戦場

午後の緊急会議にはaも出席していた。

今日知った顔がいっぱいある。

ここでaは第13師団長の異変と共に、予測を伝えた。

狙われているのは自分たちだと。

ケテルはとばっちりを喰った形になるのだろう。


「国を離れた方がいいでしょうか」

aの問いに、第1師団長は首を振った。

「居てくれた方が助かります。それより第13師団長です」

一同は深刻な表情をしている。

確かにaとしてはKが心配だし、何かあっては困るが、皆がそんなに心配してくれるのもちょっと不思議だった。


「彼が敵に回るとなると…厄介だな」

ああなるほど。そういう心配であれば、とaは口を開く。

「召喚術の使用は出来ない様でした。それが無ければ」

Kは決して体術は強くない。

力も無いし、体力はほぼ皆無だ。

集中力も命中率も高い方ではなく、遠くからの落ち着いた攻撃を得意とする。

つまり弱い訳なのだが。


「こちらの士気に関わる。何しろマルクト・ターナだからな」

aは曖昧に笑顔で返した。

伝説だなんて面映いが、あの歓声を聞いてしまったaは、そういう評価をされているという事実として受け止める事にした。

だからこそ『K』は、オチガミを仕掛ければカルキストが来ると踏んだワケだ。

バレないように溜息を吐いて、aは机の下で拳を握りしめた。





忠告は受けていたのに。

報告を受けてから、そればかりが頭を廻る。

振り払おうとして、シールは苛立ちのままに床を蹴った。


グールはともかく、Kを盗られたのは痛手だ。

オチガミを仕掛けてカルキストを、しかもKを奪ったなら、次は『貝空』を使ってくるかも知れない。

aの話では召喚術は使えないようだったらしいが、それもいつまでか解らない。


オチガミの逸話など比ではない。

マルクト・ターナを伝説の英雄に位置付けた最大の功績は、玄霊退治だ。

永年世界を脅かし続けたその狂気を。

多くの者が挑み、全ての挑戦者を散らしたその狂気を。

消し去ることは出来なかったが、従えた。


召喚の神を核に据えて理性を得、名を与えられて玄獣として型に収まったそれは。

貝空と呼ばれ、Kを護っている。





現在砂漠では魔徒の影抜きが行われている。

つまりオチガミが去った後の土地と人の浄化作業だ。

主に魔祓師と医者の連携作業である。


手伝いに借り出されている下っ端の兵士達は忙しさの中、疑問を口にし合っていた。

「何だったんだ、あの大量のオチガミは!?」

「オチガミが二匹以上出たなんて話聞いたことも無いのに、何十匹といたぜ?」

若い兵が隣りの同僚に声をかけた。

声をかけられた方は両腕で自身を抱締めながら、心底嫌な顔で首を竦めた。

「やめてくれ、思い出させるのは!――ぁあ、怖気が走る!!」

中年兵がからかう若兵を止めながら言った。

「確かに聞いた事も無い量だったな。古代精霊も居なかったのに」

一通りオチガミの感想を言い合うが、一様にそわそわしている。

「それで、あれは」と誰かが口を開けば、我慢出来ずに一斉に溢れ出す。


「カルキストだったのでは!?」

「やっぱりそうよね!?炎猪、炎猪いたもの!」

「いいなぁ!俺の方からはドレイクに似た感じの鳥しか見えなかった」


伝説の再来を目にした人々の興奮は覚めやらず。

夜が過ぎても、その話題で持ち切りだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る