戦場
貝空に乗って、Kは上空から沙漠に集う黒の群れを見ていた。
鳥の群れやウンカのようだ。黒の靄が不定形ながら一定量を保ってじわじわと移動している。
進攻速度はゆっくりに見えるが、実際傍に降り立って見たらきっとそうでもないのだろう。
aはケルプ―黄色の羽毛と翼を持つ犬のような大型の獣―に乗って、国境沿いの町の様子を見ていた。
オチガミよりも先に魔徒と化した沙漠の民が町へ流れ込み、境界で一部の町人と揉み合っている。子供や非力な者は北へ北へと逃げだしていた。
盗賊崩れの沙漠の民は強い。もう既に防衛線は一部決壊している。
「まぁ、だから出されたんだけど」
ここでaが降り立って無双しても良いのだが、流石に一人ではこの範囲攻撃は防ぎきれない。
「取り敢えず、まず沙漠の民を元に戻すかね」
Kはそう言って、思いつく限りの火を操る召喚獣を召喚した。
オチガミへの対抗策の最大の難点は、対峙する時神力が使えない事だ。
今回のオチガミはブカフィに操られて現れたのだから、神力は使えるかも知れない。
が、Kとaにはそれは関係がない。
例え玄獣の召喚を封じられても、Kお手製の
「さあ、やっちゃって!」
オレンジ色の竜が火を噴く。
太陽のような燃え盛る鳥が火の粉を降らす。
猪が、炎を纏って駆け回る。
地上でオチガミに怯えていた人々は、突如として空中に現れた輝く鳥や見知らぬ竜に驚き、燃え盛る炎猪を見た時、誰からとも無く呟いた。
「…カルキスト…カルキストだ!!」
伝説の再来に、希望に満ちた歓声が上がった。
召喚獣に指示を出しつつ上空からオチガミを焼き払っていたKは、眼下に溢れるオチガミの欠片を見てそろそろいいかと攻撃の手を休めた。
「じゃ、aさん。ウチちょっと下で戦ってくるわ」
オチガミを焼き払った後に出来る欠片は、どうやら触れる事で暫らくオチガミの影響を遮断出来るらしい。
K達が作り出したその欠片を拾い、aは清めの塩のようにバラ撒いて回っていた。
「くれぐれも気を付けろよ」
はぁ~いと軽く返事をして降りて行くK。
その姿にa子は、ただオチガミの量が減り攻撃が当たり難くなった事に痺れを切らしただけだろうと察した。
欠片を拾ってKが火竜を取り込むのが見えた。
召喚獣をその身に宿す事で、彼らの能力を一部直接使えるようになる。
因みにこれは流石に神力による業だ。
過去オチガミと出遭って魔徒と化さなかったのはKだけだった。
だから、本人もaも、皆油断していたのかも知れない。
一瞬、Kが膨らんだ様に見えた。
ドクンと空気が脈打ってKが弾けた。
吹っ飛んできた火竜がa子の横で止まる。
「どうした!?」
酷く怯えた様子の火竜に焦燥を感じつつ、視線を巡らせる。
Kが居ない。
再び火竜へ視線を戻し、瞬間、aは凍り付いた。
眼前に浮遊するのは、腕を組んで此方を見下ろしている、K。
もう見慣れてしまいつつある耳と尻尾を風にそよがせている。
その瞳は、黄色かった。
「おまえ、誰だ?」
魔徒になったのではない、と思う。
この瞳には意思がある。
少しブレたラジオのような、違和感のある声で『K』が言った。
「思った通り。簡単にひっかかる」
aは血の気が退いていく音を聞いた。
―何を言っている…
町の方から叫び声がした。
見ると、誰かが沙漠へと出ていこうとしている。
「バカ…ッ、出るな!憑かれるぞ!」
引き留めようと急降下するaの横を、『K』がぴったりくっついてくる。
街の外へ駆け出した人影は、街から出た瞬間その姿が2、3度ぶれた。
空気が脈打つ。
振り返る人影。
その金の目が、aを捉えた。
「ほら。もうふたり、頂いたよ」
そして『K』は『グール』を掴んで空へと去った。
オチガミ達も従う様に引き返していく。
aは、追う事が出来なかった。
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