来訪の黒猫

懐かしの4人は遂に会した。

久しぶり過ぎるという気まずさだけが場を支配する。


「あ――…」

空気に耐えられずKが曖昧に声を発する。

「グール、パパになったんだって?今度お子さん紹介してよね」

実際は会わせられたって困るが、とにかく会話のネタを欲して言う。

グールは無言で立ち尽くしている。乳白色の髪に白い肌、長い睫に整った顔付き。シール以上に時の流れを感じさせない。


見過ぎたのか、徐々にグールの眉間に皺が寄り、遂には「うわ」と呟いた。

「なんやおまえか。えらい久し振りやん。生きとったんか」

「うっわムカつく」


人喰種は言葉に訛があることと、グールとKは喧嘩ばかりしていた事を思い出す。

単純な戦闘能力はKよりグールの方が高いが、基本的には口喧嘩だ。

偶にKが蹴りを繰り出しても、グールが適当にいなして終わっていた記憶がある。


眼前で始まった低レベルな言い争いを軽く無視して、シールはaへ顔を向けた。

「どうだった?あいつのこどもたちは」

「だめ。全然見せてくれなくて」

白っぽい子と薄茶色っぽい子が居たが、あれはグールの子かと尋ねたら即座に隠されてしまった。

上の子は4~5歳に見えたが…何分aの身近には幼子がいないので自信がない。


「シールのこどもは?」

「あ、シールこどもどころか奥さんもいないらしいよ」

aのシールへの質問に、言い争う口を止めてKが答える。

「…うっそでしょ」

眼を見開いて絞り出したaの言葉に、拗ねたのか怒ったのか、シールが控えめに反論する。

「そんなに驚く事か。21で愛人が6人もいる奴よりマシだ」

明言こそしていないが、誰の事かは予想がついた。

現ケテル国王ヴァイス。通称煌王。シールの従弟だ。

「うわオーサマやるぅ…」

「でもヴァイスも正妻居ないんでしょ」

aの発言にシールが首を傾げる。

「? こっちに来てからヴァイスに会ったのか?」

「あ。えっとね」


今回十年ぶりにセフィロートへ遊びに来る事になったのは、煌王から帝国へコンタクトがあったからだ。

煌王が姫にちょっかいを出した為、派手に一戦やらかした。

正妻が居ないという情報はその時に得た。

そしてそもそも、K達がセフィロートへ十年も遊びに来なかったのは、セフィロートから帝国、もしくは地球への転移が非常に難しかったからだ。

次に遊びに行ったら2度と還れない―筈だった。

不可能に近い転移をやってのけた煌王に賠償金代わりに帰還を補助して貰う約束を取り付け、今回漸くの再訪問が成ったのだった。


「と いうことで」

「あいつは…」

他所の世界でまで何をやっているんだという言葉を飲み込んで、シールは顔を覆う。

細かいことに興味の無いグールは退屈そうに話を逸らせた。

「で、おまえらは今は?」

「あたしは変わらず。今も昔も姫の近衛長だよ」

Kはパサリと召喚した白衣を羽織り、見せつけるように両腕を広げた。

「ウチは総合科学研究所の所長やってます。軍籍抜けた」

「ついていかれんようになって?」

「ああん?」

一触即発。

例の如く始まった口喧嘩に構うことなく、シールはaに問い掛ける。

「結婚は?」

「どっちもしてません」

散々他人を弄っておいて、と嗤うグールに、シールも援護こそしないものの真顔でひとつ頷いていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る