第5話:廃嫡

 王太子が愚かな事を口にするのは分かっていた。

 だから事前に協力を依頼していた者達がいる。

 最初は疑われたし信用もされなかった。

 なんと言っても相手は王家の力を削ごうとしている貴族派の重鎮だ。

 一方の俺は、王家の血が流れている名門公爵家の当主だ。

 意識が入れ替わる前は完全に敵対していた。


「私が大切にしているのは王家ではなく娘のグレイスだ。

 グレイスを蔑ろにする奴は、王太子であろうと潰す」


「分かった、信用しよう」


 貴族派の重鎮も子煩悩で有名な男だったので、信用してくれた。

 娘から学園の事を聞いていたようだし、娘に何かあってはいけないと、そいつも多くの密偵を学園に送り込んでいた。

 密偵の情報で、王太子がグレイスを蔑ろにしている事、特にアンジェに誑かされてからは酷い扱いだと聞いていたようだ。


 で、その貴族派重鎮と貴族派の監察官を引き連れて、学園の帳簿を改めたら、出るわ出るは不正のオンパレードだった。

 特に王太子の遊興のために莫大な学園運営資金が流用されていた。

 学園長や理事長が送り込んだ女生徒を、王太子が愛妾にしていたのも発覚した。

 しかも子供まで生まれており、正妻の子以外には相続権がないのに、王子として遇するという念書まで取り交わしていた。


「陛下、我が娘グレイスをあのような愚劣極まりない男には嫁がせられません。

 グレイスは、身分に関係なくグレイスの事を心から愛し大切にしてくれる者と結婚させます。

 王太子との婚約は破棄させていただきます」


 私が王太子とグレイスの婚約を破棄した事で、王家派貴族は領袖を失った。

 派閥の領袖に収まりたい者は数多くいたが、全員が貴族派に不正の証拠を暴露され、役職を返上しなければいけない事になった。

 叩かれない清廉潔白な王家派貴族など、私以外にはいなかったのだ。

 貴族派の激しい突き上げから盾となってくれる有力貴族を失った王家は、王太子を廃嫡しなければいけなくなった。

 子煩悩な、いや、親馬鹿な国王でも庇いきれない不正が多過ぎた。


「父上、私は王国中の物笑いでございます、死んでしまいたい」


 こちらから婚約破棄したとはいえ、グレイスへの誹謗中傷は多かった。

 特に没落した王家や貴族の逆恨みが多かった。

 エリックに皆殺しを命じて、いや、この手で呪詛してやる。

 それよりもグレイスの心の傷を先に癒さなければいけない。


「何を悲しむことがあるのだ、グレイス。

 グレイスはもう政略結婚をしなくていいのだよ。

 本当に愛する人と出会ったら、例えその男が乞食であろうと結婚を認めよう。

 だからね、グレイス、いい男を見つけなさい。

 多くの男と付き合って、男を見る眼を養いなさい。

 そのためなら他国に留学してもいいし、大陸連合魔法学院に行ってもいい。

 どこであろうと私がついていって護ってあげるから」

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気がついたら悪役令嬢の父でした 克全 @dokatu

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