再来の嵐
「つまんねー。30幾つのシール楽しみにしてたのに」
ケテル国宰相の自室で、Kとaは10年振りの友人を前にこれでもかと言う程寛いでいた。
ソファに寝転んだままの姿勢でミカンに似た果物の皮を剥きながらKがぼやく。
橙色の中途半端な長さの髪はあちらこちらへ力強く跳ねている。
果物の汁が指を伝い、気付いたKは指輪を外して服の裾でそれを拭った。
青い瞳がちらりとaへ向けられる。
見られていなかったのを確認して、息を吐いた。
aは椅子に座って机に張り付きながら、果物の薄皮についた筋をひとつひとつ取っている。
ウェーブの入った癖の強い茶色の長髪を三つ編みにして、後ろで団子状に纏めている。髪を纏めるバレッタと同色の赤い瞳はただただ手元の果物へ向けられている。
「まだ29だ」
シールの抗議に「一緒一緒」とKが視線も向けずに手をヒラヒラさせる。
Kとaには10年振りの再会だったが、セフィロートでは13年経っていたらしい。
それにしては変わっていない旧友に改めて目を移す。
灰色の髪も眼も、白くて傷もシミも無い肌も当時のままだ。これで三十路は羨ましすぎる。
「あ、ちょっと背伸びた?」
「お前らはだいぶ伸びたな」
「そりゃ、ウチ等は当時12歳ですからね」
シールが微かに肩を揺らす。もしかしたら知らなかったのかも知れない。
「それより宰相サマだって?」
「大丈夫なの?」
Kとaは16歳のやんちゃで面倒臭がりなオウジサマだったシールしか知らないので、これにはとても驚いた。
今日はK達の来訪により休みを取ることにしたらしい。
元々休めと言われていた身なので、休暇の許可は快速だった。
「やりたくてやってるワケじゃない」
「そうなの?」
ケテルの役職制度なんて知らないし、そう興味もなかったふたりはそれ以上突っ込まなかった。
「そういえばグールは?」
ふと零れたaの発言にKが首を傾げながら身を起こす。
「グール。居たねぇそんな奴」
十年前、世界1周旅行の折、最初の地で拾った人喰種。
なんだかんだ最初から最後まで一緒にいた。
「今いくつだ?」
Kは若かりし日のグールの姿を懸命に思い出しつつ推測しようとした。
睫毛の長い綺麗な顔の青年が歳をとった顔というのが想像出来ない。
「あんま変わんないんじゃない?シールだってそんなんだし」
小首を傾げながらaが言う。
自分至上主義のKに他人の年齢は解らない。適当に相槌を打って話を流した。
「グールならテラメルコに落ち着いたと聞いた」
憶えのあるようなないような地名にKはaを振り返る。
aは当たり前のように首を左右へ振った。
「シールちゃん、地図」
出して貰った地図で場所を確認する。南方、ホドにある国だ。
「範囲広っ」
拾いに行くにしても、国の名前しか解らない状態では出会える気がしない。
「確か…」と小さく呟いて、シールが棚を漁り始める。
お目当てを握りしめた手をaへ突き出した。
「?」
自然に差し出されたaの手の中に何かが落ちる。
「これって」
「あれ。グールの首輪じゃん」
aの肩越しに覗き込んだKが言った。
チビと言われていたKの背がaより僅かとはいえ高くなっている事に気付き、シールは一瞬目を眇めた。
「シールが持ってたんだね」
「あぁ。持ってきゃすぐ見つかるだろ」
「何、念じりゃ来るって?」
馬鹿な、と笑いながらもそれを握りしめたまま転移に入るa。
「じゃ、行ってらっしゃい!」
ヴぉん と振動を放って、aの姿は掻き消えた。
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