温室
それは綺麗な花でした
大切にされた綺麗な花でした
風に当たらず、雨に晒されず
太陽の光と肥料と愛情を注がれる花
人の手に施され愛された花はとても美しい
しかし、
それ以上にもそれ以下にもならない
その人は
これから芽吹く苗を育てる人でした
部屋を与え、道具を与えました
ご飯を食べさせ、生活を保障し
コンクリートの塀で囲い
世間から隔絶し
光が当たらない場所へと隠したのです
苗の自由はコンクリートの塀の中でした
ただひたすら育て主のために
働いていました
外に出ることは出来ました
しかし苗は
育て主がいなければ苗は死んでしまうことをわかっていました
苗は自ら外に出ることはしませんでした
外を知らないまま働きました
時を重ね、
苗は有名になりました
育て主が苗を立派に育て上げたのです
それは本当に苗の幸せなのでしょうか
苗以外誰にも分りません
契約に縛られる関係は苗にとって
幸せなものでした
有名になりお金をたくさん手に入れました
苗は表舞台に立ちました
眩しそう目を細め
そうしてまたコンクリートで囲まれた塀の中へ帰っていくのです
あるものを見てコスモスは言いました
「これのどこがいいのか」
それを聞いた苗の育て主は
笑顔の下で腸が煮えくり返るような気持ちでいました
そうして、冷たい笑顔のままに
コスモスを引っこ抜いてしまったのです
育て主は苗を大切にしていました
その分、苗に苦労はさせませんでした
それと同時に世間の批判もなかったことにしました
大量の誹謗中傷はただの凶器です
しかし、苗の仕事上
少しの批判的な意見は必要なものでした
必要なものであった、それを
育て主は排除しました
苗は自分の仕事に満足していました
それがいけなかったのか
苗は似たようなものしか作れなくなったのです
育て主はそれを良しとしました
苗ブランドとして売り出したかったのです
元々オンリーワンのものをブランドとして
売り出す、
それは苗が望んだ形だったのでしょうか
人々に知れ渡らず
選ばれた人間だけが苗の仕事を手に入れられる
お金を積めば積むほど
苗が作ったものを手に入れられる
苗のため、と言おうとも
結局はお金のためでした
それは悪いことではありません
お金は大事なものです
同業者を見下し自分だけが正しいと信じる
これも悪いことではない、
しかしそれは良いこととも言えません
どんなに心地よい綺麗な言葉を並べても
本質は隠せません
隠す気など本当はないのかもしれません
あるいは、無意識なのかもしれません
でも、苗は自身の力で外に飛び出すことはできない
その事実だけが残る
これからも、この先も
囲まれた温室に不自由さも疑いも持たず
大事に大事に隠された温室に居続けるのです
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