第23話 救世主はムダに色っぽい

【前回のあらすじ】

「謎の男子学生に姉貴がやられたし、のむらもやられた」


『藍沢さんは俺の心読めるんだった!!!』


 完全に忘れていた。なら、さっきの「そうでしょ!」も多分俺の返答だ。だとすれば、俺の独り言も全部聞かれていたってこと……


 俺はバンっと席を立った。恥ずかしすぎてこんなところに居られるわけがない。藍沢さんは半分泣きそうな目でこっちを見ていて、謎の男子学生はビクッとしたが、そんなことは関係ない。俺は逃げるように廊下に向かったが、途中、左手が引っかかった。


「野村くん……今はここにいてくれないかな……」

 

 振り向くとノックダウンしたはずの坂本さんが俺の左手首を痛いほどに握っていた。彼女は、こっちに顔を向けることなく、禍々まがまがしい雰囲気をかもしながら俯いている。だけど、俺だってここにいるのはキツい。だから、彼女の手を振り払おうとすると……


「今、野村くんがいなくなったら、私無理かも……」

  

 普段は姉のような様な坂本さんからは、想像つかないくらい小さな声が聞こえ、そのささやきは微かに震えていた。そんな状態の姉貴を放って立ち去るなんて出来なかった。俺はしばらく立ち止まり、一つ深呼吸をすると。


「わかった……」


 俺は仕方なくゆっくりと席に戻ると、もう一度大きなため息をつく。そして、机の下でスマホを取り出しメモ帳を立ち上げた。


<藍沢さんが心を読んでくるので、メモ帳に記します。>


 この緊急事態に、姉貴ががすごく病んでいるけど、それ以上に俺もすごく病みそうだ。だから、俺はメモ帳に感情を記すことで落ち着きを取り戻そうとした。もちろんこれなら藍沢さんに漏れるわけなんてない。

 

<それにしても、なんで姉貴が、震えているんだろう?>


<やっぱりあの男子生徒か?>


<藍沢さんとはどんな関係なんだろう?>


<付き合ってたりするのかな……まあ、俺には関係ないんだけど!!!!!!!!>


 俺が机の下に夢中になっているうちに、隣はなぜか静かになっていた。不審に思い、ふと振り向いていると、俺の手元に熱視線を送る藍沢さんがいた。


 俺は慌ててスマホを引くと、藍沢さんも何事も無かったように正面にふり向く。そして、男子学生には「ちょっと落とし物したけど無くしちゃった……」と誤魔化す。そんな誤魔化しにも男子生徒はイケメン対応を見せて。


「大切なもの? 一緒に探そうか?」


「ううん、大丈夫……」


 藍沢さんはそう言いながら、上目遣いで男子生徒を見つめた。


<え、藍沢さんってそんな顔できるの?? 本格的に本命か……>


 男子生徒も満更でもなさそうで、すこし頬を赤く染め、目を泳がせながらまたお弁当を食べはじめた。


 でも、そんな光景が映るたびに姉貴の禍々しい雰囲気は増強していて…………

 ふと、右隣からツンツンと突かれ振り向いてみると、姉貴は殺意をはらんだ目で睨んでいた。その視線はあまりにも怖く、背筋に悪寒が走った。


「野村くん。私、上目遣いできてる??」


「できてない! できてない! それは間違いなく人を呪い殺す視線!」


 そんな右側のやりとりなんてお構いなしに、懲りずに俺のスマホを覗こうとする藍沢さん。そして、藍沢さんの誤魔化すような上目遣いにデレデレの男子生徒。男子生徒がデレデレすればするほど負のエネルギーが増大する姉貴。その姉貴に構ってる隙に、藍沢さんが覗き込んで……


<何この無限ループ、俺が気疲れするだけなんだけど!!>


 お昼休みなのに、お弁当なんて手についたもんじゃ無かった。



* * *


 あれから状況が何にも変わらなくて、無限ループはいまだに続いていた。正直姉貴を切り捨ててここから逃げれば全てが解決するんだろうけど、彼女には借りがあって無下にするにはできない。となると、誰かに助けを求めるのは必然的な決断であって、ふと廊下に目をやるとそこにはちょうど金髪がキレイになびいていた。

 彼女は俺の視線には気づかずに、ずっと奥の方を見ている。だから、助けを乞うように、彼女に熱視線を送ると、気づいた彼女は頬を赤らめてすぐ視線を逸らした。


『いや、恥ずかしがらなくていいから助けてくれ!』


 なんて心でつぶやいてみるけど、彼女は動く気配がなくて金髪を触るだけだった。


『あれ? 沙奈もヘアピンみたいなものつけてない??』


 俺が髪飾りに目をやると、彼女は「ああ、これ?」みたいな様子で触り、「かわいいでしょ」といった感じで胸を張った。


『それはいいから、助けてよ……』


 だけど彼女は目線を奥にやって首を振ると、笑顔のままどこかに行ってしまった。どういうこと??


 でも、そんなこんなしているうちに姉貴の憎悪が限界突破して、がたんと立ち上がった。今の姉貴は何をしでかすかわからないし、もう止められるような雰囲気ではない。


『これはもうダメだ!!』


 諦めかけたその時!!

 

 前からある生徒がゆっくりと、圧倒的なオーラを放ちながら歩いてくると、謎の男子生徒の前で立ち止まった。あれは……三大イケメンの三島くん!?


 男子学生の前で立ち止まった彼は、そのいかつい容姿からは考えられないほど小さな声でつぶやいた。


「伊藤。もし良かったらなんだが……数学教えてくれないか?」


 三島の声は妙に色っぽくて、近くの女子生徒がバタバタと倒れていくなか、三島は謎の男子学生もとい伊藤くんを見つめていた。


 一方、頼まれた伊藤本人はすごく嫌そうな顔をしていたが、断りきれなかったようで三島の席に行ってしまった。


『いや…………これは、どういうこと!? 俺は一体何を見せられているのだろう……』


 俺は思わず頭痛を感じ、頭を押さえながら視線を戻すと、俺の胸元あたりには茶色のふわふわがあってすごくいい香りがする。そして、彼女はガッツリと俺の手元のディスプレイを覗き……


「あ……いざわさん?? な、何を覗いているの?」


 その声に瞬時に反応した彼女は、一瞬で自分の席に戻り、誤魔化すように窓の外を眺めていた。


「今、覗いたよね、藍沢さん?」


「の、覗いてなんかないですよ……」


 その不自然な敬語に、震える小さな声。覗いていると言っているようなもの。さすがにこれは、文句を言わなければならない。俺は「今回ばかりは……」と言うと、藍沢さんがいきなり……


「野村くん、スマホ触るなんていけないよ!!」

 

 藍沢さんがいきなり大きな声で言うから、俺がびっくりしたのもそうなんだけど、廊下からひょいっとおじさんの先生が覗いて。


「おっ、野村はスマホか??」


 とニヤリと言った。


『藍沢さん、俺を売りやがった!!』


 よりにもよって怒るとめんどくさい先生に。

 俺は藍沢さんを睨んでいると、藍沢さんが……


「野村くんじゃないです! スマホをしていたのは私です!!」


「藍沢が? にわかに信じられんな。よくわからんから二人とも来い!」


 俺が心底げんなりしている中、なんだか藍沢さんは心底嬉しそうだった。これから怒られに行くんだけど?? でも、藍沢さんの嬉しそうな顔——自然な笑顔は、とても輝いていて文句を言う気にもなれなかった。


 俺はやれやれと立ち上がると、先生のいる廊下まで歩く。「じゃあ行くぞ」と先生が言ったところで、後から叫び声が聞こえる。


「先生! 私も歩きながら電話してますよ!!」


 3人が振り向いた先にいたのは……




 みっともない沙奈の姿だった。



「お前持ってんのリモコンだぞ? はよ教室もどれ!」


 沙奈は、手元を見て顔を真っ赤にすると。


「うぇええええん。なんでリモコンなのよー!!!!」


 沙奈はその場に崩れ落ちていた。

  


—————————————————————————————

 突然の二日連続投稿!! (これ引っ張るのはまずいと思いました)


 また、ここ2話で色々なことが同時多発する内容になってますが、描写に自信がないので、話が伝わっているか自信がないです。なので、話としてよく分からない部分があれば遠慮なくコメントして下さい。(何もなくてもコメントは募集中です)

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