再来の嵐

「そういえば」


aの居なくなった室内でKが落ち着かない様子で視線を彷徨わせていると、地図を片付けているシールから声が上がった。


「あいつの方が先に知るだろうから、言っとく」

「?」


シールがポットに手を伸ばすのを見て「ウチにもお茶」と注文する。

宰相に茶を注がせる女と、ちゃんと注いでやる宰相。


「あいつ、こども出来たらしいぞ」


――――――――――――――――――は?


「ふたり居るらしい」


「え、え――――――――――!!」


いや、正確に幾つか知らないが、恐らく30前後だろうからおかしくはない。

不思議ではない。

でも何故だろう、とても納得がいかない。

そもそも彼らに結婚という概念はあるのだろうか。


ひとしきりグルグルした後、落ち着きを取り戻して顔を上げる。


「そういやシールは奥さんどこから採ったの?」

「独身だが」

「え 嘘」


驚いた。

いや、グールより先にシールだろう。身分のある妙齢の者が独身って許されるのだろうか。

根掘り葉掘り訊く程の興味はないので、Kはそのまま「ふーん」と流しておいた。







一方。

テラメルコへ転移したaは困っていた。

グール、とその名を念じてはみるが、果たしてその名を覚えているだろうか。

グールというのはKが付けた呼名で、彼本来の名ではない。

因みにシールもKが付けたあだ名で、本名ではない。


そもそも―

元々物覚えの良いシールは覚えてくれていたが、十年も前に少し一緒に居ただけの人間を覚えていてくれるだろうか。


―グール、グール!


名を念じながら、懐かしすぎてさっぱり覚えのない街を往く。青黒い石を握りしめて。


―ホントに念じただけでわかんのか?


「………」

少し焦って、多少怒り気味に石を握りしめる。


―グール何処だっ!?


「!」


握りしめた石が心成し熱い気がして、掌を見た。

ピリッと走るプラズマ。


青く輝く石が、そこにあった。



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