金の鬣と緑の眼

ケテル城に於いて最も高みにある展望の間。

一面ガラスに覆われたその室内を、3つの影がうろついている。

そもそも高い崖の上に立つケテル城の更に最上階から、Kとa、そしてグールはブカフィの影を探していた。

見下ろす街並みに変わったものは見当たらない。


―何も収穫は無さそうだな。


諦め気味にaが振り返ると、Kが熱心に一定の方向を見続けていた。

何か見つけたかとaもその隣に立ち、Kの見つめる方向に目を向ける。

「どうしたK、何かあった?」

aには何かあるようには見えない。

「んー、向こうで何っ…か、光る気がするんだよね。あ、ほら」

遠い山の麓を指差すK。

「はー?」


見える見えないときゃあきゃあ言いながらガラスに張り付いている二人の後ろで、ちょっとした欲望に駆られている者が居た。

360度パノラマの世界。

この間は柱と床を除いて壁も天井も全てが透明の特殊な硬度を持つ材質で作られている。

決して割れないと解ってはいても、あたかも崖淵に立っているように見える無防備なふたりを見ていると、どうにもウズウズと…


ガラスに映ったその姿を見て、aは呆れた。


「グール、丸見え。そんなにしっぽ振っちゃって って、しっぽ!?」


慌てて振り返ると、グール自身驚いて自らの揺れるしっぽを見ていた。

ふさふさの、乳白色の大きなしっぽ。

三十路過ぎの男に、だ。


はっとしてKを確認すると、Kにもやはり生えていた。

髪と同じ色と質の、オレンジ色のバサバサしたしっぽが。


それをくるんと股下に丸め込んで、耳もしっかり伏せられている。

怯えたように。

「どうした、K」

再び、さっきKが示した、そして今迄見ていたであろう方角へ視線を向ける。


今度は確かにaにも見えた。


テロリとした、気味の悪い光だった。


ぞくり。

粟立つ肌をさすりつつ、目が離せないまま呟いた。

「なんだ、あれ…」

そっと横目でKを見ると、様子がおかしい…気がした。

険しい表情で黙りこくっている。

グールに目を向けると、もう全然違う方向を見て暢気にしっぽを揺らしている。

少しほっとして、再びKに向き直る。


「K?」

反応が無い。

「K?」


―――!


突然Kが振り返る。

aは驚いて半歩下がった。警戒して、といった方が近い。

「なんか…どきどき、だね」

いつものKのようでまるで違うような、らしくない表情だった。

それがaをも不安にさせる。


窓から離れ、熊のように歩き回り始めるK。

「なんだろうアレ」などと呟いているが、気を付けてその方角を見ないようにしているようだった。


「うっとうしい」


歩き回るKに痺れを切らしたのはグールだった。


「気になるなら見に行きゃえぇやろ」


「  」

何か言いかけたKを遮って、

「俺の知っとるおまえならもう見に行っとる」


渋々、といった態でKが顔を上げる。

睨むようなグールの視線と目が合って、一度逸らして、わしわしと頭を掻きながら溜息を吐いた。

「まぁ、ね。だよねぇ。んじゃ、行きますか」


床中央に描かれたコンパスを使っての方角を確認する。

と、扉の開く音と共に、高くも低くもない、通りの良い涼やかな声が嫌味の響きを伴って届いた。


「なんだ、俺は置いていかれるのか?」


そしてこの国の宰相は、一時職務を放棄した。


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