日の下で


日の下で楽しく作業をしていた時は

鳴りを潜め、

いつしかコンクリートの塀の中に囲まれていた


かつての僕は未熟な芽だった

メッセージ性があるかもわからぬものを作り出す日々

時には喜びを、時には悲しみを、怒りを、理不尽さを

込めて作り出した


その作り出したものを見初め、

お金を出してくれる人が現れた

初めの頃は安い値段だったが

その人の力で値段はどんどん吊り上がっていった


そうして、作業をするための部屋を用意した

そこはコンクリートの塀の中だった

中に差す日は打ち込みの窓の細い光だった


より作業に集中できる場所を手に入れた僕は

作業に打ち込んだ

自分なりに良いものを作りたかった

日々、最上級のものを目指し作り続けた


評判は上々だった

パトロンも満足そうだった

それで良い筈だ、何も違和感はない


次の作品も上々で新たな最上を作った

パトロンはもっと良いものを作るために

少しの感想をもらった

次回は僕の個展が開かれる

それに向けてまた作らねば

だから、何かが足りない、なんてある筈がない


ひたすらに作り続けた

朝も、昼も、夜も関係なく作り続けた

大きいもの、小さいもの、

立体や、平面、自身の持てる技術を持って

命を燃やした

燃やした、だが、何故か、どこか足りない


作り上げたものを見て

パトロンは満足そうだった

そして、新たにまだ作った方がいいと言った

僕もそうだと思っていた

また新たに作らねばならない


開かれた個展

そこに僕はいない

それで良い筈だ、何も問題はない


人間は苦手だ

だから、個展についてはパトロンに任せればいい

良い筈だ、それなのに、何故だろう

僕は迷っている


個展は成功した

作ったものは皆、行き先が決まった

それらの親としては誇らしかった

パトロンはより笑顔だった

「値段を上げよう」

そう言ってきた

そうだな、と賛成した


そう、僕は賛成だった

自身の作ったものが皆に認められ

正当な評価を受け取ったから何もかも満たされたはずだ

僕の心は澄んだ空気を携えたように晴れやかだ、

その筈だった


そうだ、本当は気付いていた

僕の作品は昔より劣化した

同じようなものしか作れなくなった

絵柄が変わらないことや、作風が変わらないとはわけが違う

上記のことは第一前提として

作家の本質的なコンセプトが存在する

だから絵柄や作風は変わる必要はない


僕が自身の作品を劣化したと感じたのは

それらすらも、見失ってしまった

本当に作りたいもの見失ってしまったのだ

メッセージのような説明を打たなくても

はっきりとしたコンセプトが僕にも存在していた

それが完全に見つけられなくなった


そうなった原因も僕だ

かつてのように日の下に出ず、

正当な評価を受けたと喜び

外との関わりを完全に断ってしまった

そうしてコンクリートの塀の中に閉じこもった


僕は覚えていた筈だ

人が苦手でも、

作品を展示した時、

人と作品についてやこれからのことを

話す時間はどの人間であったとしても

苦痛ではなかったことを忘れていた


一人ではなく、

他の誰かと協力して

何かを作る喜びを自ら手放してしまった


そうして、僕の作品は元の形を取りながらも

日々進化をしていた筈なのに

それを自身で手放し、

僕の手ではなくとも

他の誰かの手でも作れるものを作るようになってしまった


唯一無二の作品を

ブランドという名の製品に変えてしまった

元々が世界でたった一つのはずなのに

それを失い

自らの我欲に駆られ我をも失ってしまった


後悔してももう遅い

僕はこのコンクリートの塀の中を飛び出して

新たなスタートを切ることが出来ない


僕はパトロンという味方に依存した

制作をし続けなければ生活が出来ない

それを理解した時点で僕はもう

一人で花を咲かせられない

あの頃のように日の下に帰ることは二度と叶わない


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朝を待つ ナリミ トウタ @narimi1022

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