陶器の球体

軍議の終了を待って宰務室を出たシルータは、客室棟へ向かう途中で王と出会った。

「陛下?何故此方へ」

不審に思い声を掛ける。

煌王はニッコリ笑って両手を広げてみせた。

「やあ従兄殿。従兄殿を散歩へ誘いに来た」

「………」

胡散臭いものを見る目で暫く王を眺めてから、深い溜息をひとつ。

「さぞかしいい場所を知ってるんだろうな?」

ヴァイスはついて来いと言わんばかりに踵を返して歩き出す。

「さあ。それは従兄殿に探して貰おう」

「なに?」

シルータはヴァイスの後を追って、足早に廊下を抜けた。



「待った待った待った!今度はアタシが置いてかれるの!?」

駐翼場で遠出用の飛竜を見繕っていると、水色の丸っこい龍に乗ったaが勢いよく突っ込んできた。

シールの隣に立つ人物に気付き目を丸くする。

「えっヴァイス!?え、出掛ける気??」

今この状況で、国王と宰相が揃って城を離れるのは流石にマズい。

「なんだ第二師団長、行くなら急いだ方がいいぞ」

「あ、え、お」

「ほら行くぞ」

混乱するaを後目に煌王は飛竜を駆った。

「あ、い、行くけど!」

乗って来た龍をしまい、大きな蒼龍を喚び出すと、後ろにシールを乗せて後を追った。

目的地も判然としないまま。




なんだかよく解らない、靄がかかったような一面灰色の世界で、Kは不安気に欠伸を噛み殺した。


――なに此処。なんにもない。


先程からずっとこの灰色の霧の中を彷徨っている。

霧の様な靄以外には何も無い。

何処まで行こうが音一つ無い。

道も無ければ、実は多分身体も無い。

自分の手足も見えないし、身体にも触れられない。

動かす感覚だけならあるのだが。


――誰か、助けてくれるかなぁ。


自分が何処にいるのか、どういう状態なのかもさっぱり解らないが、誰か自分を探して、見つけて、助けてくれるだろうか。

この状態が、意識のみ…即ち魂というものだとしたら。


――シールなら、見つけてくれるかも知れない。


であれば、シールを呼んでみよう。

この何もない霧の中。出来る事は、念じる事だけなのだから。

Kはこの孤独の中で、シールの名を呼び始めた。




Kとaにシールと呼ばれている彼の本名は、シルータ・アーズ・マディメ。

アーズは役職、宰相の意で、13年前はその場所に領地であったエケルットの名が入っていた。

彼に加護を与えているのは霊視の鬼神マルネス。

それにより彼は、魂を見分ける事が出来る。

彼の生活上、取り立てて役に立つ力ではないが、過去2度、僅かながら役に立ったこともある。

どちらも、13年前の旅の途中で。


蒼龍コルードの背でシルータは何時にも増して無言だった。

常から口数の多い方では無いが、今は何かを話す余裕がなかった。

「従兄殿が探してみれば、気配が掴める筈だ」とヴァイスに言われ、意味が解らないままそれでもその言葉に従った。

Kの気を掴もうと集中しては、掴めずに不安になる。

他人の事で何故こうも心配しなくてはならないのか、シルータは戸惑いと軽い苛立ちを覚えていた。

一度息を吐き心を落ち着けてから、もう一度Kの気を探ろうと意識を集めた。



当ても無く飛び続ける事に疲れて、何の気も無しにaはジーンズのポケットを漁った。

「――――!!」

指先に、冷たい石の感触。

aは慎重にその石を引き摺り出した。

出てきたのは、大粒の青い霊石の付いた首紐。

「そっか、これがあったわ」

aは石を強く握り締めて念じた。


―グールッ、何処だ!!


途端、霊石は青く輝き、その青光は南を指した。

「居た!南か。シール、きっとKも一緒に」

振り返るとシールは閉じていた瞳を開いた。

「掴んだ、こっちだ」


シルータが指した先は、西だった。

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