第14話 ボヤ騒ぎの結末は……


【あらすじ】

物語の概略、まとめ。

野村裕太が置かれている、ちょっと前の状態を簡単にまとめたもの。前回の復習をして次の話にスムーズに繋げる役割がある。ただ、用語コーナーなんてやってるんだからロクに機能していないことは明らかであり、存在意義は微妙である。


ちなみにこの用語コーナーはこの話にも、その他もろもろにも一切関係はございません。







 金髪をまとう彼女は、俺の目を見上げるように見つめていた。


「好き……」


 その声は小さく、はかなくて、いつものような強気の雰囲気は微塵みじんも感じられない。それはまるで昔の沙奈を見ているようだった。

 でも、口にしたその言葉には、主語が無くて俺には意味がわからなかった。


 エオン内のカフェで、三人はそれぞれのコーヒーを抱えて座っている。ゆったりとした雰囲気が漂うカフェの中で、なぜか俺たちの周りだけ変な空気が流れていた。


 となりに座る沙奈の雰囲気がおかしいのはなおのこと、正面に座る藍沢さんは、沙奈に何か言いたげに口をぱくぱくさせているけど、何も聞こえてこない。むしろ必死さだけが顔に出ていて、「水揚げされた魚の真似」をしている以外に考えつかない。

 

 もしかしたら、あの映画には女の子をおかしくするような呪いでもかかっているのかもしれない。なんて変なことを考えていると、呪いにかかった沙奈が俺の手を掴んだ。


 沙奈の手のひらは小さく震えていて、でもギュッとしっかり握ってきた。


「私は……」


 沙奈のその一言で、藍沢さんはギュッと目をつむり、これ以上聞きたくないと耳をふさぐ。その雰囲気に当てられて、俺まで息を呑んで次の言葉を待つと……



「沙奈はコーヒーが好きなんだよねー」


 その短髪さんは軽やかな動きで俺たちに近づき、ポンっと沙奈の肩に手をのせた。

 その声は、話を遮るかのようにわざとらしく明るくて、聴き馴染みのある現金な声が愛おしくて仕方なかった。


「坂本さん! どうしたの?」


 俺は坂本さんを嬉々として見ると、彼女は俺に軽くウインクを返した。息苦しい雰囲気を颯爽さっそうと解決してくれる、さすが姉貴!


「私も映画を見に来ててね! でも、沙奈は本当にコーヒーが好きだねぇ」


 坂本さんは沙奈をのぞき込んで共感を誘う。だけど沙奈は迷惑そうにそれを避けた。


「え、いや、そうじゃない……」


 その反応に、目を丸くした坂本さんは「ちょっと、沙奈どうしたのよ? らしくないじゃん」と問いかけるも「そんなのどうでもいい……」とはね除けられてしまった。


 坂本さんは、そんな沙奈をじっと見つめると不思議そうな顔をして首を傾げた。だけど、すぐにいつものサバサバ笑顔に戻す。


「それで、野村くん。ちょっと、藍沢さんと沙奈に用事があるんだけど、借りてもいい?」



 呼ばれた二人がビクッとしたのに気付かなかった俺は「どうぞどうぞ」と気前よく返事した。


 話しかけてきたっていうのは用事があってのことだろうし、仕方ないよね。


 坂本さんは「じゃあ行こうか」と言うと、二人を連れてエオンのどこかに消えていった。



* * *


 私と金髪さんはカフェの一階上、三階のベンチまで引っ張られて、坂本さんが「まあ、座ってよ」って言うから二人並んでベンチに座った。


 となりに座る金髪さんは俯いたままだし、前に立つ坂本さんとも仲良しではないからすごく気まずい。


 坂本さんは私たちそれぞれに目を合わせ、「えっと、確認なんだけどさ」と気まずさ混じりの声で前置きをすると


「二人とも野村くんが好きって事で間違いない?」


 オオタニサンもビックリなストレートが飛んできた。そんなの、すぐに答えられるわけなくて、逃げるように下を向く。


「二人とも否定しないなら好きって事でいいね」


 坂本さんは「逃げ場は無いよ」と言ってるかのように、畳み掛けてくる。そんなの、否定できるわけ無いよ……

 隣の金髪さんはというと、相変わらず俯いたままだ。だけど、さっき告白の一歩手前までしてたんだ。好きじゃないわけがない。

 

「それで、沙奈? さっきのことなんだけど、ちょっと頭冷やしたほうがいいよ。今告白したら間違いなく後悔するよ?」


 相変わらず下を向いたままの金髪さんから小さなつぶやき声が聞こえてきた。


「でも早くしないと、祐太が死んじゃう……」


 金髪さんは後悔することは否定しなかった。つまり、さっきのは実らないこと覚悟の上での告白で、それだけ野村くんへの想っているんだ。一方私はといえば、告白を黙ってみることしか出来なかった。


「でも、焦るのも良くないよ?」


「早くしないと取られちゃう……」


 金髪さんは口調を変えずにそう言った。だけど、金髪さんの敵対心を感じて、私の体は震え上がった。まるで黒く光る銃口が私の胸元に向けられているような緊張感。生きた心地なんてしなかった。


「それなんだけどさ!」


 坂本さんはやけに大声で口にした。まるで、私たちの険悪な雰囲気を壊すかのように。


「二人で停戦協定を結ばない?」


「ていせんきょうてい?」


 私が「停戦協定?」と聞き返す前に、金髪さんが声を発していた。顔を上げた彼女は、まるで泣き止んだ子供のように、顔を真っ赤にしながらも、大人しかった。


「そう! もし今、沙奈が告白しても。それに危機感を覚えた藍沢さんが告白しても。いい結果にならないと思うんだ」


 私はギクっとした。坂本さんに心の中を見透かされて、告白を牽制されてしまったからだ。でも、彼女の話に反論はなかった。私の心の中には、今のままでもいいやって想いがあって、今すぐには話を進めたくないって言うのが本音だ。でも、金髪さんが嫌だと言ってしまえば……


 だけど、金髪さんは頷くだけで何も口にしなかった。


「だから、えーと、じゃあ三ヶ月間! 夏休み明けるまでお互い告白はしない。どう?」


「私はいいよ……」


 私はすぐに肯定を口にした。そして隣の金髪さんは……


「わかったわ。受けてたとうじゃないの、この勝負!」

 

 ベンチから立ち上がり、声高々に胸を張った。その姿は、いつも通りの自信満々で少しウザい金髪さんだ。


「おっ、いいねぇ!」


 坂本さんは興味ありげに食いつく。対照的に、沙奈は冷ややかな目線を向ける


坂本さんは茶化さない! こっちは結構真剣なんだから! ねえ?藍沢さん」


「うん! そこだけは茶化してほしくない……」


 坂本さんはつまらなさそうに「はーい……」と返事をした。その間延びした声を横目に、いつもの自信満々の金髪さんは、私をしっかりみると……



「私、絶対負けないから! で、でも、三ヶ月間仲良くしてあげないこともないわよ?」


「私も負けない! でも、三ヶ月の間よろしく……」


 私たちはお互いに手を握り合った。こうやって顔を見ているとなんだか、金髪さんとは仲良くできそうな気がする。だけど、三ヶ月後には……



 私はその手をより強くギュッと握った。


 これから、負けないと言う誓いを込めて。





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【お知らせ】


作者は「カクヨムWeb小説短編賞2020」の応募作品も投稿しております。

ちょうど最終話が、この話と同時投稿されていますので、こちらのほうも読んでいただけると幸いです。


「もう存在しない場所を、先輩と」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054970594513




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