陶器の球体

灰色の世界は未だKを拘束する手を緩めない。

そろそろ念じるのにも飽きて、退屈を感じ始めていた。

貝空を始めとしてあらゆる召喚獣の召喚を試みたが、上手くいかない。

思い付く限りの事はやってみた。

打つ手なし。手詰まりだ。

身体が無い以上飲食排泄は考えなくて良さそうだが、意識があり続けるというのはなかなか厳しい。

――カミサマってタフだな

そこで思考を一旦止め、無理やりに切り替える。

――やっぱり助けを呼ばなきゃ

すると、視界の片隅で何かが小さく光った気がした。

この灰色の世界で初めての異変だ。

意識を凝らすと、それは小さな丸い陶器の象に見えた。




aはシールと別れて南方でグールを捜索中だ。

ヴァイスがついているなら問題ないだろうと、Kの事はシールに任せた。

心成しか、手の中の光は段々淡くなってきている。

焦りを感じつつも、aは光の示す方へと進んでいく。

脳裏にちらつくのはグールのこども達。

顔はよく見えなかったが、彼らからパパを借りてきたのだ。

多少耳付きであったとしても、心は取り戻した状態でお返ししなくては。


青い光はまるでインドやタイの寺院を髣髴とさせる形の建物を包み込むようにして果てた。

明らかに怪しげな雰囲気漂うその敷地へ、aは一呼吸して降り立った。

息が詰まる程の存在感。

そこに「何かが居る」という感覚。

不安を感じて、気配を殺して建物内に進入する。

召喚獣は一度帰還させた。


建物内に入ると、増した存在感によってグールの気はさっぱり掴めなかった。

全く無人のような、大勢の何かに囲まれているような。

aは自分の感覚が狂っていくのを知った。

室内に風のザワメキを感じて足を止める。

耳を凝らすと、奥の部屋から微かに猫の鳴き声が聞こえてくる。


――ナァ、オ


aは鳥肌が立つのを感じながら、久し振りに怖いと思った。

自分はとんでもない所へ足を踏み入れてしまったのかも知れない。


だんだん何もわからなくなっていく。

自分が今何処に居るのか。立っているのか座っているのか、黙っているのか声を上げているのかさえ――…

ただ猫の声だけが鮮明に、脳内を駆け巡る。

気が遠くなる。

世界が、歪む


――カランッ、カ、コロロ……


「!!」

急速に意識が戻ってきた。

見ると、床にはグールの首輪が転がっていた。

これの落ちた音で意識を取り戻したようだ。

aはゆっくりとしゃがみ、そっとその霊石を拾い上げると強く握り締めた。

「…グール…」

紐部分をズボンのベルト通しに括りつけ、余り部分をポケットにしまった。

気を取り直して再び探索へ向かう。

気がaを覆っている。

a自身の気だ。


やっぱり隠れるのは止めだ。向いてないわ。

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