戦場

朝6時半。

一度散会し、身嗜みを整えてから、シールを除いた3人は再び集まっていた。

朝食の時間には少し早いが、早く起きた分そろそろお腹が空いてきた。

朝食のキャンセルを入れて今から適当に食べてしまうか悩んでいたところへ、シールが戻ってきた。


「出れるか?だ」

「は?」


「オチガミが大量に、此方に向かってきているそうだ」





堕ち神オチガミ

与えられた人格や力の方向性を失って、人に害を与えるようになったもの。

鬼神の成れの果て。穢れた力。

古代精霊の影響を受けて眠りについた鬼神を狙って現れる事が多い。

純粋な力の塊である鬼神は通常穢れに弱い。

オチガミに触れた鬼神もまた、オチガミと化してしまう。


人が触れれば、また似たように、人格を失い暴力衝動に支配される。

寝食や生命活動を顧みず、ただ破壊の限りを尽くすようになる。

その状態を「魔徒と化す」と表現し、対抗手段のない人々は長くオチガミを恐れてきた。

13年前までは。


「まあ、対処法は解ってるんだし」


K達は一度、オチガミを滅した事がある。

その話はあっという間に世界中に広がり、ケテルの召喚術師カルキストは伝説となった。

あっという間、とはいえ、ふたりが帝国へ還ってからの事なので、本人は自分達の世間評価など全く知らないのだが。


「戦力も増えてるし」

ふたりは軽くストレッチを終えて改めてシールに向き直る。

「で、そのオチガミの群は何処から?」

「…あー…南の沙漠あたりから」

「あー」には地名を伝えても解らないふたりへの配慮が含まれている。


「りょーかーい。自由にやっていいのかい?」

「出動要請、って言ったよね」

「復籍してきた。俺の指揮下だ。好きにやれ、

宰相直属の軍籍を得たふたりは、

「オッケ、じゃあ行ってくる」

「グールもおいで」

グールを捕らえて『穴』へと消えた。



肩書だけだが、ふたりは13年前から役職を得ている。

aが第2師団長、Kが第13師団長。

伝説のカルキストである異邦人マルクト・ターナを、国として手離したく無かったのだろう。

戻ってきたとなればなおの事。

復籍は準備がしてあったかの如くスムーズで。


いや、準備してあったのだろう。

カルキストを呼び戻したのは煌王自身なのだから。


「………」


シールは黙って部屋を出た。



誰もが、カルキストの無事と勝利を疑っていなかった。






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