カミサマの定義

翌朝。


なんとなく目を覚ましたKは、首だけ持ち上げて部屋を見回し、思わず呆れ笑いを漏らした。

まだ随分早い時間らしい。カーテンから漏れる外の光も薄っすらとしたものだ。


目の前の貝空の肩に手を掛けて上半身を起こす。

貝空は睡眠が必要ないのか、寝ているところを見た事がない。

案の定起きていたようだ。

その頭を二回撫でて『穴』へ還した。


隣のベッドでaとグールが仲良く寝ている。aが上からグールを押さえつけているようにしか見えないが。

シールは椅子に座ったまま器用に寝ていた。Kには真似できない芸当だ。


そのまま暫く呆っとしていると、微かに廊下の足音が聞こえた。

走っている。

客間の方まで使用人が来る事は珍しい。急に新たな客でも来たのだろうか。

こんな早朝に?


Kがベッドから降りようとした途端、ノッカーの音が響いた。

即座にシールとグールが目を覚ます。

シールは反射的に返事をしようとして思い留まり、Kに顎で合図した。


―いや何か知らないが、この状況を見られるのは大丈夫なんだろうか。


この国では男女の区別こそないものの、個の分別が甚だしく強い。


―これは多分、怒られるやつだ。


そうこうしている内に、二度目のノックが響く。

シールが今度は親指でドアの方を指す。

早く行け、と。


どうなっても知らないよ、と ゆっくり立ち上がって部屋の入口へ向かう。

入口からすぐには寝室が見えない造りなので、そのままドアを開く。


「はい~?どうし…」

客室棟に、どうして彼が。


「朝早くから申し訳ございません。こちらに宰相、…シルータ様はお見えでしょうか」

男にしては小柄な彼を、Kは少し首を上げて暫らく見ていた。

あーとかうーとか言いながら軽く後ろに目を遣る。

特に隠す気が無かったとはいえ、あまりにもバレバレだ。

「いらっしゃるんですね。失礼してもよろしいでしょうか」

「あー…多分ねぇ」

大変歯切れの悪い返事をし、のろのろと道を譲る。

すたすたと早足で押し入った彼は寝室を目にして暫し呆然とした。


―――なんだ、これは。


これが大人の状態だろうか。

まるで子供が遊び疲れてそのまま寝てしまった様だ。


ベッドの上で片膝を立てて壁に凭れ掛かり欠伸を噛み殺している犬耳の男と、その横…男から見れば前に横たわって寝ている妙齢と思しき女性。

そしてサイドデスクの椅子に座っているのは、よく見れば寝起きだと丸解りの宰相シルータだった。


寝室の入り口の壁に凭れ掛かって欠伸交じりにKが洩らす。

「ありゃ。a子まだ寝てたか。起こしてやれよグール。ほら、ダークちゃんに見つかっちゃったじゃん。」

そこで我に返った青年、ダークが抗議する。

「『ちゃん』は止めて下さい」


ダークは煌王直属の部下で、第一師団を率いる師団長だ。

小柄ながらも剣の腕では並ぶ者が居ないとまで言われている。

Kとaにとっては、困った顔で煌王を追い掛け回している苦労人、という印象の方が強いのだが。


「それより宰相、至急報告がありますのでご準備を」

「…何があった?」

「詳しい話は後程陛下を交えて。それから―」


ダークはゆっくりと部屋を見回して、しっかりと宰相の眼を見据えた。


「寝室は、ご自分の部屋をお使い下さい。それでは。お早いお越しを」


ダークが部屋を出ると、シールは舌打ちして伸びをした。

「めんどくせぇ…。…しかもまだ5時半じゃねーか!」

机上の時計を投げ捨ててデスクに凭れる。

「でもわざわざダークちゃんが伝令に来るって…結構大事オオゴトなのでは…?」


何があったか知らないが、第一師団長を伝令に寄越すだなんて少なからず妙だ。

戦場でもあるまいし。


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