第39話 どうでもいいガールズトーク
私はマネキンを引きづられるかのように、二人がかりで教室へと連行されていた。
私は私で、別に好きでこうなっているわけではないし、廊下で誰かとすれ違うたびに奇異の視線を感じるから、早く振り解きたい。だけど、さっきのショックでいまだ力が入らなくて、されるがままになっている。
そして、そのまま教室に入ると、さっそくあの話が聞こえてくる。
「いつ頃から付き合い始めたんだろうね??」
「藍沢さんってあれでしょ? 田中くんを振ったっていう」
「あー、あの藍沢さんなんだ? やっぱり、もともと心に決めた人がいたんだね」
「なんか、二人は幼なじみで親戚らしいよ?? いいよね〜」
藍沢さんが田中くんを振った事件はまあまあインパクトがあって、このグループで『藍沢さん』と言う名前が出るときは、セットで『田中くんを振った人』の言葉が出る。
そして、私が来たことに気づいた彼女らは、一斉に振り向いて質問攻めにする。
「ね、愛?? 藍沢さんと仲良いんでしょ?? なんで隠していたのよ???」
「そうそう、前も一緒に廊下走っていたし、クラスでも席近いんでしょ?」
「えっ?? 私??」
突然話を振られたことに驚きつつ、そこまで仲良い訳ではないから、言葉に詰まる。
でも、側から見れば私たちは親友レベルの仲良しに見えるらしくて、彼女らは不思議そうに首を傾げる。
「愛?? 今日ぼーっとしてるね、どうしたの?」
「ううん! なんでもないよ。っていうか、席替えしたんだね??」
私は話が流れないかなぁと、別の話題を振ってみたりもする。
「ああ、テスト近いから出席番号順。クラスの人が早く変えてってごねたのよ……」
そういえばテストまでちょうど一週間だっけ。うちのクラスは、今週の金曜日に席替えかな。
「でっ、なんで藍沢さんのこと隠していたの??」
彼女は私の目を見つめながら、笑顔で言った。私は逃げ切れたと思ったのに、そう簡単には逃してくれなかった。そして、私は反応に迷った。
今なら、知らないフリもできるし、それが勘違いであることを訂正することもできるからだ。
ただ、これだけ盛り上がっていると、しっかりとした理由がないと訂正できないと思うし、かといって好きな人は野村くんとか言ったら、それはそれで盛り上がって、藍沢さん困るだろうし……
だから、訂正するのは現実的ではないように思える。
それに彼女らは田中派だから、もちろん伊藤に興味ないはず。それに田中くんを諦めてくれた藍沢さんには好意的な感情を持ってくれているみたいだし、伊藤と付き合っている噂があっても敵対視されることはないように思える。
だから、とりあえず知らないことにして、様子を探ることにした。
「私も知らなかったの。だからさっき聞いてびっくりしたよ! 思わず腰抜けちゃったくらいだし」
私は一緒にここまできた二人に目配せすると、狙い通り二人は「そうそう」と笑ってくれた。そして、釣られるように周りも「腰抜かしちゃったの??」と笑ってくれた。これで、私の本心の隠滅の完了。あとは、藍沢さんの状況を探るだけ。
「それで、どっちからの告白だったの??」
私が彼女らに問いかけると、少し言葉に詰まった。
「そこまで流れてたわけじゃないんだけど……学食で何度も密会していたり、ファミレスから二人で出てくるところもみたり、今日だって二人で楽しそうに学食に居たって。ほらっ」
彼女はスマホのグループチャットの画面を見せてくれた。そこには二人で食べている写真が。彼女らはこれを楽しそうと捉えたのかもしれないけど、私には藍沢さんは不安げな表情をしているように見えた。
でも、ここではっきりわかった。これは訂正しても無駄なタイプだ。この写真で楽しく見えるなら、多分二人並んでいただけでも盛り上がると思うし、多少の付き合ってない証拠を持ち出しても、聞いてもらえるとは思えない。
そもそも、この写真は隠し撮りでそこから問題がある。だけど、これらを注意したところで、先生に指摘したところで、藍沢さんの状況は何も変わらない。
だから私は、根気よく情報収集に努める。
「よく気がついたね?? いつ頃からマークしてたの??」
「えーと、それがね…………」
私が聞き耳を立てて聴こうとしたその時、教室後方から大きな声が聞こえた。
————いつも美しい沙奈さん! 僕と付き合ってくれませんか??」
「………………」
「沙奈さん黙っているのは、恥ずかしいってことなんだよね?? なら良いってこと……」
「絶対ないわ……」
「でも、返事してくれるってことは、まだ可能性が……」
「無いって言ってるわ! 聞こえないの??」
「でも、いつかわかってもらえると—————
「またやってるよ、砂田……」
彼女らの一人がうんざりとした顔で言う。
「席替えしてもアレやるんだね…………もうこのくだり飽きたんだけど。ていうか、仲村も仲村よね?」
「そうそう、キッパリ断ればいいじゃん!」
「仲村も案外満更でもないんじゃない??」
あれは砂田がストーカー気質なだけだと思うけど。なんて、心の中でつぶやいてみる。
「でも、砂田が趣味なんてショタコンだよね。やっぱ田中くんでしょ??」
「こら、由美子! 波風の立つようなこと言わないの」
私がさすがに注意すると、彼女も不味い発言だと自覚はあったのか、「はーい……」と言って、すぐに静かになった。
この手の発言は、派閥間でかなり険悪になるから冗談でも言わない方がいい。今回だって、周りから少し由美子は睨まれたと思う。だけれど、幸いなことにこのクラスは比較的、田中くんの派閥が多いからそこまでのことにはならなさそう。
そう考えると、沙奈は田中派が多いクラスで砂田に目をつけられているんだから、大変なのは大変だと思う。
「由美子は前もそんなこと言って、バチバチしたんだっけ??」
「あの時は違うから!! だって向こうは…………」
「はいはいはい、今その話はやめましょうね」
「はーい……」
でも、今度の返事はあまり身がこもってなかった。それを表すかのように、別の話を始める。
「でさ、隣のクラスのえーと、ナニ原……」
「あー、牧原くん??」
「そうそう、牧原くんがね……」
「仲村に告ったんでしょ??」
「知ってたの??」
いつの間にか話は別のところに行ってしまい、情報収集に失敗した。そして,同時に、手元のスマホが光った。
うちの学校ではスマホは始業から放課後までは電源を切ることになっている。だけど、もちろん守らなくて、みんなこっそりと使っている。それは私も例外じゃなくて、こっそりとスマホを見ると。
————————
沙奈
今の藍沢さんの話は、何?
放課後、ちょっと話さない??
————————
私は、騒ぎが終わって静かになっていた、教室後方に目くばせをする。
すると沙奈とばっちりと目があったので、「了解」と猫が敬礼をしたスタンプを送っておいた。
「でも、牧原くん石原さんにも告白してなかったっけ??」
「そうなの?? 何、それは顔面偏差値ローラー??」
「もしかしたら、由美子のところもくるかもよ?」
「え〜、無理無理。私、本命がいる——」
この後も彼女らは、とりとめのない話を永遠に続けていた。
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