを繰り返す象を見ながら、Kは何故陶器のゾウさんが光るのかを考えて時間を潰す事にした。
そういえばグールのことはすっかり忘れてたなぁ、なんて事も思い出しながら。
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