第2話 地場の娘

 地場正子じばまさこの願いを叶える為に下界へと天下った閻魔大王。

 だが下界では似つかわしくない図体に服装で彷徨つろくワケにはいかない。

 この世界に溶け込むには誰かに憑依する方法しかない。


「ふむ。困ったな。何か良い器があればいいのだが…」


 閻魔大王は困っていた。

 しかし、地場が冥界の門をくぐる前に自分には1人の娘がいるという情報を伝えていた。


「かの娘であれば事情も分かるであろう。地場の娘を器に迎い入れるとしよう」


 そして閻魔大王は分厚い本を召喚させ、地場正子の経歴から娘の名前を探しだした。

 娘の名は地場愛子じばあいこ

 名前から見て愛される子になって欲しいと名付けたのであろう。

 しかし不運にも神に愛される存在にはならなかったのだ。


「娘の所在地は…東京か」


 閻魔大王は時空間ゲートを召喚させ潜った先は地場の家の中であった。

 地場はいきなり現れた閻魔に驚き腰を抜かして動けなくなっていた。


「だ、誰ですか?」


 驚くのも無理もない。

 急に現れたことにも驚愕するが、閻魔大王だ。その顔は強面で人間ではない図体だ。


「主が…地場愛子か?」


「わ、私が地場愛子です」


「我が名は閻魔えんま。冥界の王である」


 地場愛子は殺されると思った。

 だが殺されることに対しての恐怖心は無かった。父は自殺してしまい、母は過労死。唯一の理解者が死んだ以上この世に後悔も何もない。


「閻魔様が?私を殺しに来たのですか?なら構いません。この世に後悔など一切ありませんので」


「否。主を器として迎い入れに来たのだ」


「器?どういうことでしょうか?」


「主の母である地場正子からこの世の不条理を裁いてくれとの願いを叶えるべく、この世に天下ったのだ」


「母が…?」


 地場愛子は何がどうなっているのかが理解できなかった。何故優しい母がそのような願いを頼んだのかも理解ができなかった。


「とにかく我には器が必要なのだ。協力して貰えるな」


「何がなんだかわかりませんが、母の願いのために閻魔様が天下ったことは理解できました。死んでもいい身の私にできることがあれば、なんなりとお申し付けください」


 こうして地場愛子の身体の中に、閻魔の魂が宿ることになり2重人格となる。

 普段の生活はどこにでもいる普通の女子高生である。

 しかし時には女子高生の姿でありながら、冥界の王としてこの世に潜む非条理や不道理を残酷無比の裁きを与えるのであった。


 

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閻魔大王〜現代に天下る〜 荒巻一 @28803

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