同衾計画? ー3ー
買い物を終え、手に取った読みたいわけでもない雑誌が五冊目になった時。ぽんぽん、と、肩を叩かれ振り向くと、古典的な人差し指が僕の頬にささっていた。
「やっほー」
高橋さんだった。
こういう悪戯をされるとは思わなかった。高橋さんは、外見の印象よりは、内面は幼いのかもしれない。
が、楽しそうな顔に水を差すのも無粋なだけなので、僕は読んでいた科学雑誌を棚に戻して時計を見る。確かに、高橋さんの置いていった言葉通り、掃除が終わるのは直ぐじゃなかったようだ。
あれから二時間が経っている。陽は、もう落ちかけていた。
「済みましたか?」
「おーう」
そう返事した高橋さんは、先にさっさと店を出てしまった。
床に置いていたショルダーバッグを担ぎ直し、本屋から出ると、路上駐車した車の運転席のドアを開けてそこに寄りかかった高橋さんが、ニヤニヤした顔で僕を見ていた。
なにか言いたそうな顔だったので、うん? と、少しだけ小首をかしげ、促してみる。
「アンタさ、アイツのどこがいいんだ?」
唐突過ぎる質問に、足が止まった。
どこがいい、とは? ……どういう意味だろう?
唯さんから高橋さんに話すことを禁止されているのは、出会った時期だけだったと思うので、それ以外の――あと、受動的に巻き込まれたということを除いた理由を挙げるのならば……。
僕が自発的に唯さんに想った感情は、ひとつきりだった。
「唯さんは……可愛い人です」
素直に思っていることを答えると、ぐしゃぐしゃと乱暴に頭を撫でられた。
短くも長くも無い僕の髪は、特に乱れないけど、ちょっと不思議な気分だ。反射的に触られた髪に手をあてると――。
「物好きめ。……アイツ、よろしく頼むな」
ばっちりとウィンクを決めた後、素早く運転席に乗り込んで荒っぽく車を急発進させた高橋さん。
……一緒に唯さんの家に向かう予定じゃなかったんだろうか? っていうか、場所を知らないんだけどな、僕は。
さて、どうしよう、と、腕を組んだところで車がバックで戻ってきて、さっきとまったく同じ位置に急停車した。
「すまん。かっこつけただけで終わるとこでいた」
日本語は変だったけど、しょげた顔と併せることでなんとなくニュアンスは理解した。
「いえ、御気になさらず」
と、気恥ずかしそうにしている高橋さんをそれ以上追及せずに、僕は……少し考えてから、今度は助手席に座った。
無骨な印象のある高橋さんだったけど、車中にあるお守りとかちょっとした小物が女の子っぽいな、と、感じた。
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