カミサマの定義

湯上りの髪を流しっ放しにしたaと、引っ叩かれた痕が残るグール、そしてシールを、Kは自分用に宛がわれた部屋へ招き入れた。

城に戻って夕飯を終え、ひとしきり夜の準備を終えた後で、例の件について話す手筈になっていた。

おそらくグールはもう寝ていたのだろう。相変わらず夜が早い。

寝惚けてまたシールかaでも襲ったのだろうとあたりが付く。敢えて突っ込まない。


「ウチの部屋で話すの?」

てっきりシールの部屋だと思っていたが

「うん。忘れてると思って」

aのK把握は正確だった。


部屋にはベッドが二つ、サイドデスクが一つある。

Kがベッドに腰を下ろすと、また喚んでいない筈の貝空が勝手に現れその横へ座った。

グールは当然のように反対側のベッドへ寝そべり、aが溜息交じりにその傍らへ腰を下ろす。

シールはサイドデスクの椅子に馬乗りに座り、背凭れを抱え込んでいる。


「えーっと、じゃあ、アレ何だったの?とか、ソレどうするの?とか」

aが「アレ」で空を指し、「ソレ」でKの耳を指す。

どうでもいいことだが、この耳の所為で頭を洗うのがとってもとっても大変だった、とKは訴えた。


「アレは…魔物…のようだったが…」

歯切れ悪くシールが呟く。


あの後。

が小躍りして消えた後、さっと波が引くように街を覆っていた銀幕は消え去った。

解放された生物たちはドサドサと倒れ込み、駆け寄って確認すると、多くは酸欠のようだった。何故か、酷い火傷を負っているものも居た。

幾つか助からなかった命もあったろうが、助かった命は多かった。

Kは首を捻っていたが、aは単純に喜んだ。

領主に連絡し医団の手配や救急の手伝いをして、あっという間に夜になってしまったのだった。


「魔物、とは」

新出語だ。

「魔物ってのは…あー――…『力』だな。意思は無く、ただ在る」

その面倒臭そうな説明の省略の仕方に懐かしさを覚える。

「意思が無いようには見えへんかったけど」


「ブカフィは、『魔』を使う。精霊ではなく」


貝空が答えた。

通常、鬼神は精霊を操ってその力を揮う。

だが、ブカフィが操るのは精霊ではなく魔物や魔と呼ばれる存在。


「セフィロートで魔っていうと、どんなものなの?」

「有象無象の陰だったり、魔物だったり、オチガミや…玄霊なんかも近しいかもな」

aの問いにシールが答える。

大体の印象はK達と変わりないようだ。


「じゃあさ、カミサマは? 定義って何」

「神の、定義…?」

続いたKの質問に、シールは直ぐに答えられなかった。

考えた事もなかったのだろう。

深く思考に沈んでいくその様を、Kが興味深そうに覗き込んでいる。


「『精霊、又は今回のような特例では魔物、を使役する力を持った意識体』。話が進まん、今はこれで満足しろ」

シールの答えを待たず、貝空がヒラヒラと手を振った。

異論があるのかシールは何か言いたそうではあったが、話の優先度を理解して口を噤んだ。





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