序章ー3ー

 中指が触れる。

 と、思った刹那、パチ、と、静電気を受けたような音と衝撃が指先に走り、弾かれた。

 彼女に視線を向けるけど、俯いたまま微動だにしていなかった。

 特になにかをしたり、された様子はない。

 もう一度、確かめるように掌全体で触れてみる。

 今度は衝撃はなかった。手には。

 晴れた日の青を空を見続けている時のような、小さくちかちか光るような点が、視界を埋め尽くしてゆき……。ざあっと、一瞬で――まるで、今まで見ていたものが書割だったかのように視界の全てが千切れて後方へと流れ去る。

 暗い風景の中、僕の知人でも目の前の女性とも違う誰かが、自傷している最中の断片的な幾つかの映像が目の前に走り――。

 次の瞬間、僕は真っ白な折り紙で織ったような、四メートルほどの紙の船の上にいた。明るくも暗くもない空は曇りで、辺りには霧が出ている。左右を見れば二十メートルほどの川の中央にこの船は浮いているようだった。岸の近くには、背の高い葦も生えている。


 これは、いつも見る夢だ。

 すぐにそう気付き、背後を振り返る。

 これまでの夢と同じなら、そこには――。

瀬織津比売せおりつひめ

 これまでの夢と同じように、高貴な笠を被り、純白の古風な旅装束に身を包んだ女の人が居た。ただ、僕は、その女の人の名前を――どうしてだか分からないけど――、この瞬間だけは頭の中にはっきりと浮べることが出来た。

 罪や穢れを、清流に乗せて海へと放つ女神。

 その御方の口元が、微かに綻び――。

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